危ないイメージ拡大中!? 電動キックボードは社会と共存できるのか?
2024.07.29 デイリーコラム世代間対立の面もある
特定の条件を満たした電動キックボードが免許なしで公道を走れるようになってから、2024年7月で1年がたった。東京都内ではレンタル電動キックボードの「LUUP」が順調に増殖しており、私の自宅周辺では、以前1カ所だったレンタルポートが4カ所に増えた。すぐ目の前のお宅にも5台分のポートがある。ご主人の話では、「1台につき月1000円の収入」という。
私も昨年、LUUPを借りてみたが、中高年には危険すぎる乗り物だと感じ、以後乗っていない。
電動キックボードに対しては、あらゆる方面からバッシングが浴びせられている。乗っているのは無法者だらけだし、こんな危険な乗り物をいまさら無免許&ノーヘルで乗れるようにした政府がそもそも大バカだ、と。メディアでは、「また電動キックボードが」と事故が大きく報道され、取り締まりが行われれば「ザマーミロ!」という雰囲気になる。2024年7月5日に都内で一斉に行われた飲酒運転の一斉取り締まりでは、検挙された12人中5人が電動キックボード利用者だったという。まさに「それみたことか!」だ。
私も昨年の段階では、電動キックボードに対して強い警戒心を抱いていた。
がしかし、最近は見方が変わってきた。冷静に観察すると、少なくとも私が住んでいる地域では、現在の電動キックボードのマナーは悪くない。平均して自転車よりもいいのではないか。乗っている人の多くは、世間の目を意識してか、かなりお行儀よく走ろうとしているように感じる。
電動キックボードに乗っているのは、ほとんどが若い層(たぶん30代以下)で、歩くのがキツイ高齢者の足にはなりえていない。最近はよりラクチンなシート付き製品が登場しており、LUUPも2024年の冬以降に投入する予定だが、座って乗るほうがさらにリスクが増すかもしれない。
とにかく中高年としては、「若者があんなラクなものに乗ってどうする」「危ないだけで、ぜんぜん社会の役に立ってないぞ!」と思ってしまう。つまり電動キックボードたたきは、中高年による若者たたきに近い。そのことに気づいてちょっと反省したのです。
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厳しい縛りはやむなしか
いま日本の社会全体が、他者に対して非常に厳しくなっている。違法行為はどんな小さなことも「ダメ、絶対!」。タバコ1本でオリンピック日本代表も降りなければならない。
私が若い頃はずいぶんテキトーだった。未成年でも大学生なら飲酒をとがめる人なんていなかった。1970年代は暴走族ブームで、彼らは無法の限りを尽くしていたが、それが「カッコいい」ということで、暴走族出身のスターも数多く生まれた。
私が強く印象に残っているのは、2000年前後にサッカー日本代表の監督を務めたフィリップ・トルシエ氏のエピソードだ。海外遠征時、歩行者用信号が青になるのを待っていた代表メンバーに、こう激怒したという。
「なぜ信号なんか守ってるんだ! クルマが来なけりゃ渡れ!」
トルシエ氏の怒りは、「それくらい自分で判断しろ」という意味だったらしい。サッカーでもそういう姿勢が必要だと。まぁ欧州では、そんな感じで若者がレンタル電動キックボードで多くの事故を起こし、パリなどいくつかの都市で禁止になったわけですけど。
対する現代ニッポン社会はキビシイ。いまの日本の若者は、電動キックボードで20km/hで走っているだけで犯罪予備軍扱いされてしまう。「あの電動キックボード、右折レーンから右折した!」みたいなことで大炎上だ。半世紀前の暴走族の無法ぶりと比べると、かわいそうな気がしてしまう。若者は「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」って感じで、もうちょいノビノビ育ててもいいんじゃないか……。
ということで私は、電動キックボードを温かい目で見ることにしました! 若い頃に犯した数々の道路交通法違反(告白)を思えば、自分にはキビシイことを言う資格もないし。「罪を犯したことのない者だけが石を投げなさい」(イエス・キリスト)。
ただ、私みたいなのは少数派でいいのだろう。電動キックボードは、世間の厳しい目や警察による取り締まりが継続することによって、悲しい事故が減少し、社会に定着していくのだろうと思います。「かわいい子には旅をさせよ」ですかね? 別にかわいくないけど。
(文=清水草一/写真=webCG/編集=関 顕也)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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