メルセデス・ベンツC63 AMG パフォーマンスパッケージプラス(FR/7AT)【試乗記】
ジキルとハイド 2010.10.29 試乗記 メルセデス・ベンツC63 AMG パフォーマンスパッケージプラス(FR/7AT)……1185万円
高性能を上乗せする「パフォーマンスパッケージプラス」搭載の「C63 AMG」に試乗。30psのパワーアップをはじめとする“AMGスペシャルメニュー”のお味は?
エンスー向け
ライバルの「BMW M3」が排気量より高回転化でパワーを稼いできたのに対して、歴代のAMGのCクラスは有無をいわせない大排気量ハイパワー路線をひた走ってきた。3.6リッターでスタートしたエンジンは、4.3リッターV8、3.2リッターV6だがスーパーチャージャー付き、そして5.5リッターV8……と容赦なく拡大されていった。さすがの「M3」も耐えきれずに現行型でついに4リッターV8となったと思ったら、その数カ月おくれで出てきたCクラスのAMGはなんと“C63”になった。大排気量にもほどがある。ちなみに、「C63 AMG」の正確な排気量は6208ccだが、わずかでも6.2リッターを超えているがゆえの「切り上げ」の命名。AMGは名実ともに大艦巨砲主義をつらぬく。
そんな「C63 AMG」も発売から3年が経過した。さすがにこういう時代だから、省エネタイプのオルタネーターを採用するなどの細かい手直しは入ったものの、AMG謹製の大排気量V8は、今のところCO2低減の御旗(みはた)のもとに去勢されるようなこともない。といって、さらなる高出力化もされないのは時代の趨勢(すうせい)か……と思ったら、この8月に“ハイパフォーマンスプラス”なるオプションパッケージが登場した。そのオプション価格は125万円。本体価格1060万円と合計すると1185万円となる。
この「パフォーマンスパッケージプラス」の内容は、2010年5月に25台限定で発売された「C63 AMGパフォーマンスプラス」の特別装備内容に準じるもので、見た目にも各部にレーシーな専用装備がトッピングされているが、本当のキモは中身だ。ノーマル比30psアップとなった487psの専用チューンドエンジン(鍛造軽量ピストン/コンロッド/クランクシャフトなどのスペシャルパーツ内蔵)をはじめ、リミテッドスリップデフ(LSD)、そして強化ブレーキ……など“走る・曲がる・止まる”に直結するエンスー好みの機能装備である。パッケージ価格のほうが限定車のパフォーマンスプラス(1250万円)より安いのは、ダッシュボードまで丁寧に張られたナッパレザーインテリアが省かれるからである。
別次元のクオリティ
ただ、街中をごくフツーに流しているかぎりは、「C63」はそのモンスターの本能を見事なまでに隠す。「ブロロロロ」というアイドリングはまあチューンドっぽさをうかがわせるが、いってみれば即座に気がつく「らしさ」はそこだけ。一般的な交通の流れに乗るだけなら、メルセデスならではのズシッと重いスロットルペダルに軽く足を置いて足指に力を込めるだけで事足りる。7ATのモード切り替えをデフォルトの“C=コンフォート”にしているかぎり、2速で発進してシフトアップも足早で、エンジンは1500〜2000rpm程度でハミングするだけだ。100km/hに達してもトップの7速でわずか1600rpmである。
ステアリングホイールの握りの一部がスウェード風アルカンタラになったり、タイトだが拘束しすぎないホールド性が絶妙のハイバック スポーツシートとなるのもオプションパッケージの特徴だ。しかし、そういうお約束のスポーツアイテムで気分を高揚させると、肩透かしを食らうほど快適な乗り心地は相変わらずである。見た目にはいかにも乗り心地が悪そうだが、路面からの当たりはなんとなればノーマルのアバンギャルド仕様より滑らかなくらいで、直進性はワダチにも乱されない。ステアリングもいい意味でマイルドであり、ごく普通のCクラスと同様に操れば、他のCクラスと同じく上品に走る。
それにしても、固定減衰ダンパーでこれほど極上の乗り心地を実現するとは、ちょっと信じられないくらいだ。これはAMG専用開発のフロントサスやコンチネンタルタイヤ、ダンパーの性能だけで達成されたものではなく、おそらくサスペンションの組み立て精度からしてノーマルのCクラスとは別次元のAMGクオリティと思われる。サスペンションというものは、同じ部品を使っても組み立て方ひとつで別物になる。
スロットルペダルを勢いよく半分も踏みこむと、「C63」はもはやシロートには手に負えないモンスターと化す。6.2リッターの暴力的なトルクは、CクラスのディメンションとFRという駆動方式では、なにをどうしたところで受け止めきれないのだ。もはや技術力うんぬんではない。わずかでもステアリングが切れているか、あるいはかすかにでも横Gがかかった状態でV8がうなりを上げた瞬間に、ほぼ百発百中でリアタイヤはグリップを失う。オーバーパワーにもほどがある。思わず笑ってしまう。
超絶ドリフトマシン
ただ、「C63」は危険なクルマではない。スロットルをどれだけ粗雑にあつかっても、優秀なスタビリティ制御(ESP)が即座に余分なパワーをそいでくれる。極端にいえば、オーバースピードでコーナーに突っ込みさえしなければ、あとはESPが勝手に走らせてくれる……という感じ。完全に手のひらの上で遊ばせてくれるのだ。
しかし、「C63」の本性を少しだけでも垣間見たいなら、ATを“M=マニュアルモード”にして、3モードあるESPを中間の“スポーツ”にするといい。ギアボックスは自動アップもキックダウンもしない完全マニュアルモードとなり、シフトショックは高まるが、基本はトルコンでも変速スピードはツインクラッチのチョイ落ちくらいまで速まる。そして、子供をあやすように早め早めに介入していたESPは、ハーフスピン手前まで手を差し伸べない。
そうなると、下手の横好きのアマチュアドライバーの典型である私なんぞ、まさに手に汗握るスリリングな体験に終始する。ただ、それでも“今日はもんでやったぜ!”というカタルシスを味わった気分になれるのは、フロントタイヤの位置が手に取るようにわかりやすく、ステアリング反応がどこまでもリニアで正確無比だからだ。ヒップの動きが大きく乱れてもフロントの支配力は失われない。さらに「パフォーマンスパッケージプラス」に含まれるLSDがこれまた効果絶大で、リアタイヤがグリップを失いかけても、スロットルさえ踏んでいれば推進力はなんとか保たれる。
さらにESPボタンを長押しすればESPは完全オフになり、「C63」はどこからでもリアタイヤから白煙を上げ、世界随一の超絶ドリフトマシンとなる。しかし、エスケープゾーンのない公道での試乗にかぎられた今回は、いくらイタズラ好きの私とはいっても、それを試そうという気にはまったくならなかった。ここから先はプロドライバーだけに許される世界だろう。「C63 AMG」とはいくつもの顔をもつクルマである。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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