比べれば見えてくる? セダンとSUV、2つの「センチュリー」が不可欠なわけ
2023.10.18 デイリーコラムサイズを容積で比べてみる
2023年9月6日に発表された新しい「センチュリー(SUV)」とセンチュリーのセダンタイプをスペック上で比べてみる。というお題を編集部からいただいた。比べて、どうするのか? 答えは原稿を書きながら考えるとして、ともかく比べてみよう。比べてみれば分かるさ。迷わずいけよ。
まずはサイズである。セダンタイプのスリーサイズ、全長×全幅×全高は5335×1930×1505mm。新しいセンチュリー(SUV)は5205×1990×1805mm。SUVのほうが130mm短くて60mm幅広く、300mmも背が高い。ま、SUVとはそういうものである。
セダンの体積は、スリーサイズを単純にかけ算すると154億9630万7750立方mmになる。スリーボックスなので、実際の体積はその3分の2であると仮定する。そうすると答えは103億3087万1833立方mm。キャビンはこの3分の1だとすると、34億4362万3944立方mmとなる。
SUVは186億9609万9750立方mm。だけれど、ツーボックスのワゴンなので実際の体積は6分の5だとする。そうすると答えは155億8008万3125立方mm。キャビンはその3分の2だとすると、103億8672万2083立方mmとなる。つまり、およそ3.4 vs 10で、SUVはセダンの3倍の空間を持っているわけだ。全長は130mmも短いのに……。
こんな計算をしなくても、SUVのホイールベースは2950mmで、セダンタイプの3090mmより140mm短い。なのに、前後席間距離は1220mmと、セダンの1135mmより85mmも大きい。もちろんこれはセダンがエンジン縦置きの、SUVは横置きのプラットフォームを採用していることによる。新型センチュリーの前後席間距離はなんと「ロールス・ロイス・カリナン」よりも長いらしい。カリナンのホイールベースは3295mmもあるというのに……。空間効率の面でセンチュリーのSUVはセダンに圧勝している。
5リッターV8の底力
次にパワーユニットを比べてみよう。セダンは4968ccのV8エンジンとモーターのハイブリッド、SUVは3456ccのV6と前後にモーター各1基、E-Four(4WD)のプラグインハイブリッドである。V8 vs V6で、セダンの圧勝でしょ。と見るのは早計、かもしれない。さらに詳しく数字を検討してみよう。
先代「レクサスLS600h」のプラットフォームをベースとするセダンタイプのセンチュリーはパワートレインも先代LS用を使っている。5リッターV8の最高出力は381PSで最大トルクは510N・m。モーターは224PSと300N・mで、システム最高出力は431PS。車両重量は2370kgなので、パワー・トゥ・ウェイト・レシオの計算式は車重÷最高出力だから5.5kg/PSとなる。
一方、SUVタイプの2950mmのホイールベースは、今年6月にアメリカで発表されたレクサスの3列シートのSUV「TX」と同じだ。TXにはV6プラグインハイブリッド車(PHEV)の設定もある。という事実からして、新しいセンチュリーとレクサスTXはGA-Kプラットフォームファミリーのなかでも近しい関係にあると考えられる。余談ですけど。
3.5リッターV6の最高出力は262PS、最大トルクは335N・m。以下、フロントのモーターは182PSと270N・m、リアのモーターは109PSと169N・mで、システム最高出力は412PSとカタログにある。車重は2570kg。PHEVだからハイブリッドのセダンより電池の搭載量が多い。それも200kgの重量差の要因だろう。お待たせしました。新型センチュリーのパワー・トゥ・ウェイト・レシオは6.2kg/ps。つまり、動力性能ではV8セダンに軍配が上がる。
試しにそれぞれのエンジンとモーターの最高出力を足し算してみよう。セダンタイプは381+224=605PS。SUVは262PS+182PS+109PS=553PS。トルクは? というと、セダンは510+300=810N・m。SUVは335+270+169=774PSとなる。システム出力という数値があるのであくまで余談ですが、5リッターV8はやっぱりスゴいのである。
ブランドになったセンチュリー
とはいえ、モーターの力を侮ることはできない。PHEVのSUV型センチュリーのEV走行換算距離は69km。東京駅から羽田空港までおよそ20kmだから、ショーファードリブンの高級車として都心から国際空港まで送迎するのに十分な能力を備えている。
価格はセダンが2008万円、SUVが2500万円で、SUVのほうが492万円高い。新型センチュリー発表会のおりにお話をうかがった開発スタッフの方によると、セダンタイプは主に社長を退任した70歳ぐらいの会長さん向けになっている。対してSUVはビジネスの最前線で活躍している、新しいタイプの、もうちょっと若い顧客を想定しているという。
そもそも新しいセンチュリーのボディー形式にSUVが選ばれたのは、広い室内空間が確保できるからだ。ミニバンという手もあったはずだけれど、ミニバンは欧米で高級車として認知されていない。輸出を考えるとSUVのほうが好適である。
それに、ロールス・ロイス・カリナンや「ベントレー・ベンテイガ」が世界の大都市をわがもの顔で走りまわっている。これらに対抗する国産車がないのは悔しい。という意味のことを開発スタッフの方は語っておられた。超高級SUV市場への国産車の進出は、ニッポンの起業家たちへのエールにもなる。ニッポンを元気にしたい。がんばれニッポン! 新型センチュリーに込められた開発陣の思いはここにある。商業的な意味はさほど大きくない。国内市場の販売目標は月わずか30台にすぎない。輸出するにしても多くは望めない。塗装だけで1台あたり8時間もかかるから、大量生産ができないのだ。
それでもトヨタは、セダンとSUV、2つのセンチュリーを持つことで、センチュリーのブランド化を実現した。レクサスだけでなく、あえてトヨタブランドで超富裕層を囲い込む戦略なのだ。あるいはセンチュリーをレクサス以上の超高級ブランドに育てる、その第一歩なのかもしれない。SUVが成功すれば、いずれミニバンタイプが第3のセンチュリーとしてアジア向けに登場する……と筆者は想像する。
セダンのカタログにはこう記されている。「センチュリー。それは日本の心を象(かたど)った、ショーファーカーの最高峰。」。最高峰には、ロールス・ロイスのスピリット・オブ・エクスタシーみたいなマスコットがあってしかるべきである。2次元ではインパクトが小さい。ノーズを飾る3次元の鳳凰(ほうおう)をマスコットを見たひとびとはこういうだろう。
ほぅーお!
(文=今尾直樹/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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