第814回:“エンジン屋”の暖簾は下ろさない!? 次世代「e:HEV」を搭載予定の「ホンダ・プレリュード」を試す
2024.12.18 エディターから一言2つの新エンジンを開発
「2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、2040年にEV/FCEVの販売比率100%を目指します」というホンダの発表はちょっとした衝撃的ニュースだった。つまり、ホンダからエンジンが消えてしまうわけであり、特に“VTEC”なんて響きに胸躍らされた世代からは、「名残惜しい」なんて気の早い声も聞かれた。こうした市場の反応は、ホンダにとっては想定外だったという。「確かに2040年にはそういう目標を掲げましたが、それまでにはまだ約15年もあるわけです。ホンダが直ちにエンジン開発を中止するかのようなニュアンスで捉えられてしまったことに困惑しました」とのこと。こうしたミスリードを修正したいという彼らの思いも、今回のワークショップ開催のきっかけだったそうだ。
お披露目されたのは新設計の2つのエンジン。1.5リッターと2リッターの直噴4気筒ユニットで、これに2つのモーターを組み合わせたホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV」の次世代型という位置づけである。1.5リッターは小型車用で2つのモーターは同軸配置、2リッターは中型車用で並列配置となっている。どちらも現行からの大幅な燃費向上とコスト削減、エンジンやモーターの高効率化が図られているという。
2つのエンジンとともに世界初公開されたのが「Honda S+ Shift」と呼ばれる次世代技術である。これはe:HEVに搭載される機能で、簡単に言えば“疑似トランスミッション”である。e:HEVは、発電用と駆動用の2つのモーターを持ち、基本的にはエンジンの力で発電用モーターを回し、その電気で駆動用モーターを動かしている。ここまでは日産の「e-POWER」と似たような仕組みだが、決定的な違いは、e:HEVの場合は高速巡航時など特定の状況でエンジンの駆動力のみでも走れるモードが用意されている点にある。通常のほとんどの場面でエンジンは発電機として働いているので、トランスミッションを必要としない。S+ Shiftは、エンジンの回転数を緻密に制御するとともに、エンジン回転計とスピーカーを使い、視覚と聴覚からあたかもメカニカルな有段ギアを変速しているような雰囲気をつくり出すという代物である。そして、この新しいe:HEVとS+ Shiftが初採用されるのが、2025年に発表予定の新型「プレリュード」である。
シフトショックまで再現
今回の取材に関する事前の案内では「次期型のe:HEVを搭載したテスト車にご試乗いただけます」とだけ言われていた。「ひょっとして今度のプレリュードに載るヤツかな」と想像していたら、テストコースに置かれていたのはカムフラージュが施された新型プレリュードそのものだった。しかし残念ながら今回のプロトタイプにはS+ Shiftが機能するように改良した現行型のe:HEVが積まれており、でも現行「ヴェゼル」には1.5リッターの次期型e:HEVが仕込んであった。ワークショップというよりは、新型プレリュードのプロトタイプ試乗会じゃんと思ったけれど、現場には次世代中型プラットフォームなども置かれていて、あくまでも「e:HEV事業・技術取材会」のていだった。最初から「新型プレリュードに乗れます」なんて言ったら、そっちばっかりに興味が向いてしまうわれわれの幼稚な心理はしっかり見透かされていた。
プレリュードのプロトタイプは左ハンドルだったので、ドライバーの右側にあるセンターコンソールにはドライブモードの切り替えスイッチと、その上に初めて見る「S+」と書かれたボタンが鎮座していた。ドライブモードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」の3種類で、それぞれのモードでS+ボタンは押せるから、計6タイプのセッティングが用意されていることになる。
まず、プレリュードではいわゆるノーマルモードとなるGTを選び、しばらく走ってからS+ボタンを押した。すると、それまでは回生の具合やモーターのパワーレベルを示していたメーターナセル内のエネルギーフローメーターのグラフィックがエンジン回転計に変わり、エンジン音が耳に届くようになる。スピーカーからの音は実際のエンジン音を増幅させているような音色なので、人工的な感じはほとんどしない。アクセルペダルをさらに深く踏み込んでみると、回転計の針がじわじわと上がりはじめ5000rpm近くまでいくとポンと3500rpmあたりまで落ちる。その後も上がったり下がったりを繰り返しながら、シフトアップさながらに速度を上げていく。疑似シフトアップ時にはコツンと軽いショックなんかもあって芸が細かい。今度はスポーツに切り替えて100km/hからのブレーキングを試みると、ブリッピングなんかをかましながらエンジンブレーキ(回生ブレーキ)で減速したりもする。もちろん、パドルによる操作も可能である。
サスペンションのベースは「シビック タイプR」
実際のエンジンは回転数に準じた動きをしているが、もちろん有段ギアはなく、あくまでも制御で回転数を調整している。「こんなふうにいたずらにエンジン回転数をいじったら、燃費が悪くなったりしませんか?」と聞いたところ、新型エンジンは高効率となる領域が従来型よりも広くなったことが特徴のひとつで、その中に収まるところでやっているから燃費が極端に悪くなるようなことはないそうだ。ヴェゼルでも同じように気持ちよくだまされたが、ヴェゼルのエンジン音は生音のみとのこと。新型プレリュードはGTというポジションなので静粛性が高く、エンジン音が抑えられているのでわざわざスピーカーから“トッピング”していたのである。
S+ Shiftはギミックといってしまえばそれまでだが、ここまで見事にだましてくれるなら個人的にはアリである。そして何より気になったのは乗り心地のよさと素直でレスポンスのいい操縦性だった。聞けば、新型プレリュードのサスペンションは、「シビック タイプR」のそれをベースに開発したという。どうりで素性がいいはずである。結局最後は、新型プレリュード試乗記みたいになってしまってすいません。
(文=渡辺慎太郎/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)

渡辺 慎太郎
-
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記 2025.11.1 「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
NEW
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
NEW
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
NEW
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。







































