スズキやダイハツはどうなる? 各社の意外なフラッグシップモデル
2022.06.15 デイリーコラムジャンルごとに存在する旗艦
旗艦という古めかしい言葉が最近ニュースをにぎわせた。4月14日に沈没した巡洋艦「モスクワ」が、ロシア黒海艦隊の旗艦だったのだ。ウクライナは対艦ミサイル2発で撃沈したと発表したが、ロシアは単なる火災だと主張している。真相がどうなのかはともかく、ロシアの面目が丸つぶれになったのは事実だろう。司令部が消失し、制空権に多大な影響が及ぶ。士気が低下するのも避けられない。
小売業で中核店舗のことを旗艦店と呼ぶように、軍事用語から転用されて一般名詞として用いられる場合もある。自動車業界では英語のフラッグシップを使い、ブランドを代表するモデルを示す言葉として使われてきた。例えば、メルセデス・ベンツなら「Sクラス」がフラッグシップモデルだ。歴史のある高級セダンであり、今も世界の頂点に君臨する。BMWなら「7シリーズ」、アウディなら「A8」というのが了解事項だ。強力なエンジンを搭載する堂々としたボディーのセダンがフラッグシップと呼び習わされてきた。
かつてはセダンが自動車の標準だったからそれで問題はなかったが、現在ではいささか複雑な状況になっている。SUVが主流となっていて、セダンは肩身が狭い。メルセデス・ベンツは「GLS」のことをフラッグシップSUVと表現している。Sクラスはフラッグシップセダンであり、ジャンルによって複数のフラッグシップが並び立つ事態になっているのだ。
価格的フラッグシップというケース
トヨタでは「クラウン」「コロナ」「カローラ」をラインナップし、クラウンがまぎれもないフラッグシップだった時代がある。明確なヒエラルキーが設定されていたのだ。セダンだけならば単純明快だったが、時代とともにさまざまな車種が販売されるようになる。さすがにハッチバックは高い地位を占めることにはならなかったものの、SUVの登場はかく乱要因になった。1997年に「ハリアー」が発売されると、ベースとなっている「カムリ」との上下関係が分かりにくく、モデル序列は不明瞭になっていく。
トヨタにはショーファードリブンの「センチュリー」もあるが、特殊なモデルなのでフラッグシップと呼ばれることは少ないようだ。後席のおもてなし度が高い「アルファード」も、トヨタのフラッグシップを名乗るのは違和感がある。クラウンのフラッグシップの座は安泰のようだが、次期モデルがSUVになるといううわさがあり、その場合は下克上があるかもしれない。
日産にも風格と気品を備えたセダンがある。1988年に「セドリック/グロリア」の上級版として登場した「シーマ」だ。“シーマ現象”なる言葉を生み出したプレミアムセダンだが、「フーガ」とともに生産終了が決まっている。2021年の販売台数は75台で、フラッグシップには力不足の感があった。セダンとしては「スカイライン」が残るが、さすがに格が落ちる。「日産GT-R」もちょっと違うから、新たなフラッグシップは電気自動車(EV)の「アリア」と考えるのが妥当だ。現時点でEVはエンジン車よりも価格が高くなりがちなので、価格的なフラッグシップがEVになるケースは増えるだろう。2022年夏以降発売とされる特別仕様車「アリアB9 e-4ORCEリミテッド」(大容量バッテリー搭載のツインモーター4WD)は790万0200円だ。
そういう意味では、「レジェンド」が生産終了したホンダのフラッグシップは「ホンダe」(451万円~495万円)ということになる。「アコード」(465万円)よりも高い。マツダには中型セダンの「マツダ6」(289万3000円~429万5500円)があるが、時代を考えると「MX-30 EVモデル」(451万円~495万円。ホンダeとピタリと同じ)のほうがふさわしいかもしれない。電気自動車がフラッグシップというほうが、先進的なメーカーに見えるというメリットがある。
軽が主力のスズキとダイハツは?
スバルと三菱は、いずれもクロスオーバーSUVがフラッグシップだと考えられる。スバルは「レガシィ」の国内販売がなくなっており、「WRX」「レヴォーグ」には荷が重い。「レガシィ アウトバック」に後を任せるのがよさそうだ。「デボネア」「ディグニティ」「パジェロ」を失った三菱は「アウトランダー」だろう。最上級に位置づけられるプラグインハイブリッドモデルが、現時点でのフラッグシップと見ていい。社長車も新型アウトランダーだという。
扱いが難しいのが、スズキとダイハツだ。主力となっている軽自動車をフラッグシップと称するのは無理がある。両社とも登録車を販売していて、そのなかから見つけるのがいいだろう。スズキには「キザシ」という4ドアセダンがあったが、2015年に生産終了。「ジムニーシエラ」という線も捨てがたいが、冷静に考えれば「エスクード」である。ハンガリーで生産されるグローバルモデルで、世界的な知名度は高い。297万円という価格もスズキのラインナップでは飛び抜けて高い。
ダイハツにはセダンの「アルティス」があるが、これはトヨタ・カムリのOEM。逆にトヨタにOEM提供している小型車のなかから選びたい。「ブーン」「トール」も有力だが、自社開発のシリーズハイブリッドシステムを搭載したコンパクトSUVの「ロッキー」がダイハツの顔である。最上級グレードは234万7000円だ。
プレミアムセダンが絶対的地位を保っていた時代は終わり、現在は多種多様なフラッグシップモデルが存在する。必ずしもそのメーカーの販売を支えているとは限らないが、ブランドイメージを象徴する役割を持つ。出来が悪ければメーカーの名誉に傷がつくのだから、艦隊のフラッグシップに劣らぬ重大な使命を担っているのだ。
(文=鈴木真人/写真=メルセデス・ベンツ、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、スバル、三菱自動車、スズキ、ダイハツ工業/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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