レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)
終わらない神話 2025.07.24 試乗記 3代目にして日本で初めて正規販売される「レクサスGX」。上には「LX」、下には「ランクル」という確固たる存在がいるわけだが、そこに割って入るGXとはどんなキャラクターの持ち主なのだろうか。“オーバートレイル+”をドライブして検証した。4モデルでラダーフレームを共有
いまのレクサスから1台選ぶとしたら、やっぱりこれでしょ。と、「レクサスGX550“オーバートレイル+”」で芦ノ湖スカイラインを走りながら思った。こういうのをカリスマと呼ぶのだ、きっと。
その成り立ちをごく簡単に紹介すれば、「トヨタ・ランドクルーザー“250”」のレクサス版である。ランクル“250”は人気がありすぎて国内での受注が停止になっている「ランドクルーザー“300”」の弟分で、弟分といっても骨格はまったく同じ。GA-Fプラットフォームなるラダーフレームの上に、ちょっぴりリアのオーバーハングを切り詰めたボディーを載せ、ガソリンもディーゼルも、あえて(おそらく)4気筒にとどめることで鼻先を軽くして、オフロード性能を“300”以上に引き上げた本格クロスカントリー4×4である。そのランクル“250”のレクサス版たるGXは、内外装と装備の違いにとどまらず、ガソリンの3.4リッターV6ツインターボエンジンがパワーユニットに選ばれている!
ランクル“300”のほか、「レクサスLX」でもおなじみ、排気量3444ccのV35A-FTSユニットは、2つのターボチャージャーでもって最高出力353PS/4800-5200rpmと最大トルク650N・m/2000-3600rpmを発生。ランクル“250”は、2.7リッターのガソリンで163PSと246N・m、2.8リッターのディーゼルで204PSと500N・mだから、その差は歴然。レクサスだから、動力性能だけでなく、快適性も大いに期待できる。
変わらぬトヨタの黄金比
ということで、筆者は胸を躍らせて試乗に臨んだ。試乗車は、本格オフロード仕様たる“オーバートレイル+”。写真の「ムーンデザート&ブラック」を含む専用色がいくつか設定されており、3列7人乗り仕様の“バージョンL”と比べると、20mmワイドなトレッド、それに「E-KDSS」なる電子制御のスタビライザーを標準装着する。最低地上高は“バージョンL”と同様、215mmもとられていて、215mmもあると、“オーバートレイル+”がもれなく装備するサイドステップは必須だと感じる。
全長×全幅×全高=4970×2000×1925mmというボディーの寸法は、ランクル“300”の化身である「レクサスLX600」比で、全長が130mm短い。居住空間とオフロード性能の「黄金比」、とトヨタ=レクサスが主張する2850mmのホイールベースは当然同じだ。試乗車はトーイングヒッチ、トレーラーをけん引するための連結装置がリアのバンパー部分に付いており、それゆえ全長は5015mmと45mmも長い。もっとも、ここではそれは無視させていただいて話を進めると、ようするにレクサスGXは“300”=LXよりもオーバーハングを切り詰めることで、オフロードで大切なアプローチアングルとかデパーチャーアングルを稼いでいる。
試乗を開始したのは、富士山の麓、富士スピードウェイにもほど近い「道の駅すばしり」で、そこから国道138号を淡々と南下、乙女峠を経て、芦ノ湖スカイラインの「レストハウス フジビュー」までの、バイパスを含む一般道と山道、往復60kmほどを走った。東京への帰路、御殿場ICから海老名SAまで走ったときの高速燃費が11km/リッター台だったことに感心したのを別にすると、オンロードではさほどの感銘を受けなかった。というのが筆者の正直な感想だった。
あくまでモダンで文明的
直截(ちょくせつ)に申し上げると、運転していて、たいしておもしろくもない。だって、本格オフローダーなのに、フツーの乗用車みたいに走れちゃうのだ。静かで、リアサスペンションがリジッドなのに、乗り心地もそんなに悪くない。始終、ひょこひょこ上下動している感はある。だけど、同種の「メルセデス・ベンツGクラス」とか「ジープ・ラングラー」なんかと比べたら、こちらははるかにモダンで文明的に思える。あちらの2台が昔ながらのトラックなら、こちらは現代の洗練されたトラックというか……。イカダで激流を下る、というような、いかにもリアリジッド! という、あちらの流儀に比べ、こちらの乗り心地にはそういうエキサイトメントがない。オフローダーとしては風切り音も、ロードノイズも小さい。オフロードっぽい外見のタイヤなのに。
3.5リッターV6ターボも、記憶のなかのランドクルーザー“300”、あるいはレクサスLX600よりトルクのドラマに欠けるような気がする。超絶スムーズで静かではあるけれど、筆者の期待よりもおとなしい。チューンが違うのか? と思ったら、そうだった。レクサスGXのV35A-FTSユニットは、前述したように最高出力353PSと最大トルク650N・m。ところがランクル“300”とLXのV35A-FTSの最高出力は415PS/5200rpmで、GX550より62PSもパワフルなのだ。650N・mの最大トルクは同じではあるけれど。
2.5tの車重に比してブレーキの初期の制動力が物足りないとも思った。爽快な加速感を味わえなかったのはそのせいでもある。ついアクセルを控えめにしちゃうのだ。
山道でのハンドリングは素直で、大きな体をゆったり動かすのに都合のよい足腰を持っている。「S+」モードに切り替えても、ボディーの動きをピタリと止めるような、無理なことはしていない。やんわりロールして好ましい。ただ、いまどきのプレミアムブランドのスポーツSUVみたいにグイグイ曲がる。というのではない。穏当な仕立てなのだ。
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真のステージで試さねば
と、このレクサスの最新モデルの印象をあれこれ書きながら、ハタと思い当たった。レクサスGXの開発コンセプトは、「ザ・プレミアム・オフローダー」である。ホームページの惹句(じゃっく)にはその前に、「新たなアウトドア体験へ誘う」とある。「新たなアウトドア体験へ誘うザ・プレミアム・オフローダー」を、場違いの舗装路でテストするだけでは、その価値を語っていることにはならない。F1を公道で走らせて、視界が悪い。と文句を言っているのと同じ愚かな行為である。
ザ・プレミアム・オフローダーは、プレミアムなオフローダーなのだからして、やっぱりオフロードでもテストする必要がある。それから舗装路でもテストする。そのとき、レクサスGXは真の姿をあらわすのではあるまいか。舗装路だけだと、豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏で、もったいないこと限りなしである。つまり筆者は間違った場所でテストして、間違った印象を抱いて間違った結論を書いている。冒頭、カリスマと表現したのは、こういうことを思わせること自体がランクル一族の神話だから、である。
余談ながら、ザ・プレミアム・オフローダーとPCに入力するたびに、「ザ・プレミアム・お風呂だぁ」と、つぶやき、うれしい心持ちになる。どんなお風呂だ?
ザ・プレミアム・オフローダーは、オンロードをフツーに走れるオフローダーである。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
レクサスGX550“オーバートレイル+”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5015×2000×1925mm
ホイールベース:2850mm
車重:2490kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.4リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:353PS(260kW)/4800-5200rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2000-3600rpm
タイヤ:(前)265/65R18 114V M+S/(後)265/65R18 114V M+S(ダンロップ・グラントレックH/T31)
燃費:8.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1195万円/テスト車=1256万7100円
オプション装備:ボディーカラー<ムーンデザート&ブラック>(7万7000円)/トーイングヒッチ<ウェイトディストリビューションタイプ、カバー付き>(7万7000円)/ドライブレコーダー<前後方>(4万2900円)/デジタルインナーミラー(4万4000円)/デジタルキー(3万3000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(24万0900円) ※以下、販売店オプション 盗難防止セット セットB<ホイールロックナット、ハンドルロック、カーロック>(10万2300円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1170km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:366.4km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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