マクラーレン・アルトゥーラ(MR/8AT)
余計なものは何もない 2023.01.06 試乗記 完全新設計のシャシーに電動パワートレインを搭載した、プラグインハイブリッド(PHEV)のスーパースポーツ「マクラーレン・アルトゥーラ」。レース由来のテクノロジーが注がれた彼らのブランニューモデルが体現する、唯一無二のドライブフィールに触れた。新時代のマクラーレンの旗手
行間に敏なる読者諸兄姉には、ごまかして書いたところでどうせ気づかれてしまうでしょうから、先に白状いたします。ワタクシ、いまだにこのクルマが完全には呑(の)み込めておりません。もちろんクルマが悪いわけではない。自動車相手にこの表現はどうかと思うが、なんというかものすごくハイコンテクストで、スーパーカー経験値のない筆者は、その価値を理解できるだけの知識や共通認識を持ち合わせていないのだろう。
今回、筆者が試乗した、というほどいろいろ試せたわけではないのですが、取りあえず取材したクルマは、マクラーレン・アルトゥーラだ。「MP4-12C」以来のコンポーネントをことごとく捨てた、新世代マクラーレンの旗手。しかも電動パワートレインをリアミドに搭載したPHEVと、見どころ満載のニューモデルである。細かい話はニュースやコラム、これまでに4度も掲載された試乗記で散々書かれているので(その1、その2、その3、その4、ワタシのリポート要る?)、今回は割愛する。一部は写真キャプションにまとめてあるので、気になる人はそちらをご覧ください。とにかく、イギリスの純粋主義的技術者集団が、究極のクルマとの一体感を求め、軽さとレスポンスをひたすらに追求した電動のスーパースポーツ……と、そこだけご理解いただければ、拙文を読み進めるうえでも支障はないでしょう。
取材の舞台となったのは、世界選手権も催される富士スピードウェイのレーシングコース……だが、走行はわずかに2周半。しかもストレートは200km/h制限で、1コーナーは50km/h、300Rは140km/h等々、細かくルールが敷かれたなかでの“カルガモ走行”だった。システム最高出力680PS、パワーウェイトレシオ488PS/tというハイパフォーマンスカーを理解するには、恐れながら、いささか不十分なシチュエーションでありましょう。スピード恐怖症の筆者は安堵(あんど)しつつも、「自分ごときが、こんな限られた条件下で何かを感じとれるのかしら?」と不安を覚えながらクルマに搭乗した。
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儀式も様式美もない
マクラーレン特有のディヘドラルドアを、「そういや、これも軽量化のための工夫だったっけ?」(参照)なんて思いつつくぐり、これまた“新世代の~”と説明されるクラブスポーツシートに収まる。その、アルトゥーラとのファーストコンタクトで「あら?」と感じたのは、すっと乗り込める乗降性のよさと、それでいて下肢を包むようにドライバーを保持するシートの安心感だった。するすると迎えられ、そのままクルマになじんでしまうこの乗車感は、ちょっとフェラーリやランボルギーニでは覚えのないものだ。
シートポジションを合わせ、システムを起動し(PHEVなので)、無線の指示に従ってシフトを「D」レンジに入れる。その一連の操作においても、迷うところやひっかかるところは一切ない。普通は(このジャンルのクルマに“普通”なんて言葉が適切かは知らないが)どこかにブランド独自のお作法があったりして、初乗りでは「ここはどうすればいいんでしょ?」とスタッフに聞くところである。しかし、マクラーレンにはそれがない。ハイブランドでは当たり前となっている出発前の儀式すら、彼らが言うところの「ドライバー・エンゲージメント」からすると邪(よこしま)なことなのだろう。
フル液晶のメーターパネルに目をやると、バッテリーの残量は95%。ちょいとアクセルを踏み込むと、アルトゥーラは「Eモード」(電動走行)で発進した。ミドシップの680PSという機械仕掛けのバケモノが、仰々しいシステムの起動音も、エンジンの“ひと吠(ほ)え”もなく、しずしずと血なまぐさい本コースに出ていく。ブリーフィングで言われたとおり、1コーナー前で「コンフォート」、その先で「スポーツ」とパワートレインの制御を切り替えると、ようやく「ヴン!」と3リッターV6ツインターボエンジンが始動し、筆者はなんだか、妙に安心した。
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中庸を極め一体感を追求する
先述のとおり、今回はコース内の走らせ方が細かく決められたなかでの走行となったのだが、その域内におけるマクラーレン・アルトゥーラは、とにかく軽やかでスムーズで、操作と挙動の全体に統一感のあるクルマだった。
真っ先に感じられたのはアクセル操作に対するきめ細かな反応で、その加速たるや尋常な滑らかさではない。8段のDCTも、不快なショックはないくせに電光石火でシフトアップ/ダウンをこなす。変速にまつわる背反するはずの要素を、精緻さによってハイレベルで両立している。
またコーナーでは、ドライバーの意図よりややクイックに回頭する「フェラーリ296GTB」に対し、アルトゥーラはニュートラルで忠実。ハンドリングに対する挙動は軽やかで、クルマのどこに重いものが積まれているのだろう? というくらいに重さ感や抵抗感がなかった。そうしたなかにあって、専用開発の「ピレリPゼロ コルサ」だけが、ミチミチと路面に張り付く自身の存在を強く主張してくる。他車では味わったことのない、不思議なコントラストだ。
加えて特筆すべきなのは、こうした運転に関わる操作の全体に、流れるような一体感があること。すべての操作フィールに通底するものがあり、また減速しつつハンドルを切り、ブレーキからアクセルへと足を移す一連の動作の間に、クルマがのめったり、すっぽ抜けたりといった雑みがみじんも存在しないのだ(無論、ガチのアタックを敢行したり、「トラック」モードで低速運転といったイジワルをしたりすれば、話は別だろうが)。ドライバーの意図をくんで、余計な演出や挙動を一切挟まず、綿密にそれを実行する。というかレスポンスが恐ろしくよいので、実際には「意図すると同時にそれが実現している」という感じだ。
他方で動力性能に関しては、筆者のウデマエでは何かを語れるところまでは至らなかった。ぼやぼやしているうちに前走者に引き離され、「追いつかなきゃ」と思って突っ込み気味にコーナーに入っても、ハンドルを切ったらそっちにクルマが向かうのだ。お釈迦(しゃか)さまもかくやのかしこい電子制御や、マクラーレン初採用の「e-diff」の効能……もあるのかもしれないが、本イベントの速度域では、まったくもってピレリの専用タイヤが余裕しゃくしゃくだったのだろう。
フル加速も強烈で、無線に従いストレートの入り口で40km/hまで減速しても、ずどんと踏めばコントロールタワーのはるか手前で200km/h。あっという間の出来事である。そもそも諸元表を見れば、0-100km/h加速が3.0秒、0-200km/h加速が8.3秒のクルマだ。アルトゥーラからしたら「そんなことで驚かれてもな」といったところだろう。
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安直なアイコンには頼らない
……とまあ叙事的な書き方しかできていないことからも分かるとおり、やはりマクラーレンは、浅学非才には手に余るハイコンテクストなクルマだった。恐らくは筆者が、依然スーパーカー=分かりやすく自己主張してくる押しの強いクルマ、という偏見を持っているからだと思うのだが、それにしてもマクラーレンには、凡夫にも理解できる分かりやすさや、そのとっかかりとなるようなアイコンがない。ランボルギーニのような威容も、フェラーリのような扇情も、アストンマーティンのような野趣もなく、むしろそうした記号性から、あえて自身を遠ざけているようにさえ思われる。
それでも「アナタが感じたマクラーレンのアイコンは何なのさ?」と問われれば、それは今回筆者が触れたような、一切の雑み・雑念を排した運転体験そのものだろう。「乗れば分かる」は今日の自動車ビジネスではご法度なのに、そこにどっかり両足預けて、仁王立ちしているのだ。浅はかな筆者は「ちょっとくらい色気を出しても……」と思うのだが、それをしたらマクラーレンが提供する体験そのものにくもりが出てしまうのだろう。わずか17分のお付き合いで「分かった!」というのはおこがましいし、実際そんな底の浅いプロダクトではありゃしないのだが、彼らの言うドライバー・エンゲージメントというやつの端緒には、筆者も触れたのではないかと思う。
最後に小話をひとつ。あれはまだ、マクラーレンが日本に導入されたばかりの2013年の春だったか、あるいは2015年の福岡ショールーム開設の折だったかもしれない。とにかく正規輸入販売を担うディーラーの関係者に、話をうかがう機会があった。そこで筆者が「例えば、どんなクルマのオーナー層と親和性がありそうですか?」(≒ライバルはどちらさんよ?)というベタな質問をしたところ、氏は「『ポルシェ911 GT3』などのオーナーさまですかね」と答えられた。当時、筆者はこの回答を「はいはい。上級者向けってことね」と薄っぺらにしか解釈していなかったのだが、今はもうちょっと、ちゃんと分かる気がする。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マクラーレン・アルトゥーラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm
ホイールベース:2640mm
車重:1410kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:アキシャルフラックスモーター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:585PS(430kW)/7500rpm
エンジン最大トルク:585N・m(59.7kgf・m)/2250-7000rpm
モーター最高出力:95PS(70kW)
モーター最大トルク:225N・m(22.9kgf・m)
システム最高出力:680PS(500kW)/7500rpm
システム最大トルク:720N・m(73.4kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)295/35ZR20 105Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:4.6リッター/100km(約21.7km/リッター、WLTPモード)
価格:3070万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1847km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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