第796回:トーヨーの最新スタッドレスタイヤ「オブザーブ ギズ3」の実力をひと足先に試す
2024.07.11 エディターから一言![]() |
トーヨータイヤが2024年7月11日に発表した乗用車用スタッドレスタイヤの新製品「OBSERVE GIZ(オブザーブ ギズ)3」は、従来製品「オブザーブ ギズ2」の22%アップとなる氷上制動性能が自慢。早速その効きをチェックした。
![]() |
![]() |
![]() |
2020年に登場したオブザーブ ギズ2の後継タイヤ
トーヨータイヤの乗用車用主力スタッドレスタイヤ、ギズシリーズは2014年に初代モデル「オブザーブ ガリット ギズ」が、2020年に第2世代のオブザーブ ギズ2が登場。その名称からもわかるように、今回発表されたギズ3が第3世代となる。
名称のギズ=GIZは、「グリップのG」「アイスのI」「究極をめざすZ」からつくった造語と説明される。つまり「アイスグリップの最高性能をめざすスタッドレスタイヤ」ということである。従来型のギズ2は氷表面の水膜を瞬時に除去し、タイヤを路面に密着させる新開発の「吸着クルミゴム」によって路面をしっかりグリップ。ゴムに配合するシリカの増量によって低温時におけるタイヤの柔軟性を向上させ、ぬれた路面をしっかり捉える性能も追求したスタッドレスタイヤだった。
積雪路やアイスバーンなどの冬道でタイヤが滑るのは、タイヤと路面の間にできる水の膜が原因となるのは広く知られるところ。そこに着目したギズ2は、前述の吸着クルミゴムのコンパウンドと、吸着3Dサイプによる吸水力などによって、初代モデルのガリット ギズよりも氷上制動距離が8%短縮したとうたわれる。
ところが今回登場したギズ3は、そのギズ2よりも氷上制動性能を22%向上させたという。たとえ数%の性能アップでも、とてつもない企業努力が必要なのは簡単に想像できる。しかし第3世代への進化にあたり、トーヨーは大幅な性能アップを実現したわけだ。
氷上制動性能22%アップの秘密は?
新しいギズ3において、コンパウンドなど材料技術における注目ポイントは主に4つ。従来型と同じアイス路面での吸水・密着・ひっかきの効果を発揮する「吸着クルミゴム」と素材そのものに親水性があり瞬時に水膜を除去する「NEO吸水カーボニックセル」に加え、新たに「持続性密着ゲル」の進化版でゴムのやわらかさを維持させる「持続性高密着ゲル」と、路面の凹凸に密着するように吸い付く「サステナグリップポリマー」を配合した。
これに新開発の「ヘリンボーンサイプ」と「アッセンブルブロック」を採用しリファインを行ったトレッドパターンを組み合わせ、「氷上制動距離で22%アップの性能を発揮する」というわけである。
今回は、人が立って歩くこともおぼつかないようなツルツルの氷上(東京都内のアイススケートリンク)を舞台に、従来型のギズ2と新しいギズ3を「トヨタ・カローラ スポーツ」(FF車)に装着して乗り比べを行った。屋内の気温はマイナス3~4℃、氷上温度はマイナス1℃に設定されていた。
先に試したギズ2は、しっかり加速Gを感じさせながら走りだし、そして確実な減速Gを発生しながら望んだように止まることができた。ステアリングの切り始めからグリップ感が手のひらに伝わり、旋回中にあえて行ったアクセルペダルのオン/オフにもきちんとリンクし、グリップ力の限界がつかみやすい。現代的なパフォーマンスを十分に感じ取ることができた。しかし、ギズ3の走りは、こうした好印象をすべて過去のものとするほどの進化を感じさせたのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
2大ブランドに対する強力なライバルに?
ギズ3を装着したカローラ スポーツのシフトセレクターをDに入れ、軽くアクセルペダルに力を込める。大げさに表現すれば、動きだした数十cmの時点で推進力の違いが体感できる。この印象は、最初のスラロームポイントに差しかかっても変わらない。車両に横Gを発生させた後、ステアリング操作でそれをニュートラルに戻し、今度は逆サイドにゆっくりGをかけるというスラロームを繰り返しても、クルマの安定感は文句なし。しかも、スラローム走行のペースはギズ2を確実に超えている。
当然その先に用意されていた左旋回を行うコースへの進入スピードも高くなる。ここでオーバースピードに気づきステアリングを左に切ったままアクセルオフを試みると、するするとカローラ スポーツはノーズをインに向ける。その安定した姿勢と減速に伴うグリップの回復力は、ギズ2の上をいく。
ハイライトは制動である。20km/hからのフルブレーキングにおける制動距離の違いは、はた目で見ていてもわかる。運転席では、ブレーキの踏み始めに体感できる減速Gの高さと車両の安定感が確認できた。同類他社の最新スタッドレスタイヤで体験した記憶を呼び起こしても、ギズ3の直進制動性能はトップレベルではないか、と素直にそう思える。アイスブレーキ性能22%アップのうたい文句に偽りナシと紹介できそうだ。
もちろん今回報告できるこうした氷上ブレーキ性能は、一定条件下でのもの。最終的にはアイスバーンやシャーベット、圧雪、そしてドライ、ウエット路面とさまざまな表情をみせる現実の冬道で、乗り心地やロードノイズを含めたトータル性能がものをいう。スタッドレスタイヤの履き替え候補となれば、長持ち性能も気になるところ。そのあたりは今後の雪上試乗リポートをお待ちいただきたいが、先行する2大ブランドの最新スタッドレスタイヤに強力な制動性能を武器とするライバルが登場したと、まずはそう報告できるオブザーブ ギズ3である。
(文=櫻井健一/写真=トーヨータイヤ/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
第843回:BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー 2025.9.5 かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。
-
第842回:スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」で赤城のニュルブルクリンクを体感する 2025.8.5 ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」をご存じだろうか。そのネーミングからも想像できるように、スバルがスバル車オーナー向けにリリースするスマホアプリである。実際に同アプリを使用したドライブの印象をリポートする。
-
第841回:大切なのは喜びと楽しさの追求 マセラティが考えるイタリアンラグジュアリーの本質 2025.7.29 イタリアを代表するラグジュアリーカーのマセラティ……というのはよく聞く文句だが、彼らが体現する「イタリアンラグジュアリー」とは、どういうものなのか? マセラティ ジャパンのラウンドテーブルに参加し、彼らが提供する価値について考えた。
-
第840回:北の大地を「レヴォーグ レイバック」で疾駆! 霧多布岬でスバルの未来を思う 2025.7.23 スバルのクロスオーバーSUV「レヴォーグ レイバック」で、目指すは霧多布岬! 爽快な北海道ドライブを通してリポーターが感じた、スバルの魅力と課題とは? チキンを頬張り、ラッコを探し、六連星のブランド改革に思いをはせる。
-
第839回:「最後まで続く性能」は本当か? ミシュランの最新コンフォートタイヤ「プライマシー5」を試す 2025.7.18 2025年3月に販売が始まったミシュランの「プライマシー5」。「静粛性に優れ、上質で快適な乗り心地と長く続く安心感を提供する」と紹介される最新プレミアムコンフォートタイヤの実力を、さまざまなシチュエーションが設定されたテストコースで試した。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。