EVの負け組どころか営業利益は5兆3529億円! トヨタ絶好調の理由を探る
2024.05.30 デイリーコラムトヨタの営業利益は5兆3529億円!
2024年も5月は中旬をすぎて、国内自動車メーカー各社の2023年度(2023年4月~2024年3月)の決算が出そろった。日本の自動車のように外貨で食べている産業にとって、今の記録的円安は猛烈な追い風だ。実際、自動車各社の2023年度決算は、まさにわが世の春……ともいうべき数字がおどる。
売上高では、認証不正で出荷停止が続いたダイハツ工業以外の乗用車7社が、こぞって過去最高を記録。本業でのもうけを示す営業利益についても、トヨタ自動車が日本の上場企業初の5兆円を突破(!)したほか、昨年度は赤字だった四輪事業が黒字化した本田技研工業の1兆3819億円、スズキの4656億円、マツダの2505億円、そして三菱自動車の1910億円も、それぞれ過去最高だったという。
日産自動車の5687億円、スバルの4682億円という営業利益は過去最高とはいかなかったが、3年前に赤字だった日産はこれで2年連続の黒字で、しかも今年度は前年度比で1916億円の増加である。スバルの営業利益も同じく2年連続の増加であり、しかも今年度は前年度比で75%増の高い伸び率を示した。加えて、売上高は両社とも過去最高なのは前記のとおりで、絶好調であることには変わりない。
なかでも、飛びぬけた数字を示しているのはトヨタだが、規模が大きいだけでなく、その伸び率も圧倒的だ。45兆0953億円という売上高は前年度比で21.4%増、5兆3529億円の営業利益にいたっては96.4%増(つまり約2倍!!)である。ちなみに、この営業利益は自動車メーカー世界2位の独フォルクスワーゲングループの3兆円弱も大きく上回る。
トヨタはちょうど1年前の2022年度決算でも2兆7250億円という営業利益を計上したが、多くの自動車メーカーが増益にわくなかで、じつは減益だった。それはコロナ禍や部品不足、原材料費高騰に苦しむサプライヤーへの支援やサプライチェーン全体の体質強化、さらに研究開発費の積み増しによる支出を原因とした。ただ、トヨタはその決算発表時、次の2023年度の予想として「半導体供給の好転が予想されることに加えて、サプライチェーンの体質改善や工場稼働率向上のために積極的に投資してきた取り組みが実を結ぶ」として、3兆円の営業利益を見込むと語っていた。
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HEVの収益性は内燃機関車と同じかそれ以上
しかし、ふたを開けてみると、2023年の営業利益は見込みを大きく上回って、空前の5兆円オーバーを記録したわけだ。その背景にはもちろん円安の効果もあるのだが、トヨタによると為替による増益効果は6850億円。それを単純に差し引いても営業利益は4兆6000億円以上。これは「クルマをつくって売る」というガチのもうけが大きいということで、健全な経営環境であることを意味する。
そんなトヨタ好調の要因として、経済メディアがあげるのが、くだんの円安に加えて、ハイブリッド車(HEV)の販売増だ。2023年度に売りあげた約1030万台のトヨタ/レクサス車のうち、HEVはその4割近くを占める385万台以上にのぼった。前年度比で、じつに約113万台増。逆にトヨタの出遅れが指摘されているバッテリー電気自動車(BEV)は12万台弱にとどまっている。
すでに報じられているとおり、欧米や中国が普及に積極的なBEVはこれまで右肩上がりで販売を伸ばしてきたが、補助金の減額や打ち止めをする国が増えたこともあり、その右肩上がりの成長は明確に鈍化した。しかも、BEVはまだまだコスト高のうえに、研究開発費もかさんでおり、「BEVで実際にもうけを出しているのは、米テスラと中国BYDくらい」というのが業界筋の見立てである。
いっぽう、トヨタのHEV原価は、初代「プリウス」を世に出した1997年当時の6分の1程度まで低下しているという。今回の決算会見でも「(トヨタ製HEVの収益性は)すでに内燃機関車と同じか、それ以上で、(HEVの)台数が伸びれば純粋に収益にも貢献する構造」になっていると説明された。このように1台ごとにしっかり利益の出る商品がバカ売れしているのだから、トヨタはもうかるわけだ。
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1兆7000億円をBEVとSDV向けに投資
かねて欧米の投資家筋などから「今をときめくBEVに消極的なトヨタは負け組!?」と揶揄(やゆ)されたこともあり、昨今のBEV普及の一服感とトヨタの好調ぶりを合わせて、「それ見たことか!」と色めき立つBEV懐疑派も多い。
しかし、長期的には、少なくとも乗用車がBEVに移行していくというトレンドは変わっていないし、パワートレインの選択肢をいくつも用意する“マルチパスウェイ”を掲げるトヨタ自身も、BEVが将来的な主力パワートレインのひとつになることは否定していない。ただ、トヨタの最新BEVである「トヨタbZ4X」や「レクサスRZ」のパワートレインのしつけや電池の使いこなし(充電や放電制御)を見るに、BEVの最先端を走っているとは、お世辞にもいいがたい。
……といった現実は、当のトヨタも強く危機感を抱いており、「今こそ足場を固める時期」と、この2024年度だけで2兆円超の投資をおこなう計画も発表した。このうち、サプライヤーや販売店などへの人的支援に3800億円、残る1兆7000億円を“成長領域”に向ける。
トヨタのいう成長領域とは、ずばりBEV(や水素)がひとつ、もうひとつが「ソフトウエアディファインドビークル(SDV)」である。
SDVとは、ネット接続によって販売後も車両制御ソフトウエアを更新したり、機能を増やしたりできるクルマのことだ。SDVは米テスラなどの新興BEVメーカーの得意技だが、昔ながらの車体構造に、新しいデバイスを上積みしながら進化してきたトヨタのような既存自動車メーカーにとっては、逆に最大の弱点とされている分野である。そうしたメーカーのクルマの場合、細かい部分はいまだ制御システムが分散したり、機械的に動かしたりしている部分も残るからだ。しかし、今後の自動運転技術やAI化にはSDVは避けて通れない。
トヨタにかぎらず、BEVやSDVでの技術的劣勢が否めなかった日本のクルマ産業にとって、BEVの世界的一服感と記録的円安がピタリ重なった現在は、まさに“神風”が吹いている状態といえる。だからこそ、過去最高の決算に浮かれることなく……なんてことは、トヨタがいちばん分かっている。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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