第154回:ピュア内燃機関最後のきらめき
2019.12.10 カーマニア人間国宝への道「488ピスタ」に初試乗!
令和になってからフェラーリを買ったと名乗り出てくれた10名さまの中に、26歳で「456GT」を買ったT青年がいたことにうれし泣きしたことは前回書きましたが、この10名さまの中には、最新の激速フェラーリ、「488ピスタ」オーナーさまが2名いたことも衝撃でした。まさにフェラーリオーナーの2極分化!
そのひとりは、私とほぼ同年代、20年来の顔見知りであるBunbunさん(58歳医師)。実は彼は、私が11年前に出会ってホレ抜いたヨーコ様(黒の「328GTS」)の前オーナーでもある。
彼は黒の328GTSを振り出しに順調にステップアップして488ピスタにたどり着き、逆に私は迷走を重ねて黒の328GTSにたどり着いてしまったわけです。単に年収の伸びの差かもしれませんが。
そのBunbunさんの488ピスタに、ちょっとだけ試乗させてもらいました。
私儀、488ピスタに乗るのは初めて。なにせ日本国内ではオーナーさまに借りて乗るしかないおクルマだ。ただ、どこかナメていた部分もあった。
「488GTB」は、ものすごく速いけれど、スピード感がない。シャシーが勝っていて安定しすぎているから。それはフェラーリにとって致命的!
本物の快楽は、死と隣り合わせでなくてはいけない。少なくとも死の気配くらいは感じられなくてはいけない。なのに488GTBにはそれがナイ! そんなフェラーリいらない! 買えないけど。
488ピスタは、その488GTBをベースにスペチアーレ化したマシンなので、そんなに大したことはなかんべぇと思っていたのです。
殺人的なドッカンターボ
Bunbunさんも、488ピスタを買うつもりはなかったとおっしゃいます。
Bunbunさん:僕はずーっと328と「F355」で満足してたんですよ。でも「458イタリア」に乗り換えてみてブッ飛んで、「458スペチアーレ」にしてみたらさらに最高にすごかった。もうこれが最終兵器だと思ってたんだけど、オープンもいいかなって「スクーデリア スパイダー16M」にしたら、あまりの遅さにビックリしちゃって、それで今回488ピスタに乗り換えたんです。
スクーデリア スパイダー16Mの遅さにビックリしたということにこっちがビックリするが、つまり速さは相変わらず麻薬だということか。
私:で、488ピスタはどうですか?
Bunbunさん:これはすごいですよ。最高です。
どのように最高なのか、占有した大駐車場内で、私もフル加速をかまさせていただきました。
「なんじゃこりゃ~~~~~~~!」
まさに生涯最高の加速感。488GTBはフラットトルクで加速感に山がなかったけど、488ピスタは5000rpmあたりからのトルクの山が殺人的! まるで大砲のタマになったみたいにずどーんと撃ち出される! 助手席に座ったオーナーも、「うひょ~~~~~~~! 助手席の加速感のほうが運転席より何倍もスゲエ! こんなにすごかったのかぁ!」と大コーフンだ。
これはイイ……。これぞターボ! このドッカン加速こそ男のターボだ!
ここまでトルクの山が明確だと、もう「ターボでフェラーリサウンドが消えてうんぬん」とかそういう細かいことは吹っ飛ぶぜ! そんなこと考える余裕もないし! これぞ「288GTO」や「F40」の血脈!
強烈な合成麻薬レベル
720PSの2輪駆動でフル加速をかますと、当然後輪がスリップするわけですが、そのスリップ制御が実に心憎く、20%くらいキッチリ空転させてくれちゃってて、それに超絶加速による強烈なGが加わって、F40みたいに「直線でスピンするぅ!」というヤバい快楽がビンビン! もちろん直進性はみじんも揺るがないんだけど、でも本能的に「これはヤバすぎるだろ!」というアラート信号が脳内に鳴り響く。
試しに、私が「GT-R」の2020年モデルに乗り、488ピスタと加速を比べてみたところ、見事にチギられた。時速10kmからのローリングスタートとはいえ、2輪駆動でGT-Rより明らかに速いんだから狂ってる!
ハンドリングも488GTBより断然シャープで、曲がりすぎるほど曲がる。完全に危険なレベルで曲がる。まさに強烈すぎる合成麻薬! クルマが勝手にいろいろやってくれてるとかなんとか、速すぎてそんな細かいことまでわかりましぇん!
個人的には、フェラーリは自然吸気のフェラーリサウンドあってこそだと考え、V8ミドシップマシンに関しては「458で終わった」と公言してまいりましたが、こういうのならターボもステキ!
フェラーリのV8ミドシップモデルは、今年発表された「F8トリブート」を最後に、ハイブリッド化されるのが既定路線と聞く。ハイブリッドになる前の最後のきらめきとして、488ピスタは実に素晴らしい!
しかしこのクルマ、新車の販売はもう終了しているし(特別な人しか売ってもらえないけど)、中古相場はなんだかんだで6000万円前後であるらしい。
いや、もう何も言いますまい。私は一生328に乗りますから。
(文=清水草一/写真=池之平昌信、木村博道/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。