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第756回:「フォルクスワーゲンID.4」の限界に挑戦! 最新BEVの“走り”の実力に迫る

2023.08.04 エディターから一言 生方 聡
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実は「ID.4」オーナーなんですよ

フォルクスワーゲン ジャパンが、メディア関係者を対象とした勉強会&取材会「Volkswagen Tech Day 2023(最新BEV試乗体験会)」を開催した。2022年11月に日本に導入されたBEV「ID.4」をテストコースに持ち込み、特殊な環境下でさまざまな運転体験ができるのだという。

ご存じのとおり、フォルクスワーゲンはBEVファミリーの“ID.モデル”を世に送り出し、販売拡大に力を入れている。なかでもコンパクトSUVのID.4は世界戦略車と位置づけられていて、先述のとおりここ日本でも発売になった。

それにあわせて、私は導入モデルの「ID.4プロ ローンチエディション」をオーダー。11月末には「ブルーダスクメタリック」の個体が納車され、晴れて最新BEVのオーナーになった。ちなみに、その少し前まではやはりフォルクスワーゲンのBEVである「e-ゴルフ」を、さらにさかのぼれば同社のPHEV「ゴルフGTE」を所有しており、ID.4オーナーには“なるべくしてなった”という感じである。

ID.4が納車されて約8カ月になるが、すでに走行距離は1万5000kmを超え、寒さがしみる冬の雪道、真夏の暑さなど、いろいろな状況を経験している。そんな私がいまさら“最新BEV試乗体験会”に参加してどうするんだ? ……と思われるだろうが、さすがに一般道で限界に挑戦するわけにはいかず、ID.4の本当の実力を知るにはいたってはいない。そこで、ID.4オーナーではあるもののテストコースでの試乗に参加したというわけなのだ。

「Volkswagen Tech Day 2023」より、テストコースのハンドリング路にて軽快な走りを披露する「フォルクスワーゲンID.4」。
「Volkswagen Tech Day 2023」より、テストコースのハンドリング路にて軽快な走りを披露する「フォルクスワーゲンID.4」。拡大
取材会はまずは座学からスタート。BEVである「ID.4」の、エンジン搭載車との基本的な構造の違いをおさらいする。講師を務めるのは、ディーラー研修などでもインストラクターを務める、フォルクスワーゲンAG認定トレーナーの金子陽一氏だ。
取材会はまずは座学からスタート。BEVである「ID.4」の、エンジン搭載車との基本的な構造の違いをおさらいする。講師を務めるのは、ディーラー研修などでもインストラクターを務める、フォルクスワーゲンAG認定トレーナーの金子陽一氏だ。拡大
「ID.4」をリフトで持ち上げ、車体底部を観察するイベント参加者。サスペンションのロワアームに風防を設けるなど、徹底した空気抵抗低減の施策がなされていた。
「ID.4」をリフトで持ち上げ、車体底部を観察するイベント参加者。サスペンションのロワアームに風防を設けるなど、徹底した空気抵抗低減の施策がなされていた。拡大
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後輪駆動の不安を払拭

ID.4について少しおさらいしておくと、BEV専用のプラットフォームとしてフォルクスワーゲンが新たに開発した「MEB(モジュラー・エレクトリック・マトリックス)」を採用するBEVで、電気モーターを含む駆動ユニットをリアアクスルに一体化する一方、駆動用バッテリーをアンダーボディーに搭載することでフラットなフロアを実現。これにより、長い航続距離と、広々とした室内空間、ダイナミックなドライビング性能を併せ持っている。日本には容量52kWhのバッテリーと最高出力125kWのモーターを搭載する「ID.4ライト」と、77kWhのバッテリーと150kWのモーターを備える「ID.4プロ」が導入されている。

どちらも駆動方式はRWD(後輪駆動)になるが、フォルクスワーゲンといえば“空冷ビートル”より後の世代は横置きエンジンのFWD(前輪駆動)が主流であり、私自身もRWDのフォルクスワーゲンと本気で付き合うのはこのID.4が初めて。それだけに、実際に購入するまでは滑りやすい道での運転が心配だった。

まずは、そんな不安を払拭(ふっしょく)する体験から。10%の勾配がついた雪道相当の低摩擦路で、坂道発進に挑むことに。最初はアクセルペダルをふんわりと、2回目はややラフに踏んでみるが、どちらも不安なく坂を登っていく。摩擦が凍結路相当の部分では歩みは鈍るものの、それでもクルマが後ろに下がるようなことはない。試しに、ディーゼルターボエンジンを積むFWDの「フォルクスワーゲンTロック」で試すと、前輪がスリップするだけで一向に坂を登らないどころか、途中でクルマが後退する始末。ID.4のトラクション性能がいかに高いかに驚く瞬間だった。

「ID.4」の電動パワートレイン。日本仕様のID.4はRWDだが、本国仕様には4WDもある。またフォルクスワーゲンでは新型車「ID.2 all」にはFWDを採用。クルマの特性に合わせて駆動方式を使い分けている。
「ID.4」の電動パワートレイン。日本仕様のID.4はRWDだが、本国仕様には4WDもある。またフォルクスワーゲンでは新型車「ID.2 all」にはFWDを採用。クルマの特性に合わせて駆動方式を使い分けている。拡大
まずは水でぬらした低ミューの登坂路で、トラクション性能を試す。路面の摩擦係数は、グレーの箇所が0.3、中央のブルーの箇所が0.1、前者が凍結路面、後者が圧雪路面のそれに相当する。
まずは水でぬらした低ミューの登坂路で、トラクション性能を試す。路面の摩擦係数は、グレーの箇所が0.3、中央のブルーの箇所が0.1、前者が凍結路面、後者が圧雪路面のそれに相当する。拡大
滑りやすい路面では当然のこと駆動輪(この場合は後輪)が空転するが、RWDの「ID.4」では駆動を担う後輪にトラクションがかかりやすく、賢い駆動制御とも相まって、じわじわと坂を登りきることができた。
滑りやすい路面では当然のこと駆動輪(この場合は後輪)が空転するが、RWDの「ID.4」では駆動を担う後輪にトラクションがかかりやすく、賢い駆動制御とも相まって、じわじわと坂を登りきることができた。拡大

「ID.4」はミドシップだった!

ところで、試乗の前にID.4のフロア部分を下からのぞくことができた。これまでもタイヤ交換などで見ることはあったが、リアのカバーをはずしてモーターの様子を見るのはこれが初めて! そこでわかったのが、モーターが前後ホイール間に配置されていること。つまり、ID.4の駆動レイアウトは「RR」ではなく「MR」、ミドシップだったのだ。しかも、バッテリーも前後アクスル間に収められており、前後の重量配分は前:1010kg、後ろ:1130kg。比率では47:53とある意味理想的である。

そのおかげもあって、ID.4のハンドリングは実に軽快。ドライ路面のハンドリングコースでは、背が高く、車両重量が2140kgにおよぶにもかかわらず、身軽な動きを見せるし、重心が低いぶんコーナリング時のロールもよく抑えられている。滑りやすい路面でのスラロームでも、フロントタイヤにしっかりと荷重がかかるので、思いどおりに舵が利くので安心である。コーナーでアクセルを踏めばリアが流れる動きを見せるが、姿勢を立て直すのは難しくない。愛車で雪道を走ったとき、ESC(横滑り防止機能)の助けを借りなくても想像以上に安定した走りを見せたのを思い出したが、あらためてテストコースで試してみて、さらにこのクルマへの信頼が高まった。

地味なプログラムとしては、50km/hから回生ブレーキを利かせるテストも。ID.4の場合、シフトレバーで「B」レンジを選ぶと、アクセルペダルから足を離したときに回生ブレーキが作動する。とはいえ他のBEVに比べると利きはおとなしく、しかもリアモーターのため前につんのめる感じはない。ボディー全体が少し沈み込むようにじんわり利く感じである。滑りやすい路面であっても安定して減速するのもうれしいところである。

普段はカバーに覆われていて見えない、「ID.4」の電動モーターとドライブトレイン(写真右が前方、同左が後方)。ドライブシャフトとの位置関係からもわかるとおり、このクルマのパワートレインは、バッテリーともども完全に前後軸の間に収まっている。
普段はカバーに覆われていて見えない、「ID.4」の電動モーターとドライブトレイン(写真右が前方、同左が後方)。ドライブシャフトとの位置関係からもわかるとおり、このクルマのパワートレインは、バッテリーともども完全に前後軸の間に収まっている。拡大
ウエット路面でのパイロンスラロームでは、「ID.4」の車両バランスのよさを実感。こうした難しい状況でも操舵とアクセルワークでクルマを操ることができた。
ウエット路面でのパイロンスラロームでは、「ID.4」の車両バランスのよさを実感。こうした難しい状況でも操舵とアクセルワークでクルマを操ることができた。拡大
「ID.4」ではシフトレバーで「B」レンジを選ばないと回生ブレーキは作動せず、アクセルをオフにしても空走するのみとなる。フォルクスワーゲンは、このクラスのBEVでは頻繁に回生ブレーキを利かせてエネルギーを回収するより、コースティングによって“距離を稼ぐ”ほうが効率がいいと考えているのだ。
「ID.4」ではシフトレバーで「B」レンジを選ばないと回生ブレーキは作動せず、アクセルをオフにしても空走するのみとなる。フォルクスワーゲンは、このクラスのBEVでは頻繁に回生ブレーキを利かせてエネルギーを回収するより、コースティングによって“距離を稼ぐ”ほうが効率がいいと考えているのだ。拡大

ドリフトも(人によっては)自由自在

個人的なハイライトはスキッドパッドでの走行。雪道相当のグリップに設定されたエリアを円を描くように走るというものである。ESCがオンの状態であれば、多少滑ってもステアリングで修正が可能だし、トラクションコントロールを解除すれば、アクセル操作でクルマの向きを変えることや、ドリフト走行も楽しめる。

未熟な私は華麗なドリフトをキメるにはいたらなかったが、いざというときにクルマをスピンさせて危険回避できるし、タイトコーナーを小回りさせることも可能なID.4の走りは、いままでFWDのフォルクスワーゲンに慣れ親しんできた私にはとても新鮮だった。

そんなこんなで、いろんなシチュエーションでID.4の走りを試すことができたVolkswagen Tech Day。これまでも、ID.4の走りには満足していたが、今回のイベントでほれ直してしまった。

さて、日本では導入仕様のローンチエディションがID.4プロ、ID.4ライトともに完売しており、現在は2023年生産分のID.4の上陸を待っている状況。回生ブレーキまわりを改良したことで航続距離が約1割延びたという“2023年アップデート版”は、この8月には販売が始まるということ。街で仲間に会う機会が増えるのが楽しみである。

(文=生方 聡/写真=生方 聡、webCG/編集=堀田剛資)

スキッドパッドにて、華麗なドリフト走行を披露する「ID.4」。
スキッドパッドにて、華麗なドリフト走行を披露する「ID.4」。拡大
スキッドパッドのエリアでは、円状のコース上のみが摩擦の低いゾーンとなっており、そこからはみ出ると特定のタイヤのみグリップ力が回復して、たちまち挙動が乱れる。クルマを滑らせつつ、狙ったとおりのコースに乗せ続けるという、なかなかに難しい運転体験をさせてもらった。
スキッドパッドのエリアでは、円状のコース上のみが摩擦の低いゾーンとなっており、そこからはみ出ると特定のタイヤのみグリップ力が回復して、たちまち挙動が乱れる。クルマを滑らせつつ、狙ったとおりのコースに乗せ続けるという、なかなかに難しい運転体験をさせてもらった。拡大
間もなく日本でも発売される「ID.4」の2023年モデルでは、「ライト」では388kmから435kmへ、「プロ」では561kmから618kmへと航続距離が延びている(いずれもWLTCモード)。
間もなく日本でも発売される「ID.4」の2023年モデルでは、「ライト」では388kmから435kmへ、「プロ」では561kmから618kmへと航続距離が延びている(いずれもWLTCモード)。拡大
生方 聡

生方 聡

モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。

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