日産サクラ 開発者インタビュー
ライバル募集中! 2022.05.21 試乗記 日産自動車Japan-ASEAN企画本部
商品企画部 日本商品グループ
リージョナルプロダクトマネジャー
鈴木理帆(すずきりほ)さん
日産自動車が2022年夏にブランド初の軽電気自動車(EV)「サクラ」をリリースする。一充電走行距離はわずか180kmにしか満たないわけだが、そこにはどんな思いが込められ、どんなユーザーをターゲットにしているのか。商品企画のキーパーソンに聞いた。
しっかり走れる2台目に
日産が「リーフ」を発売したのは2010年。世界初の量産型電気自動車ということで話題を集めたが、販売は伸びずに存在感を発揮することができなかった。それから12年、まずはクロスオーバーSUVタイプの「アリア」を発売。さらにエントリーモデルとして世に問うのが軽EVのサクラである。日産の電動化戦略のなかでどんな役割を担うのかを、商品企画を担当した鈴木理帆さんに聞いた。
――初代リーフは普及するには至りませんでしたが、サクラは販売台数を伸ばすことができますか?
リーフは残念ながら、それまで日常的にガソリン車に乗っていた人が乗り換えるにはハードルが高かったのかなと思います。それから時間がたち、クルマとしてもEVとしても進化しました。
――ターゲットは40代の主婦ということですが……。
一応はそういったターゲット像を設定しながら開発してきましたが、もっと裾野を広げて考えています。例えば、地方のガソリンスタンド過疎地で、帰ってきてプラグにつなげば次の朝には乗れるようになっている。遠いガソリンスタンドに行く必要がないんですね。ニューノーマルの時代に対応した使い方もできますので、老若男女すべての方に乗っていただきたいと思います。
――シティーコミューター的な使い方になると思いますが、「デイズ」「ルークス」の代替になるのでしょうか?
デイズやルークスの置き換えにもなりますが、力強い走りはこれまでの軽自動車とは違います。もうワンランク上という感じで、ミニバンを持っている方が2台目もしっかり走れて快適に乗れるというクルマライフを提供できると考えています。
――補助金を含めて180万円弱という価格は、ガソリン軽の最上級バージョンと同じぐらい。それと同じか、上回る質感を目指しているということですか?
そうですね。それに電気代しかかからないので、何年かすると維持費はガソリン車と同等以下になってくるんですよ。競争力が非常にあると思っています。
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違和感なく乗り換えられる
――サクラというのは、これまでの日産にはなかった種類の車名ですね。
日本語の単語を使ったのは初めてですね。EVではアリアから「タイムレスジャパニーズフューチャリズム」という和を基調としたデザインを取り入れていて、サクラでは水引のモチーフを入れました。軽自動車というのは日本特有のクルマですので、日本市場に向けて多くの人に愛されてほしいという思いが込められています。
――アリア、リーフと合わせて3台のラインナップになったわけで、すべてのユーザーに応えられるということでしょうか?
どんなに乗るお客さまでも、航続距離は500kmで十分なんですね。そういった方にはアリアで十分ニーズを満たしますし、アリアでは大きいという方にはリーフ。街乗りメインの方にはサクラでクルマライフは充実すると思いますので、絶妙なラインナップと考えています。
――試乗した印象では、サクラはそれほどEV感が強くありませんでした。
違和感があると、お客さまが二の足を踏んでしまうかもしれません。EVならではの先進感、EVならではの加速のよさを残しながらも、違和感なくシフトできるようにしています。アクセルだけで加減速をコントロールできる「e-Pedalステップ」もクリープが付けてありますから、ガソリン車に乗っていたお客さまも自然に乗り換えていただけるでしょう。
――静かで乗りやすいクルマですが、ドライブの面白さという点ではあまり……。
運転を楽しみたい方には、アリアやリーフがあります。軽自動車には安心・安全を求める方が多いので、そこは意識していますね。サクラにとっては、これが最適解だと思っています。バッテリーがフロアの下にありますから、低重心で安定性が高いんです。
実用性は犠牲にしない
――乗り味を変えないだけでなく、室内空間もデイズと同等なんですね。
EVはバッテリーを載せるから狭くなるだろうなという先入観を皆さん持つんですが、同じパッケージングなのにEVになると狭いというのは嫌ですから。軽自動車は実用性重視の方が多いので、EVだからといって、室内を犠牲にしてはいけないと思うんですね。そこは大前提で。
――もともと広いので、少しぐらい室内高が減っても困らないと思うんですが……。
今のものより悪くするのはダメなんです(笑)。
――今はもっと背が高くてスライドドアのスーパーハイトワゴンが主流ですが、そういうタイプの軽EVも登場するんですか?
将来的にはもちろん考えていければいいと思っていますけど、スライドドアだと重くなるので航続距離に影響してしまいます。まずはオーソドックスなヒンジのクルマでということでした。それ以上はまだ申し上げられません。
――アライアンスを組んでいる三菱からも軽EVが発売されますが、すみ分けについて相談は?
話をしてはいないんです。効率化できるところはしていますが、お互いにつくりたい方向性が違っていますので。テイストの違いがあるので、自然にすみ分けができると思いますよ。
――軽自動車は大きなマーケットなので、三菱以外からもこれから軽EVが出てきますよね。巨人ホンダも、おそらく用意しているのでは?
ホンダさんも出してくると思いますが、それは別に悪いことだとは思っていません。弊社だけでやっているのではなくて、いろいろなメーカーさんが本気でつくってこないと、やっぱり世間的に「いつまでもEVはまだだよね」という感じになってしまう。今はちょうど過渡期だと考えておりまして、みんなが本気で取り組むことで、「やっぱり今EVが注目されているよね、ちょっと一回乗ってみようか」と思っていただけるのではないでしょうか。
――それって、社交辞令ではなく?
本音です。やはり、一人でやるというのは厳しいので(笑)。EVを買っていただいたお客さまはガソリン車には戻らないんですね。一度目を向けてもらえれば、たくさんのお客さまに乗っていただけるようになって。その先に私たちが目指すカーボンニュートラルとか持続可能な社会の実現に一歩近づけるのではないかと思っています。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。