「ランドクルーザー“70”」はなぜ復活したのか? その背景と改良点を検証する
2023.08.21 デイリーコラムやっぱりこれでなければ……
新型「ランドクルーザー“250”」のワールドプレミアは大きな注目を集めたが、実はこの日、まず会場を沸かせたのは「ランドクルーザー“70”」の国内復活の知らせだった。復活自体はすでにうわさもあったが、今回は前回のような期間限定、そして単なる復刻版ではなく、必要なところをしっかり進化させたうえで継続販売モデルとして登場したのだ。
それにしても、従来の「ランドクルーザープラド」に対して全面的にアップデートされた“250”が登場し、しかもそれこそ“70”を彷彿(ほうふつ)とさせるような丸型ヘッドライトのモデルまで設定されたのだ。今なぜ“70”の復活が必要だったのか。
“70”が登場したのは1984年。以来、世界中でワークホースとして厚い信頼を寄せられてきた。日本では2004年に販売を終了するが、その10年後の2014年に期間限定で復活を果たしている(関連記事)。
その時に言われたのは、“70”でなければいけないというユーザーがまだ多数いるということだった。その主たるは業務用で、実際に当時はバンだけでなくピックアップも設定されている。もちろん一般のユーザーのなかでも、いわゆるSUVに飽き足らない“クロカン”オフローダーマニアからの途切れぬ切望の声も、背中を押したに違いない。
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違いは極悪路であらわれる
“70”でなければいけない理由は、何より機動性だろう。“60”の成功以降、いわゆるステーションワゴンモデルは代を重ねるごとに大きく、立派になっていたが、極限の舞台でギアとして求められるのは適度なサイズであり、電子制御に頼らない走破性であり、ぶつけても壊れても修復しやすいリペアビリティーだった。
私自身、実際にオフロードコースに“70”でトライしたことがある。電子制御で武装した最新の“300”なら余裕で行けるところで、“70”は腕が必要になる……と、95%の場面では感じるわけだが、それを超える過酷で苛烈(かれつ)な環境においては、小さく軽く、操縦次第でどうにでもできる“70”の走りが光る。
さらに言えば、多少ぶつけても擦ってもいいという、まさに道具としての存在感も大きな要素だったように思う。プロギアとしてはそれでいい、そうあるべきだし、われわれのような者が乗れば、それは楽しさにもなる。なぜ、このクルマが求められるのか、その時によく理解できた気がしたものである。
前置きが長くなったが、つまり“70”にとっては、進化とはいっても“250”になっては意味がない。その「でなければならない理由」をすべて継承しながら、今の路上を走れる存在とすること。それが復活型の目指したところといえる。
よりユーザーフレンドリーに
ここから変更点を見ていく。なお、この変更点の詳細についての取材では、八重洲出版『driver』編集部に協力をいただいたので、お礼を述べておきたい。
まずエンジンは従来のV型6気筒4リッターガソリンから直列4気筒2.8リッターディーゼルターボに置き換えられ、5段MTに代わって6段ATが組み合わされた。マニア的には賛否両論あるようだし、その気持ちもわからないではない。しかしながら今や、絶対にMTじゃなければ走破できない場面というのはそう多くないだろうし、それより何よりMTでは運転そのものをできる人が限定されてしまうと考えれば、これも時代に合わせた進化というべきだろう。むしろディーゼルの粘り強い特性は、大きなプラスのはずだ。
フロントマスクの変更は、実はこのディーゼルエンジン搭載が大きな理由だという。冷却性能確保のためにグリル拡大が求められ、それならばとデザインも改められた。前回の期間限定復活の際には、やはり丸目がいいという声、多かったそうである。
実はシャシーにも手が入れられている。とはいっても前後リジッドであることはそのまま。当然、譲れないポイントだ。変更しているのはリアサスペンションで、これも前回指摘された乗り心地を改善するだけでなく、悪路走破性も向上させているという。乗り心地に関して言えば、後席も“300”から骨格、クッションを流用しており、折り畳み機能も追加された。
今回、“70”は1ナンバーではなく3ナンバー、つまり乗用車としての導入になる。それには相応の快適性が必須という思いもあったようだ。
象徴としても大事な一台
これらパワートレイン、デザイン、乗り心地といった要素は、ユーザーからの要望を採り入れたものだが、さらに新しい“70”では最新の運転支援機能も搭載している。もちろん、これは法規対応のためだが、トラクションコントロールなどの制御は“250”などのようにはやり過ぎず、むしろドライバーのコントロールする余地を多く残しているという。
雪道でのトラクションコントロールやVSCのように、最後はやっぱり人の手という場面は今も少なくない。“70”は道具として、やはりその余地を多く残したということだろう。
“70”でなければいけない理由、復活の必要性についてつらつらと書いた。しかし、すべてひっくり返すようだが、それが絶対に必要というユーザーは、プロユースを含めてそう多くはないだろう。それでもあえて今、“70”を復活させたのは、例えば今や高級なものもポップなものも取りそろえているカシオの「G-SHOCK」に、初代のようにプリミティブな「ORIGIN」モデルが今も用意されているように“それがあるからこそ本物”というイメージを喚起する役割も期待されたに違いない。
自分は“250”を選ぶという人も、“70”の存在がランドクルーザーを選んだ自分の深い肯定、満足につながる。こうした要素だって大事なはず。それこそ“250”の丸型ヘッドライトだって、単品で見ればレトロ要素の遊びかもしれないが、隣に“70”があれば、血筋を表すアイコンになる、ともいえる。
継続販売となれば、爆発的な売れ方はしないかもしれないが、そもそも原価償却的な話でいえば何十年も前に済んでいるクルマだろうし、グローバルではずっと売れている存在だけに、投資の回収も難しくないだろう。そんなことまで考え合わせれば、実際に“70”を購入するユーザーはもちろん、ランドクルーザーシリーズの全オーナー、そしてメーカーまで含めて、皆がハッピーなのが今回の“70”復活と言っていいのではないだろうか。
(文=島下泰久/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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