「デリカミニ」に「N-BOX」、そして「スペーシア」もモデルチェンジ? 軽スーパーハイトワゴンの最新トレンド
2023.10.25 デイリーコラム新型発売直前でも売れまくる
先日フルモデルチェンジした「ホンダN-BOX」のすごさに業界がザワついているらしい。
といってもここで注目すべき騒然となっている理由は、ハード面やフルモデルチェンジの内容(そっちもすごいらしいのでぜひ車両紹介記事やインプレ記事もお目通しを)ではなく販売状況。フルモデルチェンジ直前(新型発売は2023年10月6日)となる2023年9月に、もうすぐフルモデルチェンジする従来型なのに日本で最も売れたクルマになってしまったからだ。その台数は2万0686台。実質的な次点が「ダイハツ・タント」の1万4527台だから、5000台以上の差をつけてリードしていることに驚くばかりである。なんてことだろうか。
ちなみに統計数字上の2番手は「トヨタ・ヤリス」の1万6790台だが、そこにはハッチバックの「ヤリス」とSUVの「ヤリス クロス」、さらにはスポーツモデルの「GRヤリス」まで含んだ“連合軍”。だから実際には旧型N-BOXとタントの「軽自動車スーパーハイトワゴン」がワンツーフィニッシュということになるのだ。参考までに、N-BOXは今年上半期の新車販売台数でもトップとなっている。
フルモデルチェンジ直前の旧型がここまで売れるなんて信じられない現象だが、その理由に関して筆者は「軽スーパーハイトワゴンが白物家電化しているから」だと思っている。
例えば家のエアコンや炊飯器を買い替えるときをイメージしてほしい。マニアにとっては最新モデルがいいのかもしれないけれど、普通は「どうせ新型になっても大して変わらないのだから、安く買えるなら従来型でいい」と思うんじゃないだろうか。そんな状況が軽スーパーハイトワゴンの市場にも起こっているような気がしてならないのだ(ただしN-BOXの新型はしっかり進化しているのだけど)。
実際、フルモデルチェンジ直前の「もうすぐ旧型になるモデル」はお買い得に購入できたようだ。また、N-BOXユーザーはフルモデルチェンジに関係なく、車検などのタイミングでセールスから勧められて(抜群のリセールバリューを背景に)現行型から現行型への買い替えなども相当多いのだとか。というわけで軽スーパーハイトワゴンに関していえば「フルモデルチェンジしたから買う」というのは過去の話らしい。
というわけで今回お届けするのは、軽スーパーハイトワゴンの各車の特徴のおさらいだ。「フェラーリやランボルギーニやポルシェの最新モデルには詳しいけれど、白物家電的軽自動車には疎い」という人のための超初歩的な白物家電、ではなくスーパーハイト軽自動車の最新事情である。
クロスオーバーSUVという潮流
参考までに、そもそもスーパーハイトワゴンってナニ? という話からしておくと、軽自動車のなかで最も売れ筋となっているジャンル。背の高い車体にスライドドアを組み合わせているのが特徴で、後席の広さといったらコンパクトハッチバックなんて相手じゃないってレベルだ。しかし車体サイズは軽規格で決まっていて差異化できないから、ライバルに差をつけようと各社がアイデアを出してしのぎを削っている。結果的に切磋琢磨(せっさたくま)が起こって、よい商品がそろっているというのが現状だ。
まず、ここ1年ほどで目立つようになったのが「クロスオーバーSUV」という派生モデル。先陣を切ったのは「スズキ・スペーシア ギア」だが、続いて「ダイハツ・タント ファンクロス」が出て、さらには派生モデルではなく車種全体がクロスオーバーSUVな「三菱デリカミニ」が登場。軽スーパーハイトワゴンは生活に根差したクルマだけに例外なく生活感があるが、クロスオーバーSUVなら所帯じみた感じよりも“楽しそうな雰囲気”が勝っていて魅力的というわけだ。
続いて注目したいのは、ライバルにはない独自の便利機能や装備である。例えばタントは、助手席側の前席ドアとスライドドアを同時に開けると開口部に柱(Bピラー)がないピラーレス構造を採用。N-BOXは後部座席の座面をはね上げるとベビーカーも畳まずに置けるスペースが出来上がる。ジャパンモビリティショーに参考出品された次期型スペーシアとおぼしき車両には、後席座面先端に座席に置いた荷物の荷崩れ防止機能を兼ねたオットマンが組み込まれていたが、これもライバルには見当たらない。
サイズやパッケージングや基本的な性能は大きく変わらない白物家電だからこそ、そういうちょっとした機能で差をつけ、ユーザーにアピールするというわけだ。
そのうえで最近のトレンドとして思うのは、カスタム系モデルからやんちゃっぷりやギラギラ感が消えたこと。新型「N-BOXカスタム」が大人っぽくなったのもそうだし、現行「タント カスタム」もギラギラ感が以前より落ち着いた。また、次期「スペーシア カスタム」もジャパンモビリティショーの参考出品車両から推測すると、かなりスッキリした印象になるだろう。最新の「日産デイズ ハイウェイスター」の顔つきもきらびやかというよりは先進的な雰囲気だ。
次も買うという好循環ができている
その背景にあるのは、ユーザー層の高年齢化だと感じている。派手でケバいのはもう卒業し、年配の人にでも似合う「落ち着いた上級感のある見た目」にシフトしていると考えられる。
いっぽうで、ノーマルタイプでいえば2トーンカラーの台頭が、かつてはなかったトレンドといっていい。ルーフを白く塗ったスーパーハイトワゴンは、今や珍しい存在でもなんでもなくなった。
ちなみに世間でよくいわれる「軽スーパーハイトワゴンが高価格帯にシフトしている」というのは否定できない。「ナビを付けて200万円」というのは今ではごく当たり前の話だ。
ただ、今どきの軽スーパーハイトワゴンはスマートキーや電動スライドドアが標準装備だったり、停止保持機能付きのACCが標準装備だったりと装備の充実度がすごい。車種によってはボトムグレードであってもコンパクトカーのベーシックグレードより装備が充実しているのだから、「それは高くても仕方ない」と納得できる内容なのだ。
値段が高いとはいっても、一度買ってみると広い車内に加えて実用性も機能も満足度が高い。だから、満足したから次も軽スーパーハイトワゴンを買う。そういう好循環が出来上がっているのが軽スーパーハイトワゴンの世界というわけなのですよ。
そしてもしかすると、軽自動車スーパーハイトワゴンで最も驚くべきことは、リセールバリューの高さじゃないかな。
ところで個人的には、スーパーハイトワゴンを買うならターボ車がオススメ。10万円程度多く払うだけでスッと加速するようになり運転のストレスが大きく減るのだからコスパが高いと思うのですが。
(文=工藤貴宏/写真=本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ、三菱自動車/編集=藤沢 勝)

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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