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また日産がやっちゃった!? フル電動のR32型「スカイラインGT-R」に思うこと

2025.01.20 デイリーコラム 工藤 貴宏
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名車の味を未来に残そう

大盛況(海外からの来場者がかなり増えた印象!)で幕を閉じた東京オートサロン2025。その日産ブースに展示されたR32型の「スカイラインGT-R(以下、GT-R)」が物議をかもしている。

見た目はほぼノーマルのそのGT-Rがどうして2025年の日産ブースに展示されたのか。なかには「レストア車両じゃないか?」と思う人もいるかもしれないけれど、答えは「NO」。なんと、エンジンをはじめパワートレイン一式を外し、モーターとバッテリーを積んだ電気自動車(EV)なのだ。後席部分にバッテリー(2世代目の「リーフRC」用)を積み、最高出力218PS(160kW)の市販「リーフ」用を前後に搭載した2モーターの4WDとなっている。車名は「R32EV」。もちろんワンオフモデルだ。

「RB26エンジンを下ろすなんて、GT-Rに対する冒涜(ぼうとく)だ!」とお怒りのGT-Rファンも少なくないようだけれど、ちょっと振り上げた拳を下ろして聞いてほしい。このクルマが生まれたのは「R32型GT-Rの乗り味を将来につなぎたい」という願いからだ。決して、「メーカーがコンバージョンEVをつくるなら話題性を狙って名車がいい」なんていう薄っぺらい理由ではない。

「R32型GT-Rには、今のクルマにはない楽しさや気持ちよさがある。それの乗り味をいつまでも味わいたい。だから未来にも残そうというのがそもそもの発端。エンジン車だとこの先30年後までその乗り味を残すのは難しいけれど、EVならできる。音から加速や変速感、そしてアテーサE-TSの曲がる感覚などGT-RのフィーリングをEVですべて再現した」と開発者は説明する。

簡単に言ってしまえば「VHSに残したみんなが大好きな動画コンテンツは楽しいけれど、将来は見られない。だからデジタルに変換して30年後でも見られるようにしておこう」ってことなのだ。そんな狙いを知れば、熱狂的なGT-Rファンも、全員とは言わないが半分くらいはきっとこのEVコンバージョンに納得できるのではないだろうか。

東京オートサロン2025の日産ブースに展示された、R32型「スカイラインGT-R」……のように見える「R32EV」。会場では多くのクルマ好きが興味津々の様子。
東京オートサロン2025の日産ブースに展示された、R32型「スカイラインGT-R」……のように見える「R32EV」。会場では多くのクルマ好きが興味津々の様子。拡大
“クルマのデジタルリマスター版”のようなものと紹介される「R32EV」だが、貴重なR32型「GT-R」のEVコンバージョンについては、日産社内でも賛否両論だったという。
“クルマのデジタルリマスター版”のようなものと紹介される「R32EV」だが、貴重なR32型「GT-R」のEVコンバージョンについては、日産社内でも賛否両論だったという。拡大
本来のエンジンルームに2.6リッター直6ツインターボエンジン「RB26DETT」はない。車体前後に1基ずつモーターを搭載することで4輪を駆動する。
本来のエンジンルームに2.6リッター直6ツインターボエンジン「RB26DETT」はない。車体前後に1基ずつモーターを搭載することで4輪を駆動する。拡大
エクステリアは、極力オリジナルの状態を維持。ただしR35型「日産GT-R」用の大型ブレーキを組み込むべく、一点ものの専用18インチアルミホイールが組み合わされている。
エクステリアは、極力オリジナルの状態を維持。ただしR35型「日産GT-R」用の大型ブレーキを組み込むべく、一点ものの専用18インチアルミホイールが組み合わされている。拡大

“再現性”が決め手になる

もちろん、個人的にはアリだと思っている。確かにEVは内燃機関車に比べると(瞬発力はあって加速にリニア感やシャープさはあるけれど)味が薄く、正直なところ昭和生まれにとってはエモーショナルな感覚が足りないと感じる。ふつうのEVは。

だけどガソリン車の乗り味を再現した「ヒョンデ・アイコニック5 N」のような例もあるし、EVだってやり方次第では楽しいクルマとなり得るのもまた事実。楽しければモーターだろうがエンジンだろうが関係なく、心臓はどうであれR32型GT-Rの楽しさが備わっているならそれはそれでいいと思う。

実際、こういうかたちで内燃機関の走りの味をしっかりと再現できているなら個人的には旧車のEV化は大いにアリだ。世の中には「見た目は古いタイプだけど、中身は最新のポルシェ」なんてクルマもあって、そういうクルマを批判する声はあまり聞かない。それと同じだと考えれば、消化できるのではないだろうか。

じゃあ、どんなクルマを当時の乗り味を再現したEVコンバージョンにしたら魅力的か。個人的にはかつて乗っていたS13型またはS15型の「シルビア」なんかがあればうれしいと思う。ノーマルというよりはちょっとチューニングしたくらいの設定にしてもらって、ドリフトをバリバリ決められるような仕様なら間違いなく楽しく乗れるだろう。“あの頃”の懐かしさを楽しめる感じだとうれしい。音も含めて。

いずれにせよ、運転感覚を楽しむようなクルマをEVコンバージョンするにあたっては、今回のGT-Rのような「ガソリン車の味をしっかり再現する」というのは今後のヒントのひとつになってくるのではないだろうか。そういう視点で見ると、今回のGT-RのEV化は大きな意味があるのだ。

最後に、このEV化したGT-Rに関してこぼれ話をひとつ。フィーリングのサンプル取りとして元日産の名物テストドライバーである加藤博義氏の運転もデータ取りしたそうだが、それを再現したモード(モードは変更できる)にして走らせると「あまり楽しくない」のだとか。その理由は「運転がスムーズすぎるから」。(加藤氏よりは)ちょっと下手な人が運転したくらいのデータをもとにしたモードで走らせると「シフトアップ/ダウン時のちょっとショックが出る感じなどドラマがあって楽しい」のだという。なるほど。

(文=工藤貴宏/写真=webCG、日産自動車/編集=関 顕也)

インテリアの変更点も最小限。ステアリングホイールとシフトブーツはオリジナルで、センターディスプレイとメーターパネルは液晶画面となっている。
インテリアの変更点も最小限。ステアリングホイールとシフトブーツはオリジナルで、センターディスプレイとメーターパネルは液晶画面となっている。拡大
シートは専用設計で、完全2シーター。本来後部座席だったスペースには駆動用バッテリーがおさまっている。
シートは専用設計で、完全2シーター。本来後部座席だったスペースには駆動用バッテリーがおさまっている。拡大
車体右側後部の給油リッドを開けると、そこには給電口が。
車体右側後部の給油リッドを開けると、そこには給電口が。拡大
当然ながら「R32EV」にエキゾーストパイプは備わらないが、音や振動を再現する独自のサラウンドシステムを搭載することで、往年のR32型「GT-R」のアイドリングや空吹かしの音、振動、ギアチェンジ時の“音の変化”などが味わえるようになっている。
当然ながら「R32EV」にエキゾーストパイプは備わらないが、音や振動を再現する独自のサラウンドシステムを搭載することで、往年のR32型「GT-R」のアイドリングや空吹かしの音、振動、ギアチェンジ時の“音の変化”などが味わえるようになっている。拡大
「GT-R」以外のEVコンバージョンでは、S13型「シルビア」(写真)はどうだろう? ハイパワーモーターを搭載し、ノーマルとチューニング仕様を気分に応じて使い分けられれば理想的だ。
「GT-R」以外のEVコンバージョンでは、S13型「シルビア」(写真)はどうだろう? ハイパワーモーターを搭載し、ノーマルとチューニング仕様を気分に応じて使い分けられれば理想的だ。拡大
工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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