第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す
2025.12.19 エディターから一言 拡大 |
2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「ENLITEN(エンライトン)」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したというその最新モデルの実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。
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新設計基盤技術「エンライトン」を採用
ご存じ、ブリザックのブランドで知られているのがブリヂストンのスタッドレスタイヤである。同ブランド名で軽商用車用から小型トラック/バス用までがラインナップされるなか、「乗用車・SUV/4×4」用モデルが4年ぶりにフルチェンジを行って2025年7月に発表された。
ニューモデルの商品名はWZ-1。そこに含まれる”WZ”の文字は、氷雪上性能とサステイナビリティーという2つの最高性能の掛け合わせを表現すべく、英語の“天頂=ZENITH”に由来した“DOUBLE ZENITH”を表現したものだという。
ブリザックといえば2013年に登場した「VRX」以来、「VRX2」、そしてVRX3と“頂点”を意味する英語=VERTEXに由来する”VRX”の名称がおなじみだったが、今回完全に名称が改められたのは、スタッドレスタイヤの製品開発が次なるステージへと進んだことを強調したいからでもありそうだ。
そうした進化の骨格となっているのは、もちろんブリヂストンが2019年9月に発表した新しい商品設計基盤技術、エンライトンの存在である。
「薄く・軽く・円(まる)くを軸に基本性能を鍛え磨き全方位で性能を大きく進化させ、そのうえでモデルごとに最適な性能に対してエッジを効かせる」というのがこの基盤技術の基本的な考え方。いずれはすべてのタイヤに採用される計画というエンライトンだが、スタッドレスタイヤとしてはWZ-1が初めてこのテクノロジーを用いた製品になるという。
氷雪上性能の向上に磨きをかける
初代ブリザックが1988年に誕生して以降、いちずなまでに「断トツの氷雪性能」を追求し続けてきたブリヂストン。そうしたスタンスが最近になっても変わらないのは、ユーザー調査を行うとその9割が「アイスバーンでもしっかり止まる」という性能を求め、また半数以上が「アイスバーンで横滑りしない」ことを望むなどスタッドレスタイヤに求められる諸性能のなかで相変わらず氷雪性能アップへの期待度が際立って高いことに基づいている。
実際それは現実の肌感覚とも合致していて、たとえウエット状態であっても舗装路面上でタイヤのグリップ限界を頻繁に超える経験を持つ人はさほど多くはないであろう一方で、氷雪路面上ではいとも簡単にタイヤの持つグリップ限界を突破してしまったという人は少なくないはずだ。
こうなると、やはりまずは氷雪上性能の向上にこそスポットライトが当てられるのは当然である。かくしてWZ-1において前出のエンライトンが効かせる“エッジ”とは、アイス/スノー性能の向上に加えて、やはりユーザー調査の結果で判明した使用期間の長期化に伴う性能低下に対する不安の解消、そして同じく近年増加傾向にあるというウエット/ドライ路面での性能向上などに振り分けられたと考えるのが自然であろう。
結果として採用された具体的なテクノロジーは、従来の「接地面内への水の浸入を抑制する」から「接地面の水を吸い上げる”貯水”」へと着眼点を変え、除水効果を進化させたという新たな「L字タンクサイプ」を採用するトレッドパターンや、水に触れると覚醒しタイヤと路面の間に抵抗を生み出すことでグリップ力を高める「親水性向上ポリマー」を用いた「Wコンタクト発泡ゴム」など、多岐にわたる。
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リアルな北海道の冬道で試す
環境負荷の低減に貢献しサステイナビリティーを実現するために、従来型VRX3に対してタイヤの柔らかさに寄与する「ロングステイブルポリマー」の配合率を増やすことで経年による性能低下の抑制を図ったことや、タイヤの張力を均等化しより均一な接地を実現する「WZモーションライン」の採用など、あらゆる路面に対し性能を高次元で発揮させるようにしたことなども特徴として挙げられる。
タイヤそのもののルックスでは、これまで目にしたさまざまなスタッドレスタイヤのなかにあっても、ショルダー部分が極端なまでに直角に近いスクエアショルダーのプロファイルが印象的に映る。
そんな最新のWZ-1をチェックするべく赴いた北海道・旭川は、空港から宿泊先の市内ホテルに至るまでの道中が完全ドライ状態。ここまで来て、舗装路での走りをチェックして帰るの⁉ と、一瞬そんな思いが脳裏をよぎったものの、それでも「山の上のほうは積雪していますから」というスタッフの声を信じ、いざスタートである。
当初は小雨模様だった天候は途中から本降りとなり、標高が上がるにつれて今度はシャーベット状態から除雪が行われた跡がガリガリの凍結状態になって……と、まさにリアルワールドの縮図のような雪国の路面状況がそこにはあった。市内から旭岳へと向かうこのルートはこれまで冬季に何度も走った経験があるものの、ここまでさまざまな路面に遭遇したのは今回が初めてである。
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重量級モデルとのマッチングは良好
そうした過酷ともいえる路面状況ゆえ、過去に行った複数のモデルとの印象比較は困難であった半面、WZ-1の性能バランスをみるには好都合。アウディのSUV「Q5」を皮切りに、トヨタの「ヤリス」、「RAV4」、「カローラ ツーリング」、ホンダの「N-BOX」とさまざまな車種を乗り換えつつ標高420mから1100mの凍結・積雪区間を中心に山道の往復を繰り返すと、なるほどこれまで氷上性能ではトップランナーと認識していたVRX3に勝るとも劣らないフィーリングを各車で実感した。
もちろん、グリップの限界を超えれば滑ることは滑る一方で、そうしたスタッドレスタイヤ泣かせの状況下でも、突然コントロール不能に陥りはせずにある程度の余地が残されている感覚も共通していた。これは、絶対的なグリップ力とはまた別に、凍結路面走行時の安心感アップに大きく貢献するに違いない。
今回、唯一のフルサイズミニバンとして用意されていた「アルファード」とのマッチングが想像以上に良好で、4輪の接地感の高さから前出のようなさまざまな車種を乗り比べたなかでも特に安定した走行が可能であったことも印象に残った。これまでブリヂストンが「SUV専用ブリザック」として展開してきた「DM-V3」とも多くが重複するサイズを用意するWZ-1だが、それは重量級モデルとのマッチングにも自信があることの表れなのかもしれない。
ちなみにこの先もVRX3は併売が続けられ、WZ-1はよりプレミアムな存在として展開されていくという。当然、価格的にはWZ-1がより高価な設定となろうが、それでも「すべてにおいて安心できる最上級のモデルが欲しい」という要望に応えるスタッドレスタイヤとして見逃せない存在となるだろう。
(文=河村康彦/写真=ブリヂストン/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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