日産ノート オーラAUTECH(FWD)
カギはモーターにあり 2024.10.23 試乗記 「日産ノート オーラ」のマイナーチェンジを機に登場した「ノート オーラAUTECH(オーテック)」に試乗。AUTECH専用となる内外装デザインやカスタマイズアイテムをチェックしながら、「プレミアムスポーティー」をうたうその走りを報告する。小さな高級車って難しい
日産ノート オーラAUTECHを紹介するにあたっては、「プレミアムスポーティー」をコンセプトとしたAUTECHブランド独自の内外装から説明するのが筋かもしれない。けれども、ここではこのクルマのパフォーマンスを先に紹介したい。というのもノート オーラAUTECHは、さまざまな自動車メーカーが挑戦しては、その高い壁にはね返されてきた「小さな高級車」を攻略する糸口を見つけているからだ。
小さな高級車って難しいな、と痛感したのは、大昔、取材で「ヴァンデンプラ・プリンセス1100」に乗ったときだった。このクルマはADO15と呼ばれたオリジナル「Mini」のお兄さんにあたるADO16をベースに小さな高級車にチャレンジしたモデルで、1960年代に生産された。
コンパクトな4ドアセダンのボディーに、ウォールナットと本革の内装がおごられ、前席バックレストの背面にはピクニックテーブルも備わった。その設(しつら)えは見事だったし、ロールス・ロイスの後席に座るような方が混雑したロンドン市内を俊敏に移動するために開発されたと聞いて、わくわくしながら試乗したけれど、そんなに高級だとは思えなかった。
というのも1.1リッター直4 OHVエンジンの最高出力は56PSで、840kgという現代の常識から考えると超軽量なボディーに対しても非力。お上品にアクセルペダルを踏んでいてはタクシーにも置き去りにされる。そこで、えいやっとアクセルペダルを踏み込むと、今度は車内がガーガーというノイズとバイブレーションで満たされる。
ところがノート オーラAUTECHはどうだ。どうだと言われても読者のみなさんも困るでしょうが、「e-POWER」というハイブリッドシステムを備えるこのクルマは、静かに、スムーズに加速する。小さな高級車を実現するカギは、モーターにあったのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スカッとするような加速力
e-POWERという仕組みをもう少し説明すると、1.2リッターの直3ガソリンエンジンは発電に専念し、そこで生まれた電気でモーターを駆動して走る。エンジンにはいいところも悪いところもあるけれど、得意とする回転域で一定の回転数を保つかぎり、静かで振動も少なく、効率もいい。e-POWERでノート オーラAUTECHを走らせていると、エンジンとは本来、こういう使い方をするための原動機ではないかと思えてくる。がんばらないでいい仕事をしているんだから、これが天職ではないか。
ヴァンデンプラ・プリンセス1100について、普段ロールスの後席に乗っている人のために開発された、と記した。そのセンでいくと、ノート オーラAUTECHの室内の静かさと振動の少なさについては、現行型ロールスの後席住人からも不満は出ないはずだ。
モーターの加速は静かで滑らかなだけでなく、力強さも十分。さらに、「NORMAL」「ECO」「SPORT」の3つが用意されるドライブモードセレクターでSPORTモードを選ぶと、アクセル操作に対する反応が格段にシャープになり、スカッとするような加速を見せる。
小さな高級車に“首カックン”になるようなバカッ速さは不要であるけれど、ドライバーに心地よいと感じさせることは必要だろう。ECOモードは少しもったりするから積極的には選ばないものの、NORMALモードなら十分、SPORTモードなら拍手喝采だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
これ以上なにが必要か
不思議と乗り心地もいい。「不思議」というのは、エアサスペンションや可変ダンパーなどの凝った(=高価な)メカニズムを使わずに、路面の不整や凹凸を軽やかに乗り越える快適性と、高速道路でしっかり踏ん張る安定性を両立していることに対する褒め言葉だ。
おそらく、日産は「ノート」をベースに高級仕様のオーラを仕立てるにあたって、ただ見てくれをゴージャス、上質にするだけでなく、乗り心地や静粛性に関しても徹底的につくり込んだのだろう。だから日産のエンジニアにとって、ノート オーラの乗り心地がいいことは不思議でもなんでもなく、ごく当然のことなのかもしれない。
率直に言って、大型高級車の大船に乗ったようなゆったり感には及ばないものの、市街地から高速道路まで、安っぽさとは無縁だ。ダンパーとバネの組み合わせを気が遠くなるほど試したのではないかと推察する。丁寧にチューニングされていることが伝わってくる。
試乗車はメーカーオプションのプロパイロット(ナビリンク機能付き)が装着されていたので、運転支援機能についても小さな高級車だ。
まずナビリンク機能付き、つまりナビ画面に表示されるコーナーの曲率に合わせて減速するから、追従走行が実に滑らか。完全停止するまで追従して、先行車が走りだしたら軽くアクセルペダルを踏み込むと再び追従を始める。
ひとつだけ、車線を外れそうになったときのハンドルへの反力だけはやや唐突で、もう少しやさしくしてと言いたくなるけれど、それ以外は文句なし。静かな車内でオプションの「BOSEパーソナルサウンドシステム」の音に囲まれながらプロパイロットの世話になっていると、これ以上なにが必要かと思えてくる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
自分のセンスを表現する一台
ほかにも小さな高級車にとって必要なことはあって、それはほかの人と同じじゃつまらんということだ。超高級車のように、自分と同じ車種とすれ違うとイヤな気持ちになるとか、銀座で目立ちたいとかそういうことではなく、控えめでいいから自分のセンスを表現するクルマであってほしい。そこで登場するのがAUTECHで、みんなと同じノート オーラではなく、俺だけのノート オーラになる。
好みでいくと、フロントのプロテクターとサイドシルフィニッシャーは、すっきりとしたこのクルマの持ち味を損なう気がする。いっぽうで、キラッとしたフロントグリルは華やかだし、専用の17インチアルミホイールのデザインも精悍(せいかん)でいい。
航行した船が立てる波をイメージしたというLEDの模様や、茅ヶ崎の海と空をイメージしたというブルーの差し色をあしらった内装など、さりげないところにまで気を配っているのも、クルマ好きとしてはうれしい。小さな違いが、大きな満足感につながる。
というわけで、ノート オーラは、しっかりと小さな高級車を体現している。デビューしたときに乗っているはずだけれど、すっかり見逃していて、お恥ずかしい話、マイチェンのタイミングであらためてその完成度の高さに気づいた。
そしてもうひとつ、メルセデスの「AMG」やBMWの「M」と同様に、小さな高級車にも「AUTECH」や「NISMO」のように自分だけの特別な一台に仕立ててくれるメーカー直属の部門が不可欠で、このクルマはそこもクリアしている。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
日産ノート オーラAUTECH
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4085×1735×1525mm
ホイールベース:2580mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
モーター最高出力:136PS(100kW)/3183-8500rpm
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3183rpm
タイヤ:(前)205/50R17 89V/(後)205/50R17 89V(ブリヂストン・トランザT005 A)
燃費:27.2km/リッター(WLTCモード/ノート オーラGの参考値)
価格:305万0300円/テスト車=381万1074円
オプション装備:ボディーカラー<オーロラフレアブルーパール/スーパーブラック2トーン>(7万7000円)/NissanConnectナビゲーションシステム+専用車載通信ユニット+ETC2.0+SOSコール+ワイヤレス充電器+BOSEパーソナルプラスサウンドシステム<8スピーカー[フロント、前席デュアルヘッドレスト、ツイーター]>+プロパイロット<ナビリンク機能付き>(42万1300円)/ホットプラスパッケージ<ヒーター付きドアミラー+ステアリングヒーター+前席ヒーター付きシート+リアヒーターダクト>+クリアビューパッケージ<ワイパーデアイサー+リアLEDフォグランプ>+高濃度不凍液+PTC素子ヒーター(8万0300円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット<ブルー、消臭機能付き、AUTECHエンブレム付き、寒冷地仕様車用>(3万0500円)/ラゲッジカーペット<ブルー、消臭機能付き、AUTECH刺しゅう付き、2WD車ラゲッジアンダーボックス無し車用>(1万5400円)/ナンバープレートリム<マットクロム、AUTECHエンブレム付き、フロント用>(4950円)/ナンバープレートリム<マットクロム、AUTECHエンブレム付き、リア用>(4950円)/セキュリティーホイールロック<AUTECHロゴステッカー付き、マックガード社製、ブラック、20個セット、専用ポーチ付き>(4万0700円)/ドライブレコーダー<フロント+リア>(8万5674円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1665km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:255.1km
使用燃料:13.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.2km/リッター(満タン法)/19.1km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。