トヨタの牙城を崩せるか? 「ホンダ・オデッセイ」復活の裏事情を聞く
2023.12.18 デイリーコラム返り咲くのは何ゆえか?
2023年12月8日、ホンダの上級ミニバン「オデッセイ」の再販売がスタートした。同社の狭山工場閉鎖を受けて生産中止となったのが2021年末だから、実に2年ぶりの“復活”である。
ホンダはこのカムバックを2023年の春からアナウンスしてきたが、「え、いつの間にカタログ落ちしていたの?」なんて思われる方がいても無理はない。なにせ、国内の上級ミニバン市場は長いこと「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」の独り勝ち。この6月に発売されたばかりの新型についても、(半導体不足により受注・生産は調整されるものの)トヨタはアル/ヴェル合わせて月間8500台=年間10万2000台の販売を見込んでいる。
業界的には、国内の上級ミニバン市場は10万台/年ほどとされている。つまり、アル/ヴェルは今後もそのほとんどを持っていくつもりなのだが、これは近年の販売実績からもハッタリなどではない。かのホンダですら「アル/ヴェルがシェアのほぼ全部を占めている」と認めるほどだ。
このような状況で、オデッセイをカムバックさせる意味はあるのだろうか? そんな身もふたもない問いに対して、同モデルの商品企画を担当した永坂 徹さんは、「大いにあります!」と胸を張る。
オデッセイの継続販売については、かねてホンダ社内でも実現したいという思いがあったそうだが、その背中を強く押したのは販売店、すなわちユーザーの声だった。弟分の「フリード」や「ステップワゴン」ではなく、どうしてもオデッセイ(のサイズやデザイン)でなければ! というお客さまが多く、2年前に販売終了してからというもの、その乗り換えが進まないことが問題になっていたという。
そこで白羽の矢が立ったのが、中国で継続生産中のオデッセイ。北米には同名のもっと大きなミニバンがあるが、かつての日本仕様車と同じ型のオデッセイは、中国市場にのみ存在する。その最短・最速の供給に2年かかったというわけだ。
「Made in China」のモノが世にあふれるいま、中国製であることの是非を問うのはナンセンスだし、ホンダも「世界のどこでつくろうと製品の品質に違いはない」と断言する。しかし、話は生活雑貨ではなく自動車だ。これだけ大きな買い物、しかも輸送機器ともなれば、日本製でないことにネガティブな先入観を抱くユーザーもいるのではないだろうか?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
決め手になるのは「走りのよさ」
その点、前出の永坂さんは心配ご無用と笑顔を見せる。「販売店でも(中国生産である点がネガに思われているかどうかを)ヒアリングしたのですが、杞憂(きゆう)でした。お客さまは、このオデッセイが中国製であることはよくご存じで、日本国内でも品質検査を実施しているなどクオリティーに差異がないことをお伝えしているからでしょう、実際の商談における影響はありませんでした」
むしろ憂うべきは、価格が高くなったことらしい。海外からの輸入となる以上、為替の影響は避けられず、新オデッセイの価格帯は480万~516万4500円となかなかのもの。2年前に比べて40万~50万円アップというイメージだ。
もっとも最新型では、それに見合うだけのアップグレードが施されてはいる。デザインのリファインはもちろん、やや見劣りしていた安全装備は、機能満載の運転支援システム「ホンダセンシング」でキャッチアップ。2列目シートはオットマンとリクライニングの操作を含む4ウェイ電動調節機構付きキャプテンシートになり、“つながる技術”を生かしたインフォテインメントも充実。USBコネクターやリモート機能などスマートフォンとの連携もぬかりなしだ。「努力の末、お客さまの購入予算に入るギリギリのところに設定した」という言葉を信じるなら、良心的な価格なのだろう。
ただこうした装備は、つわものアル/ヴェルでも「当たり前」。いじわるな言い方をすれば「なんとかキャッチアップした」かに見える新オデッセイに、彼らの牙城を崩すことはできるのか? オデッセイならではの強みは……。
「走りのよさですね」と永坂さん。低めの車高がもたらす走行安定性や、ホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV」による静粛性とスムーズな加速感こそがこのクルマの長所で、ショーファードリブン的な性格を一層強めた新型アル/ヴェルとは違った魅力があるという。燃費や0-100km/h加速もトップクラスで市場からは「ミニバンなのにこんなに走るのか!」という声が多く寄せられていると自信をのぞかせる。
そう、復活版オデッセイのパワートレインはハイブリッドに限られる。そもそも中国にはこれしかないという事情もあるが、従来も国内需要の7割以上はハイブリッド。2023年9月発売のSUV「ZR-V」に至っては約9割がハイブリッドという市場の意識変化にも鑑み、この仕様でいけるとみているそうだ。
そんな新オデッセイの月間目標販売台数は、ずばり1000台。アル/ヴェルの数字には見劣りするし、もはや勝ち負けを論じる状況にはないけれど、現実を考えればこれは大きな目標だ。なにはともあれ、アル/ヴェル独占の市場にオデッセイが戻りユーザーの選択肢が増えたというのは、歓迎すべきことだろう。
(文と編集=関 顕也/写真=webCG)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
-
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか? 2025.12.15 2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る 2025.12.11 マツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
-
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった? 2025.12.10 2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。
-
あのステランティスもNACS規格を採用! 日本のBEV充電はこの先どうなる? 2025.12.8 ステランティスが「2027年から日本で販売する電気自動車の一部をNACS規格の急速充電器に対応できるようにする」と宣言。それでCHAdeMO規格の普及も進む国内の充電環境には、どんな変化が生じるだろうか。識者がリポートする。
-
NEW
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
NEW
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。 -
第325回:カーマニアの闇鍋
2025.12.15カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ベースとなった「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の倍の価格となる「レクサスGX550“オーバートレイル+”」に試乗。なぜそんなにも高いのか。どうしてそれがバカ売れするのか。夜の首都高をドライブしながら考えてみた。 -
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】
2025.12.15試乗記フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。 -
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!?








































