第793回:ハイパフォーマンスなのに静かでエコ!? グッドイヤーの新製品「イーグルF1アシメトリック6」を試す
2024.07.05 エディターから一言![]() |
グッドイヤーから登場した、新たなフラッグシップタイヤ「イーグルF1アシメトリック6」。ハイパフォーマンス系のタイヤながら、静かで快適で、しかもエコ! ……と、そんなうたい文句はどこまで本当なのか? 特設コースと一般道で、その実力の一端に触れた。
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サマータイヤに求められる性能を“全部盛り”
読者諸氏の皆さまは、グッドイヤーと聞いてどんなイメージを持つだろう? ブリヂストンならド定番。ミシュランならプレミアム。ではグッドイヤーは? ……メーカー/インポーターの皆さまには申し訳ないけれど、確固としたイメージを持つ人は、あまりいないのではないかと思う。
ではお前は? と問われれば、ちょっとした刷り込みもあって、実は結構イメージがいい。クルマのインプレッションをちょいちょい任され始めた時分、「乗り心地がいいわぁ」と思ったクルマのタイヤが、たびたび同社の「イーグルF1」だったのだ(参照:その1、その2)。そんなわけで記者にとり、グッドイヤーは「あまり評判は聞かないけれど、実はいいタイヤをつくっているメーカー」というイメージだった。
今回、そのグッドイヤーの、イーグルF1の上級製品が世代交代を果たした。新製品の名はイーグルF1アシメトリック6。同社が誇る新しいフラッグシップタイヤで、読んで字のごとく「アシメトリック5」の後継品である。ただし、既存の品とはいささかコンセプトが異なるようなので、インプレの前に、まずはそこを紹介したい。
このタイヤのキャラクターを端的に表すと、「今ある技術を全部つぎ込んで、サマータイヤに求められるすべての性能を高めた一品」である。グッドイヤーの“イーグル”といえば、今も昔もパフォーマンス重視のポジションに置かれるブランドだ。しかしイーグルF1アシメトリック6は、ドライ/ウエットのグリップ性能はもちろん、乗り心地や静粛性、果ては省燃費性能まで求めたタイヤとなっている。
グローバルでのキャッチコピーは「READY FOR ANYTHING」。日本グッドイヤーでは、ちょっとカッコよく「全てをあきらめない」と訳している。
進化は続くよ、どこまでも
マニアックな方のために、もう少しこのタイヤの狙いを掘り下げてみよう。まずはハイパフォーマンス系タイヤの本領ともいうべき動的性能/質感だが、イーグルF1アシメトリック6は、バッキバキにグリップ力を狙ったものではない。そのあたりは同門の「イーグルF1スーパースポーツ」、あるいはサーキット向けの「イーグルRSスポーツSスペック」にお任せといった感じで、こちらはハンドリングの正確さ、高い走行安定性と応答性の両立などを重視している。
また、乗り心地はバネ上の動きを抑えるスッキリ路線を狙ったもので、「コンフォート性も重視してますよ」とは言いつつ、(当然ながら)コンフォートタイヤのように柔らか・しなやかなものではない。トゲトゲしい入力の角は丸めつつ、スポーティーなタイヤならではのフラットな特性によって、乗る人の疲れや不快感を低減するといった具合だ。加えて快適性でこだわったのがパターンノイズの低減で、従来品より25%も抑え込んでいるという。
さらに興味深いのが――皆さんは興味ないかもしれませんが(笑)――省燃費につながる低転がり抵抗性能も向上している点だ。通常、上述のように乗り心地性や静粛性、ドライ/ウエットでのグリップ性能を高めようとすると、転がり抵抗は増すものである。ところがグッドイヤーは、タイヤの軽量化とコンパウンドの改良、サイドウォール形状の見直しなどで、この課題を克服。日本のタイヤラベリング制度でも、全19サイズ中17サイズで低転がり抵抗性能「A」の評価を得ている。ちなみに、同サイズのアシメトリック5を見ると、A評価を受けているのは14サイズ。諸行無常。タイヤ技術の進化を感じる。
結果として、ドライ/ウエットでのパフォーマンスに、快適性、省燃費性と、サマータイヤに求められる多くの性能で従来品を超えたとされるアシメトリック6。特に省燃費性と静粛性、ハンドリングに関しては、長足の進化を遂げているとのことだった。
……が、いかにメーカーの自信作とはいえ、乗ってみると「あれ?」となる例が過去になかったわけではない。ましてや今回品評するのは、webCGメンバーのなかでも、必ずしもお尻センサー・腰アンテナが優秀とはいえない私だ。当日は期待半分、不安半分で試走に臨んだ。
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難しいシチュエーションでも運転がしやすい
最初に体験したのはウエットハンドリング。散水されたハンドリングコースで、新旧製品を比較するというものだ。先述の理由から、「なにもわからなかったらどうしよう?」と思いつつコースに入った筆者だが、実際には、両者の違いは非常にわかりやすかった。アシメトリック6のほうがインフォメーションが緻密で、リアが滑り出す過程の操作性もいいのだ。言葉にすると、「大丈夫。まだ大丈夫。そろそろ滑りますよ。滑りますけどぉ……ハンドルを切ったらまだ戻せます」といった具合だ。
ウエットグリップ性能自体はアシメトリック5もよかったが、こちらはタイヤを硬く冷たく感じるというか、インフォメーションがやや希薄な印象。似た挙動を試そうとしたらプッシュアンダーで前輪がズルっといったり、とにかく滑るか滑らないかの状況にクルマを持ち込むこと、その状況で意図したとおりにクルマを動かすことが、ちょっと難しかった。
いっぽう、素直で正直なアシメトリック6の印象は、バンクやダブルレーンチェンジを織り交ぜた高速ハンドリングコースでも変わらない。常に挙動が安定しているのはもちろん(バンクでも100km/hという車速域だったので、当然ですけどね)、70km/hで突っ込んだレーンチェンジやお尻を振り出す180°の切り替えしでも、ハンドルにはグリップの変化がジワジワと感じられ、落ち着いてクルマを動かすことができた。
カタログや資料では「ウルトラハイパフォーマンス(UHP)」というカテゴリーに分けられているアシメトリック6だが、そのジャンル名が発する物騒なイメージより、むしろ「安全なタイヤ」「運転のしやすいタイヤ」というのが、構内コースにおける記者の率直な感想である。
ちなみに、これも新旧製品を比較できた60km/hからのウエットブレーキングのように条件をそろえられた数少ないパターンでは、常にアシメトリック6のほうが制動時間・制動距離が短く、制動Gも高かった。「こんなに期待どおりの結果になること、ある?」と、思わず計測器を疑いたくなったほどだ(笑)。
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乗り心地や静かさでガマンをする必要はない
試走会最後のプログラムは公道走行。ゆるっとした普通の運転で、乗り心地や静粛性を感じてもらおうという意図だ。……が、webCGがテスト車に選んだのは、なにを血迷ったか「アバルト595C」。「ガソリンアバルト販売終了」を嘆いた記者のワガママによるものだが、ギシギシ・バタバタ、ついでにヒョコヒョコと走る同車は、公道での乗り心地や静粛性の批評にはあまりに不向き。試走の時間中、ずっと助手席のKカメラマンの目線が痛かった。
それでも、耳を意地悪くそばだてても「シャー、ヒュルヒュル……」といったタイヤの音は皆無。また乗り心地でも、タイヤに妙な張り感やつっぱり感などを覚えることはなく、ここで特段記すような悪癖のない、普通に快適なものに感じられた。「乗員の目線をブラさないフラットなライドフィール」については実感できなかったが、それはタイヤのせいではあるまい(笑)。
メーカー自身が“そのため”に用意したプログラム&コースなので、順当といえば順当だが、今回の試走会では、イーグルF1アシメトリック6はプレゼンテーションどおりのパフォーマンスをこちらに実感させてくれた。いや普通に、非常にいいタイヤなんじゃないでしょうか。あと気になるのは、実際のところの省燃費性や、なぜか今回訴求されなかった耐摩耗性、そして性能のもち具合(所定の性能を、どれほどの期間タレずに保てるか)といったあたりだろう。こればっかりは1日の取材会では確かめられないので、ご容赦いただきたい。
それにしてもである。先日取材したブリヂストンのコンフォートタイヤは、なぜかシッカリ系へとハンドリングを路線変更(参照)。逆にグッドイヤーのハイパフォーマンスタイヤは、走りに加えて快適性・省燃費性も高めてきた格好だ。このまま収束進化が進むと、タイヤという商品はどんな境地に至るのか。やがては、エコタイヤだスポーツタイヤだといった垣根もなくなってしまうのでは? ……浅学の分際で、そんなことまで考えてしまった今回の取材だった。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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