フォルクスワーゲンTロックTSIスタイル(FF/7AT)
手の届くあこがれ 2022.09.28 試乗記 フォルクスワーゲン(以下、VW)のコンパクトSUV「Tロック」がマイナーチェンジ。高い人気を誇る一方、いくつかの欠点も指摘されていた欧州BセグメントSUVの定番車種は、日本導入から2年を経ていかなる進化を遂げたのか? 量販グレードと目される「TSIスタイル」で確かめた。どうしちゃったの? フォルクスワーゲン
28カ国からなる欧州自動車市場の販売構成において、SUVのシェアは約46%にもなるという。多くの電気自動車が電池のかさ上げぶんをカバーするためにそれ的な車型をとるがゆえ、数字が押し上げられてもいるが、感覚的には「SUVにあらずんばクルマにあらず」の勢いだ。あれ、必死でCO2減らすんじゃなかったんでしたっけ? とツッコミたくもなるが、ミニバン天国の日本も言えた義理ではない。
ちなみに昨年(2021年)、かの地で最も売れたSUVは「プジョー2008」、そして2番目がこの「Tロック」だったという。そういえば日本でも輸入SUVの販売台数でVWがワン・ツーを押さえたという触れ込みだが、「Tクロス」に次いで2番目に売れているのがTロックだった。
しかし、本国発売から3年遅れて2020年に日本上陸したTロックは、正直なところその魅力が伝わりにくいクルマだった。なにより座って即感じる内装の質感の低さはいただけない。ダッシュアッパーやドアインナートリムはハードな樹脂成形のパネルがむき出しで、オーナメントやドアレバーなどの加飾要素も粗雑なものだった。別に素材が硬いからダメというわけではないが、表面のテカテカぶりをみるに、素材やシボ入れに気遣いがないことが伝わってくる。さすがゴルフの血筋とあってか、走ってナンボのところは一定以上のレベルにあると感じさせただけに、どうしちゃったの? の感は否めなかった。
インテリアにみる欠点はおおむね解消
どうしちゃったの? といえば、思い浮かぶのは2015年のディーゼルゲート問題だ。解決のめどが立ちつつあるなかで、VWとしてはともあれ手元のキャッシュフローを少しでも厚くして財務改善の道筋を立てなければならなかった時期が、Tロックが発売されたその頃と重なる。台あたりの原価率を下げるために一番手っ取り早いのは、性能変化や設計変更の伴わない内装や加飾類のコストダウンだ。
コストダウンといえば思い出すのは「トヨタ・カローラ」……というのは古すぎる話かもしれない。バブルの最後っぺのように豪勢にしつらえられた100系が、バブル完全終了後の110系になるとエンブレム類さえシールに置き換えられた。抜き上手のトヨタでさえ手だてあらわにやらざるを得ない、本気のコストダウンはそれほど難しい。Tロックも事情は同じだろうというのが僕の見立てだ。
「ポロ」もしかりで、この時期、すなわち2017年前後に登場したモデルたちが静的質感に弱点があることは、主戦場である欧州のメディアでも指摘されている。それゆえVWもいつまでもこの課題は放っておけないとみたのだろう。「ゴルフ8」で採り入れた数々のデジタライゼーションを水平展開することでインフォテインメントや操作類をローコスト化する一方で、見栄えものにはきちんとコストを投じて、質感を整えてきた。日本に入ってきたマイナーチェンジ後のポロやTロックはその流れに沿っていて、ライバルに対するその面での不満はほぼ解消された。
このナビだけはどうにかしてほしい
Tロックのラインナップはゴルフに倣ってベーシックな「アクティブ」、装備充実の「スタイル」、スポーティーなトリムの「Rライン」の3つに分けられる。エンジンはTSI(ガソリン)とTDI(ディーゼル)の2種類になるが、TDIの側にアクティブの設定はなく、TSIの側にRラインの設定はない。そして今回のマイナーチェンジで新たに加えられたのが、300PSの2リッター4気筒ターボと4WDシステム「4MOTION」を組み合わせる「R」だ。
試乗車は恐らく売れ筋となるだろうTSIスタイル。TロックはよくあるSUVよりもリアゲートを寝かせてちょっとスポーティーなシェイプに仕立てられていて、ディテールのすっきり感も個性のひとつとなっている。マイナーチェンジではバンパー形状が変わり、スキッドプレート的なアクセントが強調されたことで地上高が高まったようにみえるが、ディメンションには変更はない。
実はゴルフよりも短いホイールベースゆえ、室内の広さに期待はできないようにうかがえるが、高さをうまく使っていることもあって、居住性や積載力に不満はない。というか、荷室容量に関してはゴルフよりも大きく、このあたりはSUVの利を感じさせてくれる。この手のクルマでは後席の座面高を落としてフォールダウン時の段差を整える一方で、着座姿勢はダメダメ……みたいな銘柄も見受けられるが、Tロックはその点もうまく折り合いをつけた印象だ。
インフォテインメントはすでにVWの最新オンラインサービスである「We Connect」に対応しているが(参照)、今回のマイナーチェンジではモニターが高い位置に配され、視認性や操作性が向上。またフル液晶メーターパネルの「デジタルコックピットプロ」も全グレードで標準化されている。ただしインフォテインメントシステムに関しては、ナビの目的地検索や設定などの機能に相変わらず要領を得ない感があり、結局Apple CarPlay……ということになってしまうのも確かだ。ライバルの立ち位置を勘案すると、インターフェイスの直感性向上やボイスコマンドの洗練は、VWとアウディの日本仕様に共通する課題だと思う。
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進化した走りの意外な立役者
走りの印象はすこぶるニュートラルだ。中高速域でのフラットライド感は相変わらずだが、導入当初はちょっとこわばった感もあった低速域での乗り心地もこなれたものとなり、全体的に上質さを高めたようにみえる。
グレードに応じて16~19インチのタイヤ&ホイールを履くTロックにあって、スタイルは17インチを装着、試乗車はハンコックの「ヴェンタス プライム3」を履いていたが、コーナーでもクセのない理にかなったハンドリングをみせてくれるうえ、平時のダンピング特性や静粛性は下手な欧州製タイヤを軽く上回る。ヒョンデの「ネッソ」に乗った際にもヴェンタスのまとまりのよさに驚かされたが、タイヤもいよいよ韓国勢が侮れなくなってきたというのが偽らざる印象だ。
世界的なインフレや急激な円安によって、輸入車の値上げのニュースが日ごとに流れるなか、Tロックは辛うじて300万円台~の価格帯に踏みとどまっている。絶対的に安くはないけれど、アフォーダブルであることにこだわるところにブランドの良心が感じられる。VWはそうやってクルマ好きにとっての身近なあこがれであり続けてきたし、これからもそういう存在であってほしい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTロックTSIスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4250×1825×1590mm
ホイールベース:2590mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V(後)215/55R17 94V(ハンコック・ヴェンタス プライム3)
燃費:15.5km/リッター(WLTCモード)
価格:417万9000円/テスト車=437万1500円
オプション装備:Discover Proパッケージ(15万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万8500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1967km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:281.8km
使用燃料:22.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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