第299回:超信地旋回せずに死ねるか
2024.12.16 カーマニア人間国宝への道「Gターン」のインパクトはすさまじい
私はEVにあまり興味がない。ゼロではないが欲望は湧かない。フェラーリエンジンを頂点とする内燃エンジンフェチなのだから仕方ない。
が、「メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー」のニュースにはシビれた。なぜって、超信地旋回(メルセデスが呼ぶところの「Gターン」)ができるんだから!
超信地旋回は、クローラー(履帯)を持つ車両の独壇場のはず。具体的には戦車の専売特許だと思っていた。
私は戦車が好きだ。一番好きな戦車は言うまでもなく「ティーガーI」。「タイガー戦車」と聞くだけで肌があわ立つ。超信地旋回にもずっと憧れていた。
それを四輪車でやるなんてすごすぎる! 4輪すべてに独立したモーターを持っていれば、そんなことも可能なのですね。内燃エンジン車には逆立ちしてもマネできません。戦車に近づいたG580最高!
Gターンのインパクトはすさまじい。EVにまったく欲望が湧かない私ですら色めき立つのだから、中国の富裕層は「うおおおお!」と叫んでいるはずである。「よし、G580を買って天安門前広場でGターンだ!」と決意していることだろう。
私は以前、陸上自衛隊富士学校で「90式戦車」に同乗取材したが、超信地旋回は未経験。G580は、それをお手軽な四輪車(お高いですが)で実現した。うおおおお、オレも超信地旋回を経験せずには死ねない!
ということで、G580のオフロード試乗会に交ぜてもらうことになった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
オフロードコースでGターンにトライ
G580は、エンジン車のGクラスと見た目はほとんど同じだった。最大の違いはスペアタイヤの代わりに充電ケーブルを背負っていることだが、そんなことはどうでもいい。今日の目的はひたすらGターンなのだから。
試乗前のレクチャーによると、Gターンをブチかますには、いろいろな条件および手順があるという。
まず、地面がほぼ平たんでなければならない。車体の傾きを検知すると、Gターンはキャンセルされる。もちろん回転できる広さも必要。じゃないと回りながらボコボコになってしまう。
操作方法は以下のとおりである。
1:ギアをNレンジに入れ、ローレンジスイッチを押すことで、オフロードギアに切り替える。
2:ダイナミックセレクトにてロックモードに切り替える。
3:ダッシュボードのGターンスイッチを押し、回転したい方向のシフトバドルを引いたまま保持。
4:ステアリングホイールをセンター位置に保持し(動くとキャンセルされる)、アクセルを踏む。
今回は、オフロードコースの広場でGターンにトライする。こんな機会はおそらく一生に一度だろう。公道はもちろん、舗装路では使用不可なのだから。
ただ、東京・お台場で開催された報道関係者向け発表イベントでは、「キキキキキ~」とスキール音を立てながらG580がクルクル回っていた。床面の素材は不明だが、それなりのグリップがありそうで、舗装路でも「やっちまえばこっちのもん」という気はする。中国人富裕層が色めき立つのも無理はない(想像です)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
フィギュアスケーターが見ている風景
試乗会スタッフには、「Gターンにトライする際は、思い切ってアクセルを踏んでください。ためらうと回転が止まってしまいます」とアドバイスを受けた。うおおおお。
いよいよGターンを……と思ったが、広場にはすでに多くの噴火口ができていて、平たんな場所があまりない。Gターンをかますと、地面にかなり深いドーナツ状の跡がついてしまうのである。さすがの威力。
なんとか場所を探し、手順を実行してアクセルを踏んだ。
「スゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ~」
G580は回った。クルクル回った。
第一印象は、「これがフィギュアスケーターが見ている風景か」というものだった。その場でクルクル回るというのは、思ったよりも迫力がなく、「あ、こんなもん?」でもあった。地面が削れる抵抗感は十分強いが、なにしろ前進も後退もしてないので。
Gターンの様子を周囲から眺めると、その印象はさらに強まり、失礼ながら「バカっぽい……」と思ってしまった。
逆にG580のもうひとつの必殺技である「Gステアリング」(後輪片側の駆動力を固定してドリフト状態で曲がる)は迫力満点。こっちのほうがぜんぜんカッコいいじゃん! そうか、クルマってやっぱり、前進(あるいは後退)するからカッコいいのか!
2023年秋のジャパンモビリティショーでは、BYDのEV「U8」もタンクターンを披露したが、回転速度はG580の数分の一と非常にゆっくりだった。あれくらいなら周囲の注意をあまり引かずに、交差点でこっそり180度向きを変え、なにげに優越感に浸れるかもしれないが、Gターンは派手すぎてムリである。
中国の富裕層はどちらを選ぶのだろう。私なら、かすかにでも実用性がありそうな、BYDのゆっくり超信地旋回を選びます。敬礼!
(文=清水草一/写真=向後一宏、webCG/動画=清水草一/編集=櫻井健一)
【Movie】その1:G580のGターン(超信地旋回)
【Movie】その2:G580のGステアリング(片側後輪を軸に転回)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第325回:カーマニアの闇鍋 2025.12.15 清水草一の話題の連載。ベースとなった「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の倍の価格となる「レクサスGX550“オーバートレイル+”」に試乗。なぜそんなにも高いのか。どうしてそれがバカ売れするのか。夜の首都高をドライブしながら考えてみた。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。 -
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.12.22試乗記メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。











































