第31回:ボルボからオキテ破りの電撃移籍! 豪腕社長はプジョー&シトロエン&DSをどう料理する?
2021.01.15 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズひさびさ小沢コージ、昨年末に勝手に衝撃を受けちゃいました。なぜならここ数年よく取材していた豪腕社長、元ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之さんが突如プジョーやシトロエン、DS、今後はオペルも扱うグループPSAジャパンの新社長に電撃就任! 年始から働き始めてるというじゃあーりませんか。
欧米ならともかく、日本の自動車インポーターで、トップが別の会社のトップに移籍なんて聞いたことがない。いよいよ日本もグローバルレベルで人材流動化してるのか? って驚きとともに、果たして豪腕社長は、ネタを北欧からフレンチに変えてどう料理するのかが気になるところ。
ってなわけで就任2日目にいきなり直撃!
タバレスCEOと同じ会議に出ていた
小沢:正直、こういう話をクルマ業界で聞いたことがないんですよ。活躍した豪腕社長が競合の別会社に入るなんて。
木村社長(以下、木村):日本人では初めてなんじゃないですか。
小沢:僕はボルボ時代に木村社長がとられた戦略がとにかく印象的で、セールスマンのドレスコードとか徹底したCS(顧客満足)活動とか全社員によるサーキット研修とか。ああ、こういう方が海外でMBAを取った論理的なプロ経営者なんだと思って。
木村:ありがとうございます。
小沢:それが昨年社長を辞めたと聞いて非常にもったいないなと。日本市場をよく知る日本人経営者が社長をやるメリットは、客はもちろん僕らメディアにとっても大きいので。まずはオキテ破りの移籍の経緯を教えてください。
木村:私、カルロス・タバレスさん(現グループPSAのCEO)のことは直接知らないんですけど、同じ会議に出たことがあって。
小沢:そうか。木村さん、数年前にインドネシア日産の社長やそのほかアセアンの日産の社長をやられてましたからね。その頃はタバレスさんもルノー日産にいたし、要するに日産時代のコネクションがきっかけなんですね。
木村:どなたかは特定できませんが、(グループPSAには)私の知っている方が何人かいらっしゃった。
小沢:実際に決まったのはいつですか?
木村:発表の直前、12月後半です。
小沢:まさに電撃就任だ。
差別化されたポジション
小沢:一番気になるのはこれからの戦略で、かつてボルボ・カー・ジャパンの時は5年で売り上げ1.6倍、利益で2.2倍という驚異的な好成績を挙げられた。ただし、ボルボの場合は準プレミアムブランドから、ちょうどプレミアムに上がるタイミングだったと思うんですよ。それに比べると今回は、DSはプレミアムですが、プジョー、シトロエンはやはり大衆ブランドです。
木村:そうですね。
小沢:ここ数年グループPSAジャパンは確かに伸びていて、なんとコロナ禍でも2020年は3ブランド合わせて1万5000台超えの販売台数で前年比プラス。リーマンショック後の約1万台からここ5年は順調に伸びているんです。ただ、ボルボのような優良顧客(購買力が高い)の多さなど、分かりやすい狙い目はあるのかなと。
木村:前のブランドと比較するのは意味がないし、フェアではないと思いますが、今回PSAに誘っていただいた時に、データでも知ってましたが、PSAはプジョーを中心とし、既に日本車とかドイツ車に対して差別化されたポジションを確立しているのは間違いない。年頭の社長就任時にも言ったんですが、今「iPhone」も「Android」もロゴマーク外したら商品はさほど変わらないじゃないですか。多様化してるっていうけど実はデジタル化によって逆に中心化が進んでいて、昔に比べていろんなブランドの色が薄くなっている。そんななか、PSAの各ブランドは差別化された非常にいいポジションにいるし、加えて最近商品がすごくよくなっている。
小沢:ここ最近出たプジョーの「208」と「SUV 2008」、シトロエンの「エアクロスSUV」系をはじめ、ですね。
木村:その2つの要素を考えた時にまだまだポテンシャルがあるなと。就任2日目ですが、間違いなく伸びるし、伸ばせるだろうと。
プレミアムじゃなくてもいいクルマ
小沢:とはいえプジョーでかつて日本で一番売れたのは「206」ですよね。
木村:2004年ぐらいがピークだと思います。
小沢:あの時の206って安かったじゃないですか。100万円台後半スタートで、全体的に国産車よりちょっと高かったくらい。しかし今や208は200万円前半から始まり、全体に高級化が進んでいる。かつてとはプジョーやシトロエンの存在が変わってきているのではないかと。もっとも、軽ですら200万円を超える時代ではありますが(笑)。
木村:日本市場の特徴として、本当のラグジュアリーのところはドイツ車とレクサス、そこになんとかボルボが食い込んだという状態だと思います。でもその割に日本車からヨーロッパ車への流れはあんまりなくて、まだまだ取り込めていない需要もあると思うんですよ。成熟国のお客さまに対して、プレミアムじゃないけれど、お客さまにふさわしいいいクルマ。スタイリッシュで性能もよくて、自分をオシャレに演出できて、所有する喜びを満たせるクルマ。日本車に対して値段が少々高くても、まだまだアピールできると思います。
小沢:いよいよグループPSAとFCAがくっついて「ステランティス」になりますが、その影響はありますか?
木村:プラットフォームから含めて、最終的なアウトプットとして商品が出るまではかなり時間がかかる。今なにか言うのは時期尚早かと。FCAとのことは販売現場では当面関係ないんじゃないかって気がしますけどね。
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フランス車の壁をどうする?
木村:年末から少しずつ商品に乗ってみて、ポジティブにビックリしています。まずデザインが素晴らしい! あとは使い勝手ですがプジョーの「iコックピット」のような新しい提案があって実用上の問題もないうえに斬新。それからプジョー、シトロエンのよさって足まわりですよね。これは誰が乗っても明確に分かる。さらに、資料で品質のKPI(重要業績指標)を見ると日本車と変わらないか、それ以上の数字が出ている。フランス車にクオリティーの問題があるなんて過去の話で、そのあたりのお客さまのパーセプション(認識)をどうやって変えていくかはすごく大事だと思います。
小沢:僕はそこが一番のキモだと思っていまして、ある種の「フランス車の壁」というのがある。1990年代からフランス車を見てきましたが、異様に信頼性が高いとか、内装の質感がいいとか、ドイツ車みたいな分かりやすいアウトバーンで鍛えた高速性能みたいなのはないんです。結局のところ、魅力は「ネコ足」と「かわいいデザイン」に終始してしまって、既に一部クオリティーで日本車やドイツ車を超えているところもあるのに、そこがなかなかイメージとして伝わってない。
木村:そこはしっかり伝えなければいけないのと、今はプレミアムブランドが米中市場ばかりを見ているのでクルマが大型化している。その点、PSAのクルマはサイズが適性で非常に有利です。
小沢:あとは高級車ですよね。今はDSが頑張ってますが、やっぱりドイツ車が強い。
木村:そこはフォルクスワーゲン(VW)ですら成功していないし、ドイツ車とひとくくりにするのは無理があります。メルセデス・ベンツやBMWという高級専業があり、VWもアウディとブランドを分けている。DSは非常に正しいアプローチだと思いますが。
小沢:ただ、まだ浸透してないと思うんです。
木村:もちろんもちろん。ただし、レクサスですら先日やっとグローバルで30周年、日本でも15年かけて浸透してきた。あのトヨタがオペレーションしてもやっとそのくらい。そう考えるとラグジュアリー志向のお客さまへの浸透には時間がかかるし、浸透した先もドイツ車ほど数が多く出ないかもしれない。でもラグジュアリーカーは必ずしも台数を追うものでもないし、キチンと価値を理解してくださっているお客さまが「フランスの高級車っていいね」「私のライフスタイルに合っているわ」と感じていただければそれでいいんじゃないかなと。
小沢:なるほど。今回は就任2日目で僕も急ぎすぎましたが、木村社長はPSAに期待しているし、そのポテンシャルの高さに間違いはないと。
木村:間違いないです!
(文=小沢コージ/写真=小沢コージ、グループPSAジャパン、webCG/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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