メルセデスAMG G63ローンチエディション(4WD/9AT)
現代に息づく神話 2024.10.14 試乗記 「メルセデス・ベンツGクラス」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。ご覧のとおり外観はほとんどこれまでどおりだが、中身は時代の要請に合わせてきっちり進化を果たしている。V8エンジン搭載の「メルセデスAMG G63ローンチエディション」を試す。変わらないことの価値
「あ。乗り心地がよくなっているかも……」
というのが2024年夏、国内発売になったメルセデス・ベンツのアイコン、最新型Gクラスの最高性能モデル「メルセデスAMG G63ローンチエディション」の第一印象だった。2018年に登場した現行Gクラスは第3世代で、1979年の初代とほぼ同じ外観を維持しつつ、中身はフレームも含めて一新、フロントのサスペンションは独立のダブルウイッシュボーンに改められている。最新のGクラスオプションだったアダプティブダンピングが標準になり、G63ではAMGアクティブライドコントロールサスペンションという電子制御の油圧式スタビライザーを採用している。アクティブダンピングシステムにロール制御を加えたこのGクラス初採用のデバイスで、乗り心地とハンドリングの両立を図っているのだ。
とはいえ、大きく変わったわけではない。リアのサスペンションは依然リジッドだし、G63は最高出力585PSの超高性能車ゆえ、スプリングもダンピングもキリリと引き締められている。タイヤは285/45R21という超大径極太偏平で、河口湖周辺の一般道の凸凹路面を通過すると、乗員は上下に揺すられる。車重2570kgの超ヘビー級ボディーの上屋をもってしても、巨大なホイール&タイヤの存在を抑えることは難しい。いわゆるドライブモードのAMGダイナミックセレクトの「スポーツ」「スポーツプラス」はもちろん、「コンフォート」モードでも、快適と申し上げることはちょっとばかしはばかられる。
しかして、それでこそGクラスなのだ。外見からして現代の乗用車のスタンダードの外にある。45年にわたり、「ゲレンデワーゲン」を名乗っていた初代のカタチをかたくなに守り続けているのにはワケがある。継続は力なり。メルセデス・ベンツはGクラスの形を変えないことによって神話を築き、メルセデス・ベンツのアイコンという地位を与えることに成功した。変わらない期間の長さでは「ポルシェ911」や「MINI」を超えている。残るはモーガンのみ!? 不変のデザインは普遍的といってもいいデザインとなり、ご存じのようにその影響はわが国の軽自動車にも及んでいる。
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不安定な世界だからこそ愛される
乗り心地なんてのはどうでもいい。世界中のセレブがこのラグジュアリーSUVに望んでいるのは、一寸先はハプニングの時代を走破できるタフな踏破能力なのだ。おそらく。いつなんどき、どこへでも連れていってくれそうな外見とオフロード性能。いざというときに守ってくれそうな、走る要塞(ようさい)。これらでGクラスに勝る高級SUVは見当たらない。軍用車の民生用。というゲレンデワーゲンに始まる神話にこそ、Gクラスの最大の価値がある。と筆者は思う。じつのところ、クラシックな、あるいはタイムレスなファッションに身を包んだタフな冒険家。という程度の穏当な表現にとどめておこうと思ったけれど、やっぱり書いておこう。現在のような不安定な世界だからこそ、Gクラスは求められている、と。
その一方で、最新G63のインテリアはいっそうゴージャスになっている。「メルセデスAMG GT」もかくやのスポーティーなシートの表皮には、ソフトなナッパレザーが用いられ、手の込んだダイヤモンドステッチが施されている。クラシックで質素な外見とは異なる、別世界を乗員は享受できる。
彩度の高い、ポップなボディーカラーもG63ローンチエディションの特徴のひとつだ。「ハイパーブルーマグノ」というド派手なこの外装色は、オプションのAMGカーボンファイバーエクステリアパッケージとの同時装着となる。車両価格3080万円に、198万円をプラスしないと手に入らない。合わせて3278万円。こんなにド派手だと標的になりやすいのではないか。というのは要らぬ心配で、これも平時なればこそ。と考えれば、街で見るたびに拝みたくなるのではあるまいか。
最低地上高は240mmもある。なので、サイドステップにいったん足を載せないと乗り込みにくい。されど、相手は3000万円を超える高級車である。メッキが施されたステップに足を載せるのはためらわれる。そこで、室内のフロアにいきなり右足を載せてみる。24cmの段差は高い。室内にはつかむところがステアリングホイールぐらいしかない。よっこらせ。オーナー諸氏はこのようにして毎日、体を鍛えておられるのかもしれない。結局、筆者は隠れキリシタンのような気持ちでステップに足を載せて乗り込むことにした。神さま、お許しください。
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馬の背のような着座位置
新型Gクラスの目玉は、G63を含む全モデルにISG(Integrated Starter Generator)が搭載されたことである。エンジンとトランスミッションの間に配置され、エンジンのスターターと電動ブースター役、それに回生ブレーキによる発電を担うのがISGで、最高出力20PSと最大トルク208N・mを発生する。エンジン本体はAMG謹製の4リッターV8ツインターボで、585PS、850N・mという数値は小改良前と同じだ。
ダッシュボードのスターターを押すと、ブオンッというAMG独特の野性的なサウンドを控えめにとどろかせて、V8が目覚める。走り始めると、着座位置はメチャクチャ高く、上から空中につるされて、地に足がついていない心持ちがする。クルマに慣れるにつれ、竹馬に乗っているぐらいには接地感を感じるようになり、走り込むにつれて、馬の背に揺られているように思えてきた。
デフロックのスイッチ周辺が再設計された。ということで、左からフロント、センター、リアのディファレンシャルをロックするスイッチがダッシュボードに並んでいる。AMGダイナミックセレクトという名前のいわゆるドライブモードには、「サンド」「トレイル」「ロック」というオフロード用の走行モードもある……はずだけれど、今回、オフロード関係の装備には触れもみで、だって必要なかったから。
ボディーに細かい空力処理が施されたこともあって、風切り音は低くなっている……ような気がした。エンジン音も、小改良前のG63は筆者の場合、未試乗ゆえ、記憶のなかの先代「G55 AMG」と比べてみる。かなり静かになっている。あんまりデロデロいわない。乗り心地は冒頭記したように若干改善されている。
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快適性とは異なる心の安寧
ワインディングロードではフロントのタイヤが早めに鳴き出す。ドライブモードをスポーツプラスにすると、エンジン音ががぜん大きくなり、6750rpmから始まるレッドゾーン近くまで快音を発しながら気持ちよく回る。585PSと850N・m、それにISGのアシストを得て、0-100km/h加速は4.4秒、とメーカーは主張している。これは「ポルシェ718ケイマンS」よりも速い。実際、その加速っぷりは軽やかで、2.5t超の車重を感じさせない。ブレーキングではブリッピングを自動で入れながら電光石火のダウンシフトを披露する。う~む。胸がすく。ラダーフレームとは思えぬボディーの一体感は第3世代の真骨頂だと思われる。超ヘビー級の車重にもかかわらず、ブレーキもよく利く。
燃費は模範的とはいえない。河口湖まで遠出をした今回のテストでは5.2km/リッターにとどまった。ISGは街なかでのストップ&ゴーでこそ効果を発揮する。ということだろう。
もしも新車で買えるクラシックカー、ということでGクラスをお求めになるのなら、中古のGクラスのほうがクラシックカーっぽい。と私は思ったけれど、それは比較の問題にすぎない。Gクラスは最新型になっても「新車で買えるクラシックカー」であり、依然としてゲレンデワーゲンであり続けている。
Gクラスは2023年4月、発売以来44年で累計生産台数50万台に到達している。累計40万台は2020年12月だったから、2年ちょっとで10万台もつくったことになる。需要増は世相の反映で、だからこそメルセデスはローンチエディションにかくもド派手な色を選んだのではあるまいか。平和のメッセンジャーとして。最新のG63は、自動車ジャーナリズムの枠を超えたところで、心の安寧をユーザーにもたらす。唯一無二。現代の神話だ。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデスAMG G63ローンチエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1985×1985mm
ホイールベース:2890mm
車重:2570kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:585PS(430kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:850N・m(86.7kgf.m)/2500-3500rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)/2500rpm
モーター最大トルク:208N・m(21.2kgf.m)
タイヤ:(前)285/45R21 113W XL/(後)285/45R21 113W XL(ピレリ・スコーピオンゼロ アシンメトリコ)
燃費:6.8km/リッター(WLTCモード)
価格:3080万円/テスト車=3278万円
オプション装備:AMGカーボンファイバーエクステリアパッケージ(198万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:295.0km
使用燃料:57.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.2km/リッター(満タン法)/5.2km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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