フォードに続きキャデラックがF1参戦を表明 いまF1界で何が起こっているのか

2023.12.14 デイリーコラム 世良 耕太
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ゼネラルモーターズは2023年11月14日(現地時間)、F1パワーユニットマニュファクチュアラーとしてFIAに正式な登録を行い、2028年からアンドレッティにパワーユニットを供給すると発表した。
ゼネラルモーターズは2023年11月14日(現地時間)、F1パワーユニットマニュファクチュアラーとしてFIAに正式な登録を行い、2028年からアンドレッティにパワーユニットを供給すると発表した。拡大
アメリカのアンドレッティはチームとしてFIAに新規参戦の申請を行い、承認が得られている。順調にいけば2028年にはアンドレッティ・キャデラックが誕生することになる。
アメリカのアンドレッティはチームとしてFIAに新規参戦の申請を行い、承認が得られている。順調にいけば2028年にはアンドレッティ・キャデラックが誕生することになる。拡大
ホンダは2022年からモータースポーツ活動のすべてを担うホンダ・レーシングを通じ、レッドブル・パワートレインズに対してパワーユニットの技術支援を行っている。2026年からはアストンマーティンにF1エンジンを供給する予定だ。
ホンダは2022年からモータースポーツ活動のすべてを担うホンダ・レーシングを通じ、レッドブル・パワートレインズに対してパワーユニットの技術支援を行っている。2026年からはアストンマーティンにF1エンジンを供給する予定だ。拡大
フォードはレッドブル・パワートレインズと提携し、2026年から少なくとも2030年までオラクル・レッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリの両チームに次世代ハイブリッドパワーユニットを供給する。
フォードはレッドブル・パワートレインズと提携し、2026年から少なくとも2030年までオラクル・レッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリの両チームに次世代ハイブリッドパワーユニットを供給する。拡大

フォードに続きGMもF1参戦を表明

ゼネラルモーターズ(GM)は2023年11月14日(現地時間)、2028年からのF1パワーユニットマニュファクチュアラーとしてFIAに正式登録したことを発表した。GMはキャデラックブランドで参戦する。F1に関しては同じくアメリカのアンドレッティがチームとしてFIAに新規参戦の申請をしており、承認が得られている。最終審査のプロセスは残っているが、順調に推移すれば2028年にはアンドレッティ・キャデラックが誕生することになる。

技術支援のかたちで参戦を続けているため撤退した印象は薄いが、実はホンダは2021年シーズン限りでワークスとしてのパワーユニット供給活動は休止している。そのホンダは2023年5月24日、イギリスのアストンマーティンと組み、2026年から同チームに対して新レギュレーションに基づくパワーユニットを供給すると発表した。

ホンダは2022年からモータースポーツ活動のすべてを担う株式会社ホンダ・レーシング(HRC)を通じ、レッドブル・パワートレインズに対してパワーユニットの技術支援を行っている。この活動は2025年まで継続。2023年9月21日には、アメリカでレース活動を行う子会社のホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント(HPD)をHRC USに社名変更し、F1を含む当地での四輪モータースポーツ活動を担うと発表した。

ホンダの離脱によってパワーユニットを失うレッドブルと姉妹チームのアルファタウリは、2026年から少なくとも2030年まで、フォードが新規に開発するパワーユニットを搭載することを、2023年2月3日の段階で発表している。

これらの動きを読み解くキーワードは、「アメリカ」「2026年」「カーボンニュートラル」だ。日本にいるとなかなか実感しにくいが、アメリカではいまF1ブームが起きている(らしい)。1980年代後半から1990年代前半にかけて、日本でも一大ブームが巻き起こったが、似たような状況だろうか。

2023年11月18日(現地時間)に行われたF1世界選手権第22戦ラスベガスGP。有名ホテルやカジノが立ち並ぶ、米ネバダ州・ラスベガスの公道を大規模に閉鎖してつくられた一周6.201kmの市街地コースが舞台となった。
2023年11月18日(現地時間)に行われたF1世界選手権第22戦ラスベガスGP。有名ホテルやカジノが立ち並ぶ、米ネバダ州・ラスベガスの公道を大規模に閉鎖してつくられた一周6.201kmの市街地コースが舞台となった。拡大
ラスベガスのストリップに面する大型カジノホテル、ザ・ベネチアンリゾートラスベガスの前を行くカルロス・サインツJr.のフェラーリSF-23。ラスベガスでF1が開催されるのは、1982年以来のこと。
ラスベガスのストリップに面する大型カジノホテル、ザ・ベネチアンリゾートラスベガスの前を行くカルロス・サインツJr.のフェラーリSF-23。ラスベガスでF1が開催されるのは、1982年以来のこと。拡大
ラスベガスGPに出走したルイス・ハミルトンが駆るメルセデスAMGペトロナスのW14。決勝戦のスタートが22時となり、トランプのマークを模したデザインの縁石が並ぶなど、同グランプリではユニークな試みがいくつも行われていた。
ラスベガスGPに出走したルイス・ハミルトンが駆るメルセデスAMGペトロナスのW14。決勝戦のスタートが22時となり、トランプのマークを模したデザインの縁石が並ぶなど、同グランプリではユニークな試みがいくつも行われていた。拡大
2023年シーズンは、フロリダ州マイアミとテキサス州オースティン(写真)でもF1GPを開催。アメリカで3戦開催となったのは1982年以来、41年ぶりのこと。
2023年シーズンは、フロリダ州マイアミとテキサス州オースティン(写真)でもF1GPを開催。アメリカで3戦開催となったのは1982年以来、41年ぶりのこと。拡大

パワーユニットの新規定が追い風に

かつて日本におけるF1ブームの火付け役は、日本人フルタイムF1ドライバーの誕生とテレビ放映の開始、ホンダの活躍などが挙げられる。アメリカでは、動画配信サービスのNetflixが2019年に始めたF1ドキュメンタリー番組が人気に火をつけたと伝わる。その効果は絶大で、年を追うごとにアメリカ国内でのレース数は増加。2023年はマイアミ、USA(オースティン)、ラスベガスの3カ所で開催された。オースティン戦では、レースウイークエンドに40万人を超える観客を集める盛況ぶりだ。

アメリカの自動車メーカーが自国でのF1人気の波に乗ろうとするのは自然な流れだろう。グーグル、オラクル、アマゾンなど、アメリカに本拠を置く企業のF1チームへのスポンサードも増えている。PRのツールとして自国で人気、かつ世界中にビューワーを持つF1を活用しようというわけだ。

自動車メーカーにとっては、2026年にパワーユニットが新規定に移行するのが好都合だ。新規定では電動化比率が大幅にアップする。現在は1.6リッターV6直噴シングルターボエンジンに、運動エネルギー回生システムのモーター(MGU-K)と熱エネルギー回生システムのモーター(MGU-H)を組み合わせている。

2026年新規定では高価なMGU-Hを廃止し、MGU-Kのみとする。そのMGU-Kの最高出力は120kWから350kWへと大幅にパワーアップ。一方でエンジンの出力を抑え、エンジンとモーターの出力の比率を現在の80:20から50:50に変更し、電動比率が大幅に高まる。さらに、2026年からはカーボンニュートラル燃料の使用が義務づけられる。

2013年6月のシボレー デュアルインデトロイトレースに参戦したカーナンバー1のDHLアンドレッティ・オートスポーツシボレーインディカー。GMはかつてインディカーレースにおいて同チームにエンジンを供給しており、今回F1でもタッグを組むこととなった。
2013年6月のシボレー デュアルインデトロイトレースに参戦したカーナンバー1のDHLアンドレッティ・オートスポーツシボレーインディカー。GMはかつてインディカーレースにおいて同チームにエンジンを供給しており、今回F1でもタッグを組むこととなった。拡大
キャデラックといえば、2023年のルマン24時間レースへの参戦が記憶に新しい。21年ぶりのチャレンジで、2号車のアール・バンバー/アレックス・リン/リチャード・ウエストブルック組が、見事総合3位に入賞した。
キャデラックといえば、2023年のルマン24時間レースへの参戦が記憶に新しい。21年ぶりのチャレンジで、2号車のアール・バンバー/アレックス・リン/リチャード・ウエストブルック組が、見事総合3位に入賞した。拡大
1990年、フットワーク・アロウズ・レーシングのA11Bに搭載されたフォード・コスワースのDFRエンジン。コスワースによって開発・設計されたDFVの系譜となる最終進化形として知られる。
1990年、フットワーク・アロウズ・レーシングのA11Bに搭載されたフォード・コスワースのDFRエンジン。コスワースによって開発・設計されたDFVの系譜となる最終進化形として知られる。拡大
1989年のスペイングランプリに出走したダラーラ・フォード。ドライバーは“壊し屋”の異名を持つアンドレア・デ・チェザリスだった。
1989年のスペイングランプリに出走したダラーラ・フォード。ドライバーは“壊し屋”の異名を持つアンドレア・デ・チェザリスだった。拡大

F1に参戦するという大義名分

アメリカに大きなマーケットを持つ(むしろ、日本より断然大きい)ホンダをはじめ、GMもフォードも量産車の電動化を推し進めている。もっと具体的にいえば、電気自動車(BEV)へのシフトだ。それなのに「モーターを組み合わせたハイブリッドとはいえ、エンジンを積んだF1に参戦するとはポリシーに反するじゃないか」と思うかもしれない。

一応、筋は通っている。自動車メーカーが本当に狙っているのはBEVの普及ではなくカーボンニュートラルだ。BEVのラインナップ拡大は、カーボンニュートラルに向かうにあたり用意する複数ある手段のひとつにすぎない。例えばホンダは、2030年までにグローバルでのBEVの年間生産200万台超を目指すとする一方で、「2030年のカーボンニュートラル実現を目指している」と公表している。

だから、電動比率の高いモーターとカーボンニュートラル燃料を使用するエンジンを組み合わせたパワーユニットの開発はポリシーに反さない。むしろ、F1のパワーユニット開発で培った電動化技術や燃料の技術を量産分野に転用する意味で好都合。だから、F1に参戦するという大義名分が立つ。

もっとも、ホンダに関しては「F1に参戦したい」気持ちが先で、都合のいいフォーマットが整備されたとほくそ笑んでいるかもしれない。むしろ心配なのは、2026年になってもアメリカでF1人気が続いているかどうかだろうか(GMの場合は2028年に参戦なので、さらに不安になる……)。

(文=世良耕太/写真=ゼネラルモーターズ、フォード、本田技研工業、ダイムラー、フェラーリ/編集=櫻井健一)

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