第197回:ホンダeで電費アタック
2021.01.04 カーマニア人間国宝への道スーパーカーの次はEVだ
バイデン氏に当確が出、世の流れが一気に電動化に傾いた日、わがほうは「フェラーリ328GTS」と「ランボルギーニ・カウンタック」という鉄壁の化石燃料車ラインナップが完成し、もう化石は究めた! 次は電動化だ! という気分になった。
現状、真に欲望を刺激されるEVはないけれど、それに一番近いのが「ホンダe」だ。ホンダeはスタイリッシュだし小回りが利くしバッテリーは水冷式。サイズも手ごろでちょうどいい。
WLTCモード電費は、上級仕様の「アドバンス」だと7.3km/kWhという計算になるので、「日産リーフ」の40kWh版が掲げる電費の8.0km/kWhに比べると1割ほど悪いけれど、スタンダードモデルならリーフとほぼ同じ。「ホンダeは電費が伸びない」という話はチラホラ聞こえていたが、それはたぶん広報車がアドバンスばっかりというのが主要因なのでしょう。
化石燃料車の燃費は、単におサイフの問題だったりするけれど、電費はEVの実用性のカギを握るキモ。ちょうどホンダeアドバンスに乗れる機会があったので、真剣に電費を測定してみることにしました。
これまでいろんなクルマの燃費を測ってきたけれど、実はEVについて真剣にやるのは初めて! 電費の単位にまるで勘が働かなかったんだけど、「7km/kWh以上だとイイ」「5km/kWh以下だと悪い」くらいを目安に、首都高と東名を走ってみました。
一充電で300km以上走れる?
まず、第一印象。弊社近くのコインパに置かれたワインレッドのホンダeを見た時、「貴族だ!」と感じた。なにせデザインがシンプルで美しい。「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」と呼ばれるボディーカラーもとってもエレガント。コイツなら、328やカウンタックと並べるのにふさわしいかもしれぬ。
乗り込んだ時点での平均電費は5.9km/kWh。うーむ、イマイチだな。ここまで乗ってきたのは弊社安ド二等兵。彼はだいたい燃費が悪いので仕方あるまい。
永福ランプから首都高に乗り入れて、一路横浜を目指す。いきなり若干の渋滞があり、その後はひたすら走行車線を前車についてのんびり巡行。車載の平均速度計は60km/hと出たけれど、感覚的には「70km/h平均」でした。
すると平均電費は、オドロキの9.8km/kWhと出たぁ! すげえっ! WLTCモードを大幅に上回ってるじゃんか! このペースで淡々と走れば、充電ナシで300km以上走れる計算だ!
全日本国民車評議会議長を名乗っている伊達軍曹はホンダeで仙台まで走ってみて「EVに慣れてないのでバッテリー切れが怖くて、途中4回も充電しちゃった」っつーけど、ものすごぉく頑張れば、仙台まで(約390km)充電なしで行けるのかも!?
いや、実際はですね、仙台に家があるわけじゃないので、真っ白な灰になるまでバッテリーを使い果たしても30分の急速充電しかできず、悲しい尺取り虫になってしまうのですが、可能性としては仙台はともかく、福島まで(約310km)は(1回の満充電で)行けるのかも!? 東北道を平均70km/hで巡行するのはものすごくメーワクだし現実的ではないけれど、一応可能性としては!
新東名の120km/hが実現したばっかりだっつーのに、電動化とともになんだかものすごい低速社会が到来しそうで怖い……。
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ホンダeはやっぱりシティーコミューター
そこで今度は、東名を100km/hくらいで走ってみることにした。追い越し車線を前車に従ってブイーンと走ったイメージです。車載の平均速度計は79km/hしかいかなかったけど、気持ちとしては「100km/h巡行!」でした。
すると電費は、6.4km/kWhに急降下。一気に35%も下がってしまった。化石燃料車ではありえないこの急落ぶり、走行抵抗がほとんど空気抵抗のEVならではの現象だ。
ここから速度を120km/hまで上げると、空気抵抗は速度の二乗に比例するので44%増加して、電費はさらに3割くらい下がるだろう。すると満充電からの航続距離は、たったの160kmくらいになる。多少の余裕をみると130kmくらいでカラータイマーがつく。SAで30分急速充電して20kWh充電しても、新東名を120km/hで走れるのは90kmぽっち!
私は、近所の日産ディーラーで急速充電しながら、「ホンダeはシティーコミューターです」というホンダの考えは正しい、としみじみ思った。現状の行動範囲は首都高の範囲内くらい。首都高くらいの遅めの速度なら200km以上走れるし。
でも、そういうクルマに400万円以上なんて到底出せない。全固体電池の実用化を待つ! デザインはこのままでいいです。というよりこのままでお願いします。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。