カワサキ・ニンジャZX-4RR KRTエディション(6MT)
感動と感謝 2023.11.29 試乗記 カワサキが令和の時代によみがえらせた、400ccのスーパースポーツ「ニンジャZX-4R/ZX-4RR」。1万5000rpmを超えて回ろうとする珠玉の4気筒エンジンを搭載した一台は、私たちにどんな世界を見せてくれるのか? 懐かしくも新しいニューモデルの走りに触れた。エンジンだけですべて許せる
400ccクラスのマルチシリンダーエンジンを積んだ「カワサキ・ニンジャZX-4R SE」の価格は112万2000円。今回の試乗車はよりスポーツに振った「ZX-4RR KRTエディション」なので、プラス3万3000円の115万5000円。
「いかな4気筒といっても、400ccでしょ? それで100万円超えかァ」とため息をついた“ちょっと古い”バイク好きの方、多いんじゃないでしょうか。かくいうワタシもそのひとり。正直「誰が買うんじゃい?」と思いながらKRTエディションのシートにまたがって走り始めたわけです。それが、4本のシリンダーがあっさり6000、7000rpmを超えてさらに軽々と回り、サウンドを高めていったら、もう何でも許す気になっていたのだからバカですね。単純ですね。ZX-4RR、ステキじゃないか! なんだか懐かしくて、目頭が熱くなりました(ちょっと大げさ)。
令和の時代にはあり得ないと考えられていた250ccクラスの4気筒モデル「ニンジャZX-25R」が市場に投入されたのは2020年。それに遅れること約3年。この2023年に399ccの排気量を持つZX-4R、同4RRが発売された。「これがスーパースポーツだ」(オフィシャルサイトより)とメーカーが主張するとおり、77PS/1万4500rpmの最高出力は、かつてのレーサーレプリカ「ZXR400」のそれを大きく上まわる。そのうえ、ABSはもちろん、電子制御スロットル、トラクションコントロール、ライディングモードといった電制技術や、アシスト&スリッパークラッチ、クイックシフターなどのハードウエアが惜しげもなく搭載されている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
性能のために実用性を犠牲にしない
一方、ホモロゲーションモデルの性格を色濃く残す上位モデル「ZX-6R」と比較すると、グッと一般ユーザーに寄り添った、まさに25Rの兄貴分といった乗りやすさがZX-4Rの魅力だ。運動性を高めるために世のスポーツモデルのシートがどんどん高くなるなか、ZX-4RRの800mmというスペックはどこかホッとさせるものがある。身長165cmの短足ライダー(←ワタシです)でも、両足裏3分の1、親指の付け根辺りまで接地するので安心感が高い。
ポジションもいい。ZX-4RRのハンドルまわりは、一見、いかにもレーシィで「スーパースポーツ」な雰囲気を醸し、実際、相当なスポーツ走行まで問題なく対応するはずだが、シートにまたがってグリップに手を伸ばすと、ハンドルのタレ角は見た目の印象のわりに少なめ。もちろんライディング時の前傾は強いが、苦行というほどではない。これならやせ我慢不要でツーリングを楽しめる。ただ、ステップ位置が高めなので、足の長さをもてあますような長身モデル体形の人は、少々窮屈に感じてバックステップに変えたくなるかもしれない。
ハンドルが大きく切れるのも隠れた美点。狭い道でのUターンや、バイクを降りての取り回しの際にありがたい。キレ角極小のスーパーバイク、スーパースポーツを日常使いしている人には、その長所がピンとくるはずだ。トレンドセッターとして積極的にハイスペックなニューモデルをリリースしながらも、実用性を犠牲にしない、ライダーの使い勝手を尊重しているのが、カワサキのエラいところ。拍手!
多くの人に“良さ”がわかるはず
さて、SEとKRTエディションの違いは、言うまでもなくカラーリングと、USBソケットやフレームスライダーはRRでは割愛されるが、リアサスペンションには調整幅の広い「ショーワBFRC-lite」がおごられる。特段アシの設定を快適方向に振らなくても、路面への追従性が高く、スポーティーな外観からすると意外なほど乗り心地がいい。サーキットでセッティングを詰めたいライダーはもとより、ツアラー時々峠マシンとして使いたい人にもオススメだ。
いつもの山道へ行ってみると、所々で落ち葉が道に積もっていたので、ペースを落として慎重に走る。コンパクトなボディー、積極的に曲がりたがる性格にプラスして、コーナリング中もスペック以上に路面が近く感じられて、そんなところもどこか懐かしい。かすかにしなりを感じさせるスチールフレームも乗りやすさに寄与している。フロントダブルディスクのブレーキは強力で、「でも、もう少しフラットに利くタイプに替えたいな」などと柄にもない感想を抱かせるのも、身近に感じられるスーパースポーツゆえだろう。
ZX-4Rの4気筒は、可変カムシステムのようなわかりやすい“飛び道具”は備えないが、レーサーレプリカ世代(!?)にはスムーズな高回転域への伸びで「これこれ!」と喜ばせ、単気筒、ツインから乗り換えた人には素直に「マルチっていいなァ」と感心させる説得力がある。高速道路を使っての移動も苦にならず、クオーターモデルの使い切る快楽とは別の、無理なく高性能に触れる楽しさがある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ありがとう、カワサキ
二輪市場に関して独特の先見性があるカワサキのことだから、中国、インド、そして経済成長著しい東南アジア圏ではプレミアムスポーツとして、600ccのスーパースポーツブームが去って久しい欧州では、扱いやすい小排気量モデルとしてアピールすることを狙っていよう。
「結局、公道で使うには400ccくらいがちょうどいい」と、かつて盛んに言われたフレーズがよみがえる。個人的に「値段も手ごろだね」とうそぶく懐の余裕はないけれど、21世紀に再び400ccの4気筒モデルを出してくれたメーカーに感謝する心の余裕は持っていたい。
(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1990×765×1110mm
ホイールベース:1380mm
シート高:800mm
重量:189kg
エンジン:399cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:77PS(57kW)/1万4500rpm/80PS(59kW)/1万4500rpm(ラムエア加圧時)
最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)/1万3000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.4km/リッター(WMTCモード)/24.4km/リッター(国土交通省届出値)
価格:115万5000円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆カワサキ・エリミネーターSE(6MT)【レビュー】
◆カワサキKLX230SM(6MT)【レビュー】
◆カワサキ・ニンジャZX-25R SE KRTエディション(MR/6MT)【レビュー】

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
NEW
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
NEW
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。 -
第325回:カーマニアの闇鍋
2025.12.15カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ベースとなった「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の倍の価格となる「レクサスGX550“オーバートレイル+”」に試乗。なぜそんなにも高いのか。どうしてそれがバカ売れするのか。夜の首都高をドライブしながら考えてみた。 -
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】
2025.12.15試乗記フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。 -
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!?














