第787回:オンもオフもお任せあれ! ヨコハマの新たなSUV用タイヤ「ジオランダーA/T4」を試す
2024.05.02 エディターから一言ラインナップは実に8種類!
横浜ゴムのSUV/ピックアップトラック用タイヤである「ジオランダー」シリーズに、新しく「A/T4」が登場した。この2024年5月から、全世界で順次発売される。
新しく登場したジオランダーA/T4は、“A/T”という名称から想像されるとおり、いわゆるオールテレインタイヤだ。ジオランダーブランドにはほかに「M/T(マッドテレイン)」に「H/T(ハイウェイテレイン)」「CV(クロスオーバービークル)」といった名称のモデルも用意されている。このうち、A/T(もしくはAT)とM/T(もしくはMT)という呼称は他社タイヤでも一般的に使われるが、H/TやCVはジオランダー独自の名称である。さらに、ジオランダーKTという商品もあるが、これは軽トラサイズのオールテレインタイヤである。
ジオランダーにおけるA/Tの位置づけは、もっともオフロード性能を重視したM/Tと、逆にオンロード志向を強めたH/TやCVの、ちょうど中間となる。つまり、オフロード性能もきっちり確保したうえで、乗用車としてのオンロード性能や快適性もそれなりに両立させたタイヤ……ということだ。本格オフロード系SUVやピックアップトラックの市販車が純正で履いているのも、たいがいがA/T=オールテレインタイヤである。
横浜ゴムはM/TやA/T、CVそれぞれに複数の商品を用意しており、国内で現在展開されているジオランダーブランドのタイヤは、アフター用だけで計9種類のラインナップがそろう。国産ブランドの競合タイヤでいうと、「ブリヂストン・デューラー」と「ダンロップ・グラントレック」は3種類、「ファルケン・ワイルドピーク」は2種類のみで、8種類の「トーヨー・オープンカントリー」をもおさえてトップの充実ぶりだ。
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ヨコハマのグローバル戦略を担う屋台骨
A/T4は、2016年に発売された「ジオランダーA/T G015」の実質的な後継モデル(現在はG015も継続販売中)であり、よく見るとサイドウォールには「G018」の刻印もある。ただ、今回はより親しみやすい商品名を意図して、ジオランダーのオールテレインとしては第4世代を意味する「A/T4」という商品名を前面に押し出している。
オールテレインタイヤは、ピックアップやオフロード車が人気の北米や東南アジアで大量の需要があるので、前身のG015も横浜ゴムでは世界でもっとも多く売れるタイヤだったという。で、その後継となるA/T4も、横浜ゴムの世界的ベストセラータイヤになることが見込まれている。
北米や東南アジアと比較すると、日本でのオールテレインタイヤの需要は多くないのが実情だ。しかし最近は日本でも、SUVだけでなくライトバンや軽トラック、軽バンなどに、ゴツめのオールテレインを履かせたカスタマイズを見かけるようになった。そんななかで投入されるA/T4は、日本でもG015以上の人気になることが期待される。
ジオランダーA/T4は、G015で定評のあるバランスのとれた性能を受け継ぎつつ、よりオフロード感の強いデザインとすることが最大のコンセプトだという。アグレッシブなトレッドパターンとサイドウォールのブロックデザインによって、実際のオフロード性能や耐カット/チッピング性、さらにはオンロードでのウエット性能も向上したそうだ。またG015同様に、冬用タイヤ規制時も走行可能な“スノーフレークマーク”を、全サイズで取得している。
サイドウォールにかかるブロックのパターンが、両サイドで異なる意匠となっているのも面白い。どちらを外側にして組んでも、基本的に走行性能には影響はないそうで、タイヤのデザイン性をより楽しませるための新しい試みだ。
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デザインも性能も、ちょっとオフロード寄りに
先代にあたるG015が、快適性を重視しながらオフロードにも配慮した、さしずめ「オンロードオールテレイン」とすれば、新しいA/T4は、オンロード性能を考慮しながらオフロード性を重視した「オフロードオールテレイン」……と開発担当者は説明する。
今回の取材では、そんな新しいジオランダーA/T4をプチ試乗する機会が得られた。舞台となったのは群馬県のアサマレースウェイとその周辺の公道で、少し深めのダート、湿ったマッド、そして荒れ気味のアスファルト舗装……といった路面を走ることができた。
われわれにあてがわれた試乗車は「三菱トライトン」と「トヨタ・ハイラックス」「ジープ・ラングラー」、そして「トヨタRAV4」。どれもオールテレインタイヤが標準装着されているクルマである。ただ、この7月までにひとまず国内発売されるA/T4はすべて、負荷能力の高いLTタイヤ(=北米規格のライトトラック用タイヤ)であり、今回も全車がLTタイヤを履いていた。ちなみにLTタイヤは通常の乗車用ラジアルタイヤと構造が異なるため、高めの空気圧となっている。
実際にクルマに装着されたA/T4は、よりエッジのきいたサイドブロックに大きめのセンターブロック、ジクザグを描くグルーブ(縦溝)で、オフロードタイヤらしいイカツさはなるほどG015より明らかに増している。簡単にいうと、SUVに履かせると、素直にかっこいい。
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悪路では頼もしく、舗装路では快適
より本格的なマッドテレインタイヤと比べれば、オールテレインタイヤは悪路でのグリップが落ちるのだろうが、今回のような勾配の少ないダートやマッドであれば、ジオランダーA/T4のグリップに不足を感じることはなかった。もちろん、強引にグリップを失わせることは簡単だが、踏み固められた砂浜や河原、未舗装の林道、キャンプ場、アドベンチャー施設……などなど、一般的に遭遇しうる悪路で困ることはまずないだろう。このあたりは、いかにもオフロードタイヤらしい頼もしさが実感できる。
続いて周辺の一般舗装路に乗り出す。角ばったタイヤ形状やゴツいトレッドパターンに加えて、LTタイヤということもあって、正直なところ乗り心地や静粛性に今回は期待していなかった。しかし、実際はいい意味で裏切られた。オフロード志向のタイヤとしては、突き上げも鋭くなく、パターンノイズもあまり気にならない。コーナリングやレーンチェンジでも、ほどよいレスポンスと正確さで、特別な運転のコツも不要である。
舗装路だけの性能なら、もちろん同じジオランダーでもH/TやCV、あるいはSUV用サマータイヤのほうが快適で高性能なのは否定しないが、このビジュアルとオフロード性能なら、十二分すぎるほど許容できる範囲にある。非舗装路を走る機会が少なくなく、さらにクルマをもう少しタフに演出したいSUV乗りには好適なタイヤだろう。
横浜ゴムは「YX2026」と銘打った新長期計画で「高付加価値商品の販売伸長」を目標としている。オフロード系の好事家筋の間でも、世界的に高く評価されているジオランダー。その新商品であるA/T4は、新長期計画でもキーとなる存在だそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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