ホンダ・プレリュード 開発者インタビュー
狙うは「タイプR」の対極 2025.07.31 試乗記 実に24年ぶりに復活するホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。その車名を聞けば、リアルタイム世代は懐かしさを覚えるだろう。2025年9月に予定される6代目モデルの正式発売を前に、開発の経緯やその特徴を3人のキーマンにうかがった。本田技研工業
四輪開発本部 プレリュード開発責任者
山上智行(やまがみ ともゆき)さん
本田技術研究所
デザインセンター デザイン エクステリア担当
大沼紀人(おおぬま のりと)さん
本田技術研究所
デザインセンター デザイン インテリア担当
東森裕生(ひがしもり ゆうき)さん
思いは最後のエンジン搭載スポーツモデル
2023年秋のジャパンモビリティショーでのコンセプトカー初公開以来、ホンダは新型プレリュードの情報を小出しにしてきた。2024年12月にはカムフラージュ姿のプロトタイプで、パワートレインが新技術の「ホンダS+シフト」を備えるハイブリッドであること、そしてフロントサスペンションが「シビック タイプR」ゆずりのデュアルアクシスストラットであることなどを明らかにした。そして2025年初頭の東京オートサロンでは市販版のエクステリアを、この4月にはインテリアデザインを順次公開してきた。
で、この夏、ついに公式ウェブサイトで正式な市販型の姿と2025年9月という国内発売予定を正式発表。それに合わせて、メディア向けに開発責任者や担当デザイナーが実車を前に、その思いを明かす説明会が催された。
最初にお話をうかがったのは、新型プレリュードの開発責任者である山上智行さんだ。山上さんは最近まで現行型シビックの開発責任者もつとめていた。また、先代までは北米向けに「シビック クーペ」もあったから、「これはプレリュードの名を借りた新型シビック クーペ?」と思って聞いてみたら、そうではないという。
「現行シビックをクーペにするという発想はありませんでした。今のシビックを単純にクーペ化したクレイモデルを検討材料としてつくったこともありましたが、まったくダメでした。まるで昔の『CR-X』を上に伸ばしたみたいなプロポーションだったんです。
今回のそもそもの発端は『ハイブリッドでスポーツカーをつくりたい』というもので、最初はプレリュードという名前もありませんでした。来るべきカーボンニュートラルの時代に向けて、ホンダのDNAである操る喜びを提供したいと考えたんです。完全な電気自動車の時代になる前に、それこそ最後のエンジンを積んだホンダのスポーツモデルになるかも……というくらいの思いでした」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
インスピレーションの源はグライダー
山上さんによると、このクルマがプレリュードと呼ばれることが確定したのは「開発が全体の3分の1ほど進んだころ」という。そんな新型プレリュードでは「UNLIMITED GLIDE(アンリミテッドグライド)~どこまでも行きたくなる気持ちよさ×非日常のときめき~」というグランドコンセプトが掲げられている。
「現代のクルマ開発には何百人、何千人という人間がかかわります。そうした多数の思いをひとつに束ねるという意味で、ホンダの商品開発ではグランドコンセプトを大切にしています」
今回のグランドコンセプトにある「GLIDE=グライド」とは、直訳すると「滑空する、滑る」という意味だが、ご想像のとおり、空を飛ぶグライダーをイメージしている。ただ、そっち方面はまるで門外漢の筆者は、グライダーには失礼ながら“風に乗ってフラフラ飛んでいる簡素で牧歌的な乗り物”という印象しかない。
「いやいや、グライダーというのはすごい乗り物なんですよ! グライダーは動力をもたないのに、地球を味方につけて、上昇気流を利用して数時間、数百kmも飛び続けることができるんです。優雅に飛ぶいっぽうで、ときには、信じられないようなアクロバット飛行もこなします。そんなグライダーは今回のプレリュードの開発で、非常に多くのインスピレーションを与えてくれました。
グライダーはクリーンでスムーズであると同時に、非常にレスポンシブで、とてもダイナミックな乗り物なのです。インテリジェントなのにプライベートではロックを楽しむ反骨心もあって、ヘリテージにとらわれすぎず新しいことにもチャレンジして、特別感があるのに多様性がある……といったプレリュードのターゲットカスタマーの皆さんに、グライダーのイメージはピッタリだと思いました」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
タイプR=戦闘機の対極
今回はプレリュードの正確な寸法も明らかになった。全長×全幅×全高は4520×1880×1355mm、ホイールベースが2605mm。シビック タイプRと比較すると、全幅は10mm、19インチのタイヤ幅も30mmせまいが、フロント1625mm、リア1615mmというトレッドは共通。いっぽうでホイールベースは130mmも短く、全長も75mm短く、全高は50mm低い。これでホイールベース/トレッド比はスポーツカーの黄金律である1.6以下、全高に対するタイヤ径比率も本格スポーツカーに恥じない50%を実現している。
エクステリアデザインを担当した大沼紀人さんに「新型プレリュードのキャノピーのようなルーフラインは確かにグライダーをイメージさせますね」と水を向けてみた。
「最初のスケッチ段階では“ハイブリッドのスポーツカー”という条件だけで、アンリミテッドグライドというグランドコンセプトもありませんでした。ホンダにはタイプRという確立したひとつの世界があって、そうではないスポーツカーとはなんだ……と悩みました。
デザイナーだけでなくエンジニアとも議論しているときに“グライダー”という言葉が出てきました。タイプRが戦闘機とすれば、その対極にあるのがグライダーというわけです。
プレリュードという名前は途中で決まったのですが、だからといってデザインを大きく変えたわけではありません。ただ、エンブレムのデザインやボディーカラーは、そこからイメージが広がったところはあります」
市販時のカラーバリエーションが明らかになったのも、今回のトピックである。新色の「ムーンリットホワイトパール」に加えて「メテオロイドグレーメタリック」「クリスタルブラックパール」「フレームレッド」というホンダの定番色がならぶ。ただ、“赤”が渋めのメタリックではなく、ホンダスポーツの定番色でもある鮮やかなフレームレッドが選ばれたのは、歴代最多販売台数の3代目を中心とした歴代プレリュードへの思いが込められているとか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
中高年ファンを泣かせる遊び心も
「もうひとつ、われわれデザイナーから強く要望したのはアンテナです」と大沼さん。
一般的なシャークフィンアンテナが、低全高でルーフも短いプレリュードの頭上に付くのは「デザイン的にあり得ない」と、リアウィンドウ内蔵のプリント式に変更してもらった。ただ、ここは見た目以上にコストがかかるそうで、決まるまでは紆余曲折があったという。
また、気になったのは前後センターの下端に付け加えられたブルーのアクセントだ。
「あれは初期のスケッチから入れていました。色も最初からブルーです。クルマのコンセプトを表現する意味でも、タイプRのレッドに対するアクセントを入れたかったというのが、ひとつの理由です。加えて、車体から少し離れた前後に、しかも中央の低い位置にアイポイントを置くことで、クルマ全体に低重心で伸びやかな印象を与える効果があります」
インテリアも各部に表皮素材をあしらった上質な専用デザインだが、これもまたプレリュードの名前が決まるまでには基本意匠は確定していた。
「ですので、クルマの名前が決まってから大きく変えた部分はないのですが、ちょっとした“隠しプレリュード”を追加で仕込んであります。本当は乗っていただいているお客さんにある日ふと気づいてほしいので、カタログなどでうたうつもりも一切ないのですが……」といいつつ、そっと教えてくれたのはインテリアデザインを担当した東森裕生さん。そうして東森さんは、運転席シートの背もたれにあるベルトガイドのホックを外して、その裏側を見せてくれた。
「ここに『19781125』という押し印があります。一見すると部品番号かなにかと思われるかもしれませんが、じつは1978年の11月25日は初代プレリュードの発表日なんです」
おお、これは中高年を泣かせる遊び心である。ちなみに助手席のベルトガイドにも別の押し印があるのだが、気になる人は新型プレリュードがショールームにならんだときにでも、ご自身の目で確認いただきたい。
(文=佐野弘宗/写真=webCG/編集=櫻井健一)
◇◆◇こちらの記事も読まれています◇◆◇
◆関連記事:ホンダが新型「プレリュード」の情報を先行公開 2025年9月に発売を予定
◆ギャラリー:新型「ホンダ・プレリュード」を写真で詳しく紹介(72枚)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ディフェンダー110ハードトップX-DYNAMIC SE D350(4WD/8AT)【試乗記】 2026.6.13 写真を見ていつもの「ディフェンダー」とはどこか違うと思われた方は鋭い。このクルマは1ナンバー、つまり商用車登録の「ディフェンダー・ハードトップ」である。全長約5mのボディーに備わるシートは前の2座のみ。広大な荷室を使いこなす生活を思い描いてみた。
-
キャデラックCT5スポーツ(4WD/10AT)【試乗記】 2026.6.12 アメリカのプレミアムブランド、キャデラックが擁する4ドアセダン「CT5」。その最新モデルに試乗する機会を得た。今や“上質な4ドア”というだけでも貴重な存在だが、さらにCT5には、ジャーマンスリーとは趣の異なる個性が確かに宿っていた。
-
メルセデス・ベンツGLC400 4MATIC with EQテクノロジー(4WD)【海外試乗記】 2026.6.11 「メルセデス・ベンツGLC」のモデルラインナップに電気自動車版の「GLC400 4MATIC with EQテクノロジー」が仲間入り。システム最高出力は489PS、一充電走行距離は700km超と、まず間違いのなさそうなスペックが示されている。本国ドイツで仕上がりを試した。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター(FR/6MT)【試乗記】 2026.6.10 マツダ スピリット レーシングを象徴するハードコアモデル「ロードスター12R」と同時に発表された、台数限定2200台の「ロードスター」に試乗。12Rとの比較を交えながら、最高出力184PSの2リッター直4エンジンがもたらす走りの印象を報告する。
-
スバル・トレイルシーカーET-HS(4WD)【試乗記】 2026.6.9 スバルから電気自動車(BEV)の第2弾モデルである「トレイルシーカー」が登場。ルーフの長いステーションワゴンスタイルのクロスオーバーという、いかにもスバルらしいBEVは、機能的で快適で、走らせても楽しい万能なマシンに仕上がっていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.14ミスター・スバル 辰己英治の目利きミスター・スバルこと辰己英治さんが、ホンダの世界的な人気モデル「CR-V」に試乗! かつてはスバルで「フォレスター」の走りも鍛えたことがある彼の目に、ライバルであるホンダのミドル級SUVはどのように映るのか? その走りを批評してもらう。 -
ディフェンダー110ハードトップX-DYNAMIC SE D350(4WD/8AT)【試乗記】
2026.6.13試乗記写真を見ていつもの「ディフェンダー」とはどこか違うと思われた方は鋭い。このクルマは1ナンバー、つまり商用車登録の「ディフェンダー・ハードトップ」である。全長約5mのボディーに備わるシートは前の2座のみ。広大な荷室を使いこなす生活を思い描いてみた。 -
キャデラックCT5スポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.6.12試乗記アメリカのプレミアムブランド、キャデラックが擁する4ドアセダン「CT5」。その最新モデルに試乗する機会を得た。今や“上質な4ドア”というだけでも貴重な存在だが、さらにCT5には、ジャーマンスリーとは趣の異なる個性が確かに宿っていた。 -
ここがヘンだよCEV補助金! ―電気自動車のヘビーユーザーが不透明な補助金制度に物申す―
2026.6.12デイリーコラム普通車の「ホンダ・スーパーONE」は130万円で、軽自動車の「N-ONE e:」は58万円。ジープやテスラは120万円超なのに、BYDはたったの15万円! CEV補助金の支給額は、いったいどうやって決まるのか? EVのヘビーユーザーが、不透明な制度に苦言を呈す。 -
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)
2026.6.12JAIA輸入二輪車試乗会2026創業は1901年というアメリカの老舗、インディアンモーターサイクルの「チーフ ヴィンテージ」に試乗。往年の「チーフ」をオマージュしたという一台は、ネオクラシックモデルとしての完璧な趣と、濃厚なファン・トゥ・ライドを併せ持つマシンに仕上がっていた。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”編
2026.6.11webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。ほかのカローラ クロスとは異なるパワーユニットや足が与えられたスポーティーモデルを、プロはどのように評価するのか?
























































