第12回:トヨタ・クラウン セダン(後編)
2024.01.31 カーデザイン曼荼羅ボンネットのボリュームで車格を漂わせる
セダン衰亡の時代だからこそ、むしろ輝きを放っている「トヨタ・クラウン セダン」。しかしそのデザインをよーく見ると、それでも気になるところはあるのである。この道20年の元カーデザイナーとともに、トヨタ入魂の一台の造形を掘り下げてみた。
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渕野健太郎(以下、渕野):ところで、クラウン セダンの顔まわりに対しては皆さん、どういう評価ですか?
清水草一(以下、清水):顔はいまひとつだなぁ。表情が見えない感じで。
webCGほった(以下、ほった):ワタシはアメ車が好きなんで、この顔は結構アリです。最新の「シボレー・ブレイザー」とかみたい。
渕野:確かに、結構シボレー系に近い顔ですよね。ところで、このランプまわりは“ハンマーヘッド”って呼ばれてるんですよね? 現行の「プリウス」とか「クラウン スポーツ」とかから始まったモチーフだと思うんですけど、ただランプを薄くして左右をつなげて、大きなロアグリルで下側をしっかり見せるっていう手法は、以前の「キーンルック」の発展形かなと思います。
清水:いわれてみれば、キーンルックのツリ目を平らにしたっぽい。
渕野:普通は、こういうタイプのデザインはどちらかというと小型車に使われるもので、車格のあるクルマではなかなか使いづらいんです。メルセデス的にグリルが中央にあって、左右にランプがポンポンってついてるほうが、車格感が出しやすいですから。そういう伝統的なカタチをクラウン セダンは壊してるんですけど、これはこれで車格を感じる。このあたりもトヨタはうまいです。この構成で自分がデザインを描いたら、たぶんこんな車格感は出ない(笑)。
ほった:どのあたりで車格感が出てるんですか?
渕野:まず顔が低く見えるじゃないですか。低く見せすぎるとスポーティーに寄りすぎるんですけど、このクルマはフードにボリュームがある。フードが結構厚いまま前のほうまできて、それから「くっ」と下がっている。最近、他のトヨタ車もこういう傾向がありますけど、こうすることでボリュームが強調されて、立体感が出て、車格感も出てるんだと思います。
清水:なるほど!
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フロントマスクがどうしても気になる
渕野:そういった点も含めて、トヨタはこのクルマで変わったことはやってないんですけど、「これがクラウンです」って言われたら「そうですね」って妙に納得させられる。
ほった:自分は「クラウン セダンなのに、すごい攻めたな!」っていう印象もあるんですけど。
清水:同感だよ。これまでのイメージをほとんど捨てて、捨て身で攻めてると思う。
ほった:ただ、グリルの桟が縦なのがオッサンくさいっていうか……。
清水:わかるわ~! 縦桟がダメというわけじゃないんだけど、サイドはすっきり若々しいのに、顔はサイドとうまくつながってないし、表情がない。……ヘッドランプが見えないから、そう感じるんだと思うけど。
ほった:あとは、上下のグリルの間のバーが細すぎません? バンパーの部分にもう少し厚みがあってもよかったんじゃないかな。まぁ「単にお前の好みやんけ」って言われそうな部分ですけど。
清水:俺たち、ヒトの顔に好き放題ケチつけてるね!
渕野:これは意外と難しいところですよね。まずは「この構成がトヨタの顔だ」っていうところがあって、このクルマだけ特別なことをやろうとはしていないんですよ。ただ、確かにちょっと複雑に見えてしまうところがあるかもしれない。例えばグリルですけど、コンベンショナルな自動車デザインでいうと、「グリルから始まる立体」という点が重要視されるじゃないですか。だけどこのクルマは、普通のクルマのグリルがあるところじゃなく、その下にグリルがある。
清水:左右のヘッドライトの間は、ただ黒いだけですね。
ほった:いや、一応ここも穴は開いてますね。そうは見えないように、気を使ってつくってるみたいだけど。
渕野:いずれにせよ、普通はザブ的なグリルがあるところに、メインのグリルがある。それにこのグリルの立体をドア部がフォローしていないので、ボディーとのつながりがちょっと薄いんですよね。ドア部を正だと考えると、グリルのほうはもっとシンプルでよかったのかもしれません。
ほった:確かに、このグリルがボディーのカタマリの始まりに位置している感じは、あんまりないですね。
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顔とお尻がボディーサイドと分断して見える理由
渕野:それと、ランプの下側のグリルの左右、バンパーコーナーのあたりが、ちょっとビジーに見えなくはないなと思います。
ほった:う~む。斜め前から見ると、ドアサイドはすんなりスッキリしてるんだけど、それをバンパーコーナーのあたりの出っ張りが切って、流れを止めちゃってる感じがしますね。
渕野:サイドからの流れをコーナーで切って、フロントは独自の立体構成をするというのは結構一般的なのですが、このクルマの場合はもっとシンプルにしたほうが、より「クラウンらしさ」は出たかもしれないですね。スケッチを描いていない自分が言うのは恐縮ですが。
清水:真横から見るとすごく伸びやかでカッコいいと思うんですが、フロントだけじゃなくリアのほうもサイドとつながってないみたいだし、テールランプまわりの質感も足りないような気がするんですよ。
渕野:リアに関しては、ちょっと淡泊という感じもあるのかな。車格を感じさせるっていうよりは、かなりドライなデザインのリアコンビランプなので。確かに、時代的にはこういうシンプルな方向に向かってはいますけど。
ほった:個人的には、テールランプはシンプルで悪くないと思いますけどねぇ。
渕野:そうですね、ランプよりもバンパーコーナーの処理がややビジーに見えるのが気になります。
ほった:八の字ヒゲみたいなやつですね。
清水:あ、「スープラ」のお尻にあるヤツの小型版か!
渕野:フロントもそうなんですけど、こういうモチーフを最近のトヨタはよく使います。バンパーの立体を左右両側から挟むような。サイドビューのシンプルさからしたら、こういうところも、もっとシンプルにしてもよかったかもしれない。
清水:……こいつらのせいだったんだ、顔とお尻がサイドビューから分断されてるみたいに感じたのは。
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ファストバックのセダンというだけでスバラシイ
渕野:クルマをデザインするとき、デザイナーはどうしてもサイドビューを重視して考えるんですよ。クルマのキャラクターが分かりやすいですからね。と同時に、基本的な立体構成を考えようとすると、フロントクオーター、リアクオーターを含めた3ビューを行ったり来たりしながら試行錯誤します。クルマを評価するときも、まずはサイドビューで「このクルマのシルエットはどうだろう?」というのを確認する。続いてフロント、リアっていう感じで。まずはサイド、つまり全体の造形に目をやるんです。
清水:自動車デザインは、細部ではなく、まず全体のフォルムを見ろ、ですね。
渕野:でもデザイナーも、結局最後は顔をこねくりまわすんです(笑)。
ほった:へぇー。
渕野:最後の最後まで、ああでもないこうでもないって。ほかはもう完全に決まってるんだけど、顔まわりは開発の最後のほうまでいじれるんで。そういうところがアカンかなとは思いつつ、やっちゃう(笑)。でも、よそのメーカーやクルマを見ても、やっぱり顔まわりは一番大変なんだなと思います。
清水:フォルムだシルエットだといっても、やっぱりクルマは顔が命……。
渕野:まだ屋内でしかクラウンを見てないので、外を走ってる姿を遠目から見たいですね。この顔がどう感じられるか、確認したい。
清水:外で見ると、顔とお尻は弱いけど、サイドの迫力だけで人目を引くんですよ。それにファストバックでしょ。このサイズのファストバックっていうだけで、すごくカッコよく見えるんです。
渕野:やはりそこですか。クラウンって、昔は伝統的にCピラーがしっかりしてましたよね。それで後席に乗る人の顔がちゃんと隠れる、みたいな。
ほった:そしてそこに王冠バッジがついているという。
渕野:そうそう。今度のクラウン セダンでそれをやってもカッコよかったんじゃないかと思いますけど、これはこれですごくいい。いま出てる3つのクラウンのなかで、これが一番カッコいいと思います。
ほった:ワタシも、新生クラウン軍団ではこれが一番です。
清水:賛成。
一同:おー(拍手)。
渕野:珍しく意見が一致しましたね。
清水:いろいろ文句をつけましたけど、これが一番刺さります。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、向後一宏、山本佳吾、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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