ランボルギーニ・ウラカンEVOスパイダー(4WD/7AT)
想像以上にエボリューション 2020.01.20 試乗記 モデルライフ半ばの改良が施された、イタリアンスーパースポーツ「ランボルギーニ・ウラカン」。最新型のオープンバージョンに試乗した筆者は、マイナーチェンジという言葉では言い尽くせない劇的な進化に驚かされたのだった。快適なクルーザーでもある
ランボルギーニに乗れる機会を得て喜ばないクルマ好きはいない。実際、派手なグリーンメタリックにペイントされた「ウラカンEVOスパイダー」を運転していて、うれしくてしょうがない。いまにも雨が降り出しそうな重たい雲の下、それでも約17秒で素早くソフトトップを開けると、さっそうと首都高速に駆け上がった。交通はほどほどに流れていて、「台風(Huracan)」の名を持つスーパースポーツも行儀よく列に連なる。
驚くのはそのマナーのよさ。いや、路上のドライバーの皆さまのではなく(それもあるけど)、後ろに積んだ5.2リッターV10エンジンの。8000rpmで640PSの最高出力を発生するそれは、60km/h付近でユルユル走っていても、1500rpm前後で軽いハミングを聞かせるだけ。グズつくそぶりも見せない。大排気量の多気筒エンジンに、ズラリとキャブレターを並べて混合気を吸わせていた時代には考えられない従順さである。
渋滞区間で、一時停止からソッとスロットルペダルを踏んでやると、7スピードのデュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)は文字通りアッという間に3速までギアを上げ、なんと50km/hを超えるころにはすでにトップギアに達している! 素早いシフトアップで実質的なハイギアードとしているのだ。ランボルギーニ・ウラカンEVOスパイダーのカタログ燃費は欧州複合モードで14.2リッター/100km(約7.0km/リッター)。早めにギアを上げるDCTのプログラムに「感謝」だろう。そのうえ一昔前にはスーパーカーに搭載する機能として冗談のネタだったアイドリングストップさえ実装する。
混雑が緩和され、トップギア100km/hで巡航すると、エンジン回転数は約2400rpm。バンク角90度の10気筒は、4輪に過不足ない駆動力を配分して、1750kg(車検証記載値)のエンジンキャリアをしずしずと運んでいく。ランボにしては控えめながら、魅力的な排気音が後方から直接ドライバーに降ってくるのが、オープンウラカンの特権である。
ソフトトップを下ろしていても、両サイドとリアのガラスを上げておけば、運転者は頭頂の髪がサワサワと風になぶられるだけ。3段階に調整可能なシートヒーターと強力なエアコンの恩恵で、車内は時に暑いほどに暖かくなる。2代目のベビースパイダーは、意外にも、頭寒足熱の快適な高速クルーザーなのだった。
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改良の要は電子制御
ランボルギーニ・ウラカンのデビューは、2014年。1万4000台を超える生産台数を誇った同社希代のヒット作「ガヤルド」の後任である。
アウディ傘下に入って初のブランニューモデルであったガヤルドは、フォーリングス自慢のアルミスペースフレームボディーに、当初5リッターV10(500PS)を搭載。4WDシステムには簡素だが実用的なビスカスカップリングが採用された。前後輪の差動を粘性で抑制するパッシブ四駆である。フロントに動力を届けるプロペラシャフトは3分割され、重心が高くなるのを防ぐためエンジンの横に置かれる。ガヤルドのエンジン搭載位置がセンターからズレているのはそのためである。
「毎日乗れるスーパーカー」がガヤルドのコンセプト。その狙い通り、「アウディか!?」と見紛(まご)うばかりの使いやすさと信頼性の高さが裕福なユーザーたちに評価され、大きなヒットにつながった。
バトンを受けたウラカンは、アルミに加え、フロアトンネルとリアバルクヘッド(隔壁)まわりにカーボン素材を用いたハイブリッドボディーに進化した。ホワイトボディー単体では200kgを切るという軽量さ。ガヤルド後期で5.2リッターになったV10エンジンを引き継ぎながらも、パワーは560PSから610PSに、トルクは540N・mから560N・mに引き上げられた。アウトプットの増大だけではない。燃料噴射に、筒内直噴とポート噴射を併用または使い分ける工夫を施して、燃費・環境性能の向上を図っている。トランスミッションは、ギアチェンジの際の息継ぎを嫌ってシングルクラッチのロボタイズドタイプが捨てられ、スムーズかつ素早いシフトが身上のデュアルクラッチ式に変更された。
4WDシステムには、電制多板クラッチを用いたハルデックスユニットが使われるようになり、アクティブなコントロールが可能になった。駆動力配分は、前後30:70をベースに、50:50から0:100まで可変する。細かいことだが、ショックアブソーバーに磁性流体ダンピング制御が採り入れられ、硬軟がよりダイナミックかつ迅速に変わるようになったのも新しい。一見、成功作をなぞったスキンチェンジと思われがちなウラカンだが、ことほどさように新しいテクノロジーを採り入れている。要点は、各部の電子制御化である。
今回の試乗車、実質的なマイナーチェンジ版であるウラカンEVOスパイダーが登場したのは2019年。2014年からの5年間で、スパイダー、後輪駆動モデル、そして軽量高性能な「ペルフォルマンテ」とウラカン一族は順調にバリエーションを増やしてきた。ウラカンEVOは、エアロダイナミクスをさらに洗練させ、ペルフォルマンテゆずりの640PSエンジンを搭載。つまり、最高出力は従来型より30PSアップ、最大トルクも40N・m太い600N・mになった。後輪も操舵する4WSや駆動力を左右に移動させるトルクベクタリング機構を備えて、シャシーコントロールの幅も広げている。
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フツーじゃないのがクール
EVOスパイダーのボディーサイズは、全長×全幅×全高=4520×1933×1180mm。「レクサスLC」より250mm短く、幅も13mm広いだけといったら、国内での使い勝手が想像できるだろうか。存在感の強さのわりにコンパクトと感じる人も多いだろう。
クーペとスパイダーで動力系のスペックに違いはない。オープンモデルは120kg重量が増しているので、0-100km/h加速がクローズドボディーより0.2秒落ちの3.1秒になっているが、そのことに不満を漏らすオーナーはいまい。
フロントバンパーにウイング形状が組み込まれ、ボディー底面のエアフローが見直され、リアのディフューザーが迫力を増したウラカンEVO。高めの位置に突き出されるマフラーエンドは、ジェット戦闘機の排気口のよう。スピードの具現である。
室内はまんまアニメから飛び出てきたかのような劇画調デザインでまとめられ、「子どもっぽい」とか「上質感に欠ける」といった批判を蹴飛ばし、ひとまわりして(!?)クールだ。ハイエンドブランドならではのワガママですね。その延長線上で、ウインカー、ワイパー、はたまたシフトポジションまでボタンになっていて、センターコンソールにはトグル調スイッチが一列に並ぶ。中でも真っ先に覚えなければならないのが、ノーズを30mm持ち上げてフロントのクリアランスを増やすスイッチだ。4252万5012円のクルマのアゴを擦りたくはないから。
左ハンドルのミドシップなので右斜め後方は構造的に見えないが、リアウィンドウを通しての後方視界は存外いい。街乗りでも思いのほかストレスなく走ることができる。ただしソフトトップを開けても、空が広がって車内は明るくなるけれど、乗員頭部の後ろには2コブのフェアリングが設けられるので、クローズド状態からの視界向上はない。小さなリアガラスが電動で上下できるのはご愛嬌(あいきょう)。
サーキットでなくとも満たされる
前述の通り、通常ドライブでのEVOスパイダーはむしろおとなしいスポーツカー……というのは言い過ぎにしても、フェラーリのV8ミドシップモデルと変わらぬ程度のカジュアルな雰囲気で運転できる。メーカー自製のプロモーションフィルムを見ると、スタイリッシュな奥さまが買い物の行き帰りにEVOスパイダーのステアリングホイールを握る様子が描かれる。実車の乗りやすさに接すると、なるほど、ランボルギーニは本気で「その世界」を目指していることがわかる。
フィルムの続きは、山岳路で旦那のクーペとデッドヒートの“まねごと”を楽しむシーンになるのだが、これまたまったくその通り。穏やかに走っているEVOスパイダーも、ひとたびスロットルペダルを踏み込めば、象の雄たけびのごとき爆音を発して、はじかれたような加速を見せる。ステアリングホイール下端にうやうやしく設けられたボタンでノーマルの「STRADA(ストラーダ)」から「SPORT(スポーツ)」にドライブモードを変更すると、エンジン、シフトタイミング、足まわり、そしてステアリングのパワーアシストがわかりやすくアグレッシブに変化し、高まったエキゾーストサウンドが、いささか気の小さいドライバーを鼓舞してくれる。ホント、ランボルギーニは劇場型スーパーカーですね。
運転している本人をも驚かせる強力な加減速もさることながら、心底感心させられたのがハンドリングのよさ。「本領を発揮させるにはサーキットに持ち込むしかない」というのがこの手のクルマの決まり文句で、たしかにその通りだが、ウラカンEVOスパイダーの場合、ちょっとした山道で軽く走らせるだけでも、存分に楽しめる。
スポーツモードの、クルマ全体で路面にかみつかんばかりのレスポンスは少々過剰なので、あえてストラーダに戻して、ドライバー的には腹八分、クルマとしてはウオームアップにもならない強度でのスポーツ走行を続ける。電動アシストを意識させない自然なステアフィール。運転者の操作に間髪入れず反応するシャープな動き。狙ったラインをそのまま切り取っていくかのようなトレース性。右に、左に、とカーブをこなしているうちに、V10ミドシップのモンスターであることを忘れ、「軽快」という言葉が頭に浮かんできてビックリする。
こんなランボルギーニは初めて
ウラカンはEVOになって、アウディの「アウディドライブセレクト」にあたる車両統合制御システム「ANIMA」に加え、4輪操舵、トルクベクタリングを含むシャシーコントロール機能「LDVI」を搭載。4WDのアクティブ制御と併せ、クルマの挙動を自律的にコントロールできるようになった。各部の電制化を推し進めた恩恵である。
イタリアンスポーツカーメーカーがすごいのは、車両の挙動コントロールを安定方向にとどめることなく、各種センサーからのパラメーターを基に、ドライバーの意思の「先読み」を狙っていることだ。ドライバーが曲がりたいラインをクルマが忖度(そんたく)して、ソッと手助けしてくれるわけである。
エンジンのミドシップマウントは、言うまでもなく旋回性向上を図ったレイアウトだが、メリットを享受するには、ある程度速度をのせて、曲がる前にしっかりフロントに荷重して、前輪を路面に押し付けるようにして曲がらなければならない。本来の性能を引き出すには、一定のウデが求められるわけだ。そのうえ市販車は万が一にもスピンしないよう安全マージンが大きく取られるので、漫然と運転していると、「なんだかダルで曲がらないクルマだなァ」と感じかねない。
そんな“ドライバーの腕前の壁”を、ウラカンEVOスパイダーはかなり破ることに成功している。電子制御の力を借りて、普通のドライバーにミドシップスポーツ本来の価値を提供して、「エキゾチックカーとしての記号」以上の喜びをオーナーに与えているのだ。「こんなに思い通りに走らせられるランボルギーニは初めてだ!」という驚きと喜びの裏には電子の網が広がっている。16年の歳月を経て、10気筒の猛牛は、「毎日使えるスポーツカー」から次のステージに移っていた。
(文=青木禎之/写真=宮門秀行/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンEVOスパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1933×1180mm
ホイールベース:2620mm
車重:1542kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640PS(470kW)/8000rpm
最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/6750rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.2リッター/100km(約7.0km/リッター 欧州複合モード)
価格:3611万0362円/テスト車=4252万5012円
オプション装備:パールエフェクト<ボディーカラー>(159万6540円)/Narvi 20インチ鍛造アルミホイール<シャイニーブラック>(75万3060円)/スマートフォンインターフェイス&コネクト(40万6780円)/グリーンキャリパー(15万0590円)/カーボンスキンパッケージ(45万1880円)/ランボルギーニサウンドシステム(42万1740円)/アンビエントライトパッケージ(12万8150円)/フロアマット<レザーパイピング>(7万5350円)/オプショナルステッチ<ステアリングホイール>(3万0140円)/コントラストステッチ(10万5490円)/電動シート+シートヒーター(36万1460円)/スタイルパッケージ<フルスペック>(33万1430円)/EVOトリム(30万1290円)/ウインドスクリーンフレーム<ハイグロスブラック>(4万5320円)/防げんミラー(12万0450円)/リアビューカメラ(24万1010円)/刺しゅう入りヘッドレスト(11万2970円)/鍛造ドアシルガード(13万5630円)/ダーククロームパッケージ(30万1290円)/本革ルーフライニング&ピラー(15万0590円)/タイヤ空気圧モニター(11万8140円)/128GBハードディスク(7万5350円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1200km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:286.0km
使用燃料:60.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:4.7km/リッター(満タン法)/5.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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