クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

第89回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(後編) ―全部ハズしたら全部ハマった! “ズレ”が生んだ新しい価値観―

2025.10.29 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!
2025年9月に発表・発売された新型「ホンダ・プレリュード」。クーペ不遇の時代にホンダがあえて世に問うた、スペシャリティークーペである。
2025年9月に発表・発売された新型「ホンダ・プレリュード」。クーペ不遇の時代にホンダがあえて世に問うた、スペシャリティークーペである。拡大

24年ぶりの復活もあって、いま大いに注目を集めている新型「ホンダ・プレリュード」。すごくスポーティーなわけでも、ストレートにカッコいいわけでもないこのクルマが、これほど話題を呼んでいるのはなぜか? カーデザインの識者と考える。

前編へ戻る)

コンセプトモデルでは非公開だったインテリアは、2025年4月のプロトタイプ発表で明らかとなった。
コンセプトモデルでは非公開だったインテリアは、2025年4月のプロトタイプ発表で明らかとなった。拡大
ホンダの電動車ではおなじみの、ボタン式のシフトセレクター。最初は戸惑うものの、慣れると誤操作しづらくなるスグレモノだ。意匠的にも少し自動車離れしていて、特に「プレリュード」のようなクルマでは、イメージに親和している。
ホンダの電動車ではおなじみの、ボタン式のシフトセレクター。最初は戸惑うものの、慣れると誤操作しづらくなるスグレモノだ。意匠的にも少し自動車離れしていて、特に「プレリュード」のようなクルマでは、イメージに親和している。拡大
インテリアカラーは「ブルー×ホワイト」(上)と「ブルー×ブラック」(下)の2種類。後者は、車体色が「ムーンリットホワイト・パール」の場合のみ選択可能となる。
インテリアカラーは「ブルー×ホワイト」(上)と「ブルー×ブラック」(下)の2種類。後者は、車体色が「ムーンリットホワイト・パール」の場合のみ選択可能となる。拡大
ホンダのメインマーケットである米国でも、新型「プレリュード」は2026年モデルとして間もなく発売される予定だ。写真は、日本仕様にはない車体色「ブーストブルー・パール」の車両。
ホンダのメインマーケットである米国でも、新型「プレリュード」は2026年モデルとして間もなく発売される予定だ。写真は、日本仕様にはない車体色「ブーストブルー・パール」の車両。拡大

縮小する“普通のクーペ”市場

webCGほった(以下、ほった):さて、今回は発売を境に世間の評価が変わったんじゃないか? という新型プレリュードのお話をしているわけですが。プロトタイプのころと今とで違う点といえば、インテリアをがっつり見られるようになったことも挙げられますけど。

渕野健太郎(以下、渕野):基本のレイアウトは「シビック」とそんな変わらないと思いますけど、外側を変えて、センターコンソールをしっかりつくり込んだような印象です。そんなに新しいことはしてないんですけどね。

ほった:このクルマだと、押しボタン式のシフトセレクターが結構しっくりきますね。

渕野:このクルマの場合はね。

ほった:内装の色が、ほとんどブルーと白の組み合わせなんですよね。ボディーカラーが白の場合だけ、ブルーと黒の組み合わせも選べる。アメリカでもこの組み合わせだけなのかな? あっちの人ってブラウンが好きなイメージなんだけど。

清水草一(以下、清水):そうなの?

ほった:ワタシの偏見ですがね(笑)。

渕野:アメリカというと、以前はこういうクーペって、若い女性が最初に買うクルマってイメージでしたよね。

清水:セクレタリーカー。

渕野:今はそういうトレンドはないですよね。

清水:ないですねー。そもそもセクレタリー=女性っていう先入観も、今のご時世、禁止では?

ほった:自分で言っておいて(笑)。まぁセクレタリーカーじゃなくてスペシャリティークーペってジャンルで見ても、マーケットはほぼ消滅していますがね。

ホンダ の中古車webCG中古車検索

この値づけは高いの? そうでもないの?

ほった:うーん。前回もお値段の話になりましたけど、数がはけないからこそ、高い値づけにして単価で稼ごうってことにしたのかな? アメリカではいくらなんだろう?(みんなでググる)

渕野:……だいたい4万ドルからって報道が出ていますね。

清水:円換算で600万円ちょいから?

渕野:向こうの金銭感覚でいうと、400万円くらいですか?

清水:平均収入が日本の3倍近いんで、もうちょっと安い感じでは。

ほった:いやいや。あっちでは少数の大金持ちが富をガメてますから。普通の人の金銭感覚は、案外、日本と同じような感じじゃないかな。

渕野:だとするとですよ。ホンダってプレミアムなブランドではないじゃないですか、北米でも。それでこのクルマの値づけはどうなんだろう?

ほった:確かにプレミアムなブランドじゃないですけど、ホンダってアメリカではやたらと好感度が高いですからね。4万ドルからのSUVやミニバン、トラックもちゃんと買ってもらえているし。さっきと言ってることが逆になっちゃいますけど(笑)、プレリュードのこのお値段も、そんな法外なものじゃないかもしれませんよ。

日本の話に戻りますけど、個人的にはもうちょっと高くてもいいから、「ホンダセンシング360+(プラス)」をブチ込んだグレードもあったらよかったんじゃないかなと。「アコード」みたいに。

渕野:360+って、どういうところがすごいんですか?

ほった:アイズオフはできないけど、手放し運転が渋滞時だけじゃなくて高速走行にも対応しているんです。新しいイメージのクルマだし、そういうハイテクを付加価値にするのもアリじゃないかと。半自動運転で高速道路をロードグライド! みたいな。

清水:俺はそっちより、シートをゴージャスにしてほしいな。ベンチレーションとマッサージがないと、中高年は満足できないよ!

ほった:なんか、あんまりデザインの話じゃなくなってきましたね(笑)。

非スポーツカー系のクーペの市場は、米国でもすっかり衰退。それもあって、新型「プレリュード」はかつてのセクレタリーカーとは違うターゲットを狙ったものに見える。
非スポーツカー系のクーペの市場は、米国でもすっかり衰退。それもあって、新型「プレリュード」はかつてのセクレタリーカーとは違うターゲットを狙ったものに見える。拡大
日本では高価格帯の商品で苦戦しているホンダだが、米国ではそうしたモデルもしっかり売れている。例えばSUVの「パイロット」(写真)は4万0200ドルから、ミニバンの「オデッセイ」は4万2795ドルから、ピックアップトラックの「リッジライン」は4万0595ドルから……と、いずれもスターティングプライスは600万円を超える。
日本では高価格帯の商品で苦戦しているホンダだが、米国ではそうしたモデルもしっかり売れている。例えばSUVの「パイロット」(写真)は4万0200ドルから、ミニバンの「オデッセイ」は4万2795ドルから、ピックアップトラックの「リッジライン」は4万0595ドルから……と、いずれもスターティングプライスは600万円を超える。拡大
「ホンダセンシング360+」は、高速道路でのハンズオフ走行機能や車線変更支援機能などを備えた先進運転支援システム。webCGほったも「アコード」で体験したが、まさに未来の乗り物だった。
「ホンダセンシング360+」は、高速道路でのハンズオフ走行機能や車線変更支援機能などを備えた先進運転支援システム。webCGほったも「アコード」で体験したが、まさに未来の乗り物だった。拡大
清水「いや、もうそういうワケわからんハイテクはいいから、このシートにベンチレーションとマッサージ機能を付けてよ!」
清水「いや、もうそういうワケわからんハイテクはいいから、このシートにベンチレーションとマッサージ機能を付けてよ!」拡大

「プレリュード」と「シビック タイプR」のきれいな対比

清水:プレリュードはデザイン的にも、いやコンセプトからして、ちょっとズレてるじゃないですか。いや、だいぶズレてる。それがいいんだと思うんですよ。昔のプレリュードっぽくない形だし、需要なさそうだし、意外性のカタマリでしょ。

ほった:そのご意見、相当にカーマニア的ですよ!

清水:裏の裏は正解みたいな。

ほった:確かに3代目のリバイバルより、このカタチのほうが、今の時代にストッとはまる感じがしますね。

渕野:いや、そうかもしれません。それでもやっぱり思うのは、「プレリュード」っていう車名の重みですよね。こんなに強いんだなあと。

清水:「トヨタ86」や「スープラ」の復活のときは、そんなでもなかったんだけど、なぜかプレリュードはインパクト絶大。ミイラが生き返ったから?

ほった:清水さんが興味がなかっただけでしょ(笑)。86のときだって、世間は大騒ぎでしたよ。

清水:いやいや。俺ら世代にとっては、プレリュード復活のほうが断然一大事なんだって。これは誰も望んでなかったし、なんの役にも立たないからかもしれない。86やスープラはモータースポーツの役に立つけど、プレリュードはそれすらない。ムダにスタイリッシュなだけ(笑)。

ほった:SUPER GTのGT500車両は、プレリュードになるっぽいですけど。

清水:ちゃちゃ入れないでよ(笑)。とにかく、私はずっと「プレリュード タイプRを出してほしい」と言ってたけど(参照)、ダメだな。出したらダメだ。それは全然新しくない。個人的には、シビック タイプRにはひかれないんです。もうそういう暑苦しいのは卒業してるんで。

ほった:こないだ「マセラティ・クアトロポルテ」買ったのに?

清水:あれは化石だから。プレリュードと「シビック タイプR(レーシングブラックパッケージ)」は値段が同じだけど、どっちを選ぶかって言われたら、自分はプレリュードだな。

ほった:ワタシは断然タイプR派ですが、清水さんの言わんとしていることは、すっごくわかります。確かにタイプRは既存の価値観のクルマですよね。そう考えると、プレリュードとタイプRの対比はとてもきれいですね。ホンダの人はこれを狙ってやったのかな? それとも、偶然出来上がっちゃったのか。

清水:狙いどおりだったらすごいね。千里眼。とにかく結果的によかった。

かつて一世を風靡(ふうび)した、1987年登場の3代目「プレリュード」(上)と、6代目となる新型プレリュード(下)。
かつて一世を風靡(ふうび)した、1987年登場の3代目「プレリュード」(上)と、6代目となる新型プレリュード(下)。拡大
ほった「確かに、3代目はいま見てもカッコいいクルマではありますけど、これをリバイバルしても、新型『プレリュード』ほど今の時世にはまるものには、ならなかった気がしますね」
ほった「確かに、3代目はいま見てもカッコいいクルマではありますけど、これをリバイバルしても、新型『プレリュード』ほど今の時世にはまるものには、ならなかった気がしますね」拡大
HRCが公開した「プレリュード」のGT500マシン。2026年からはこのクルマでSUPER GTを戦うというが……。 
清水「なんか、イメージ違くない!?」 
ほった「まぁ、かつてはトヨタも『レクサスSC』とか走らせてましたから(笑)」
HRCが公開した「プレリュード」のGT500マシン。2026年からはこのクルマでSUPER GTを戦うというが……。 
	清水「なんか、イメージ違くない!?」 
	ほった「まぁ、かつてはトヨタも『レクサスSC』とか走らせてましたから(笑)」拡大
ホンダが誇る世界最速FFマシンこと「シビック タイプR」。「プレリュード」と上下関係をつくるべからずということで、上級仕様「レーシングブラックパッケージ」の価格がプレリュードと同額に“値上げ”されたのは、前編でも述べたとおり。
ホンダが誇る世界最速FFマシンこと「シビック タイプR」。「プレリュード」と上下関係をつくるべからずということで、上級仕様「レーシングブラックパッケージ」の価格がプレリュードと同額に“値上げ”されたのは、前編でも述べたとおり。拡大
“速さ”という古典的なクルマの価値を突き詰めた「シビック タイプR」と、汗くささを感じさせない、さわやかで爽快な存在感を追求した「プレリュード」。今後は、この2台が両輪となってホンダのスポーツ(?)イメージを引っ張っていくこととなる。
“速さ”という古典的なクルマの価値を突き詰めた「シビック タイプR」と、汗くささを感じさせない、さわやかで爽快な存在感を追求した「プレリュード」。今後は、この2台が両輪となってホンダのスポーツ(?)イメージを引っ張っていくこととなる。拡大

少しずつズレていることが独創性につながっている

ほった:それにしても、この世間の反応はちょっと予想外でしたね。前回のジャパンモビリティショーでコンセプトモデルが出たときは(参照)、世間の反応も冷たくて、失礼ですけど正直「コケちゃったか」って思ったんですが。

さすがに今の盛り上がりは瞬間最大風速でしょうけど、これだけ世間が騒ぐと、若い人も「なんなんだろ?」ってなって、そこからまた広がってくような気もします。

渕野:プレリュードの名前をつけたことも大成功ですよね。自分にとってプレリュードは、世代がズレてるのでそんなに思い入れはない車名なんですけど。

清水:デザインもね。渕野さんが2年前に指摘した(その1その2)、ボディー前部が高いっていう部分も、結果的によかったなと思うんですよ。バカウケした3代目なんか「サスペンションストロークがないんじゃ?」っていうくらいボンネットが低かったのに、その真逆でしょ。全然違うところがいいんですよ。クルマは低いほどカッコいいっていう常識も、もう暑苦しい。

ほった:そういうのが欲しければ古いクルマに乗ればいいと。

清水:そう。そういうのの本物はクラシックスポーツカーだけ!

渕野:私はプロポーションがまったく異なるのでそう思わないのですが、顔まわりが「トヨタ・プリウス」だという意見もありますよね?

清水:いやー似てるとは思いますよ。でも、こういうヘッドライトは今のスタンダードだから。1980年代のリトラクタブルみたいな。

渕野:自分もそこらへんは全然気になりません。それと、いま清水さんが言われた「エンジンフードが高いところが、むしろいい」というのは、フロントオーバーハングがこれだけ長いからそう見せられているところもあって、そんなふうに方々がちょっとずつズレている感じが、オリジナリティーにつながっているのかなって気もします。

清水:全部ハズしたら、それが全部ハマったクルマですね(笑)。

渕野:こういうクルマがホンダのイメージリーダーになったらいいですよね。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)

2023年のジャパンモビリティショーに出展された「ホンダ・プレリュード コンセプト」。当時の世間の反応はかなり薄く、正直なところ、発売時にこんなに話題になるとは思わなかった。
2023年のジャパンモビリティショーに出展された「ホンダ・プレリュード コンセプト」。当時の世間の反応はかなり薄く、正直なところ、発売時にこんなに話題になるとは思わなかった。拡大
計画当初は「プレリュード」という名前になる予定はなかったという、新型プレリュード。まったく新しいクルマでありながら、この車名を付与した担当者の慧眼(けいがん)に拍手である。
計画当初は「プレリュード」という名前になる予定はなかったという、新型プレリュード。まったく新しいクルマでありながら、この車名を付与した担当者の慧眼(けいがん)に拍手である。拡大
一般的なスポーツクーペと比べると、フロントに厚みがあり、ノーズが高い位置にきている「プレリュード」。ルーフラインの形状もあって、全体的に“前がかり”な印象を覚えるが、それが他車にはない個性になっている。
一般的なスポーツクーペと比べると、フロントに厚みがあり、ノーズが高い位置にきている「プレリュード」。ルーフラインの形状もあって、全体的に“前がかり”な印象を覚えるが、それが他車にはない個性になっている。拡大
渕野「フロントまわりはいかがです? 『トヨタ・プリウス』に似ていると言われますが」 
清水「気にならないですね」 
ほった「いちいちそういう指摘をする人って、丸いシールドビームが義務づけられていた時代や、リトラの全盛期は、どうしていたんですかね? 世の中全部のクルマに難癖つけてたのかな」
渕野「フロントまわりはいかがです? 『トヨタ・プリウス』に似ていると言われますが」 
	清水「気にならないですね」 
	ほった「いちいちそういう指摘をする人って、丸いシールドビームが義務づけられていた時代や、リトラの全盛期は、どうしていたんですかね? 世の中全部のクルマに難癖つけてたのかな」拡大
定石に従わないコンセプトとデザインで、他車にはないアイデンティティーを獲得した新型「プレリュード」。これもまた、ある種の「ホンダらしさ」を具現したモデルといえるかもしれない。
定石に従わないコンセプトとデザインで、他車にはないアイデンティティーを獲得した新型「プレリュード」。これもまた、ある種の「ホンダらしさ」を具現したモデルといえるかもしれない。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

カーデザイン曼荼羅の新着記事
カーデザイン曼荼羅の記事をもっとみる
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。