第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.08.12 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、今、にわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ようやく王者に挑める逸材が出てきた!
webCGほった(以下、ほった):えー、今回は新型日産エルグランドやメルセデス・ベンツVLEの登場で活気づく、高級ミニバンのデザインがテーマです。
清水草一(以下、清水):長らく「トヨタ・アルファード」の天下が続いてるけど、ようやくライバルが登場してきたってことね。
ほった:天下三分の計です。
清水:えーと、魏がアルファードで、呉と蜀はどっち?
ほった:どっちでもええです。まぁエルグラとVLEが出た! っていっても、現状、日本で実物を拝めるのはエルグランドだけですが。
渕野健太郎(以下、渕野):エルグランドは、以前に清水さんが言っていた「発散したデザイン」ですよね(参照)。ボディー下の四隅を限界まで幅広くして、そこを起点にデザインが組み立てられています。
清水:四隅が角張ってるを超えて、トガってるイメージですよね。
渕野:リアスポイラーまわりもかなり強く主張していますね。ヘッドランプとかはそこまで突飛ではありませんが、リアの上側の隅もとがっている。立方体の8つの隅のうちの6つが、これでもかと幅広さを主張しています。これは、新型「キックス」(その1、その2)と共通するデザインロジックです。「車幅の見栄えでは、絶対にアルファードに負けない」という強い意志を感じる。
清水:ただ、サイド面が平板でしょう。そのせいで、以前渕野さんが言っていた、「『セレナ』の大きいやつ」という印象は消えませんね。
渕野:それはどうしてもありますね。ただ面の抑揚は段違いです。特に注目がドア面のリフレクション。前後ドアの分割付近で折れているでしょう? この部位で面が折れていることを意味しますが、こうした通常考えつかないような立体表現で、よりダイナミックに見せています。
ほった:じゃ、もう一方の挑戦者であるVLEはどうでしょう?
渕野:最近のメルセデスのニューモデルのなかで、いちばんカッコいいと思います。
ほった:えっ、そうですか!?
清水:だいぶビックリ(笑)。
既存のVクラスとは全然違う
渕野:メルセデス・ベンツVLEは実に秀逸なデザインです。以前の「Vクラス」は車体全体のボリューム感が強すぎて、いったいどんなクルマかよく分からない部分がありました。どこか商用車という感じも否めなかった。
清水:商用車ベースの乗用車でしたよね。走りはさすがにメルセデスだったけど。
渕野:あれはロングであれショートであれ、ルーフラインが後ろまでスパーンとまっすぐ水平に走っていたでしょう。そのせいで商用車感が拭えなかったんですよ。
ほった:国産でいえば「トヨタ・グランエース」ですね。
清水:絶版になっちゃったけど。
渕野:それに対してVLEは、ルーフラインが後ろにいくにしたがって、なだらかに下がっている。
ほった:それだけでスペース最優先ではないのが分かるし、商用車感は消えますよね。
清水:サイドウィンドウの後ろ、Dピラー付近の処理も特徴的で面白いのでは。
渕野:そうですね。デザイナーがあえて乗用車的な演出をいろいろとしているわけです。サイド面を見ても、メルセデスらしいふくよかな面構成になっている。
ほった:ちゃんと乗用車的なショルダーがありますね。
渕野:フロントマスクは「CLA」などと同じで、左右のヘッドランプを加飾でつなげているパターンです。過去に取り上げたSUVの「GLC」は、全体のプロポーションに対してフロントのグリルがデカすぎて、顔だけが浮いて見えるという話をしましたよね(参照)。
ほった:あの顔はいただけません。光りすぎだし。
渕野:しかしVLEは、あの大きなグリルが全体のフォルムに対してぴったりはまっている。ドア面の、いちばん外側に膨らんでいるピークのラインが、グリルに自然につながっているので、すんなり受け入れられるんです。
清水:へぇ、そういう理由なんですか。
ほった:どうせ顔だけしか見てなかったんでしょ。
清水:まあね。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
顔の迫力はアルファードにも勝る
渕野:リアまわりも、メルセデスの箱グルマにしてはしっかりデザインされてます。リアコンビランプが縁の上側をぐるっと囲んでいる特徴的なグラフィックも、ここまで手をかけるのかと驚きました。プロポーションも、タイヤが四隅で踏ん張っていてスタンスが非常にいいし、全体的に本当にカッコいいと思います。
清水:自分はそこまでカッコいいと思わないけど、この顔の威力は絶大だろうなと思いますよ。そして、顔が決して浮いてない。
渕野:はまってますね。
清水:いまや高級ミニバンといえば、アルファードが圧倒的な天下を取っていて、アジア諸国でも大人気でしょう。一方、欧州ではVクラスのひとり天下だったけど、あくまで商用車の延長で、一般ユーザーが乗るクルマじゃなかった。日本でもVクラスの人気は盛り上がらなかった。
でも、VLEが日本に来たら、ちょっと情勢は変わるかもですね。数ではアルファードに勝てっこないけど、VLEに横に並ばれたら、アルファードオーナーも「げえっ、負けたかも」と思わざるを得ない。あの顔のインパクトはスゴいよね。大きく開いた口に吸い込まれそうで、一度見たら癖になる。アルファードすら吸い込むかも。
ほった:アルファードがアジアや南米などでぐんぐんのしてきた。そのトレンドをキャッチアップして中国勢も盛んに動いていたわけですよね。欧米以外の全世界で、「高級ミニバン」という市場が成立しつつあることを、メルセデスもようやく認識したんだと思います。だからデザインも含めて、このカテゴリーに本腰を入れ始めたんでしょう。
清水:ミニバン嫌い、ミニバン無視の欧州人も座視できなくなったと。結局、VLEのメインターゲットは中国市場かな?
ほった:中国を筆頭に、あとは新興国全般って感じでしょう。ただ今後はヨーロッパ市場でも、この手のミニバンが今までとは違う目で見られてくる気がします。
清水:かもね。彼らは保守的だから、意識変革にまだ時間はかかるだろうけど。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
丸みを帯びた面に宿る高級感と緊張感
渕野:VLEはEV(電気自動車)だけなんですかね? プラットフォームはEVとエンジンの両方に対応できるように設計されているというウワサを聞いたのですが……。
ほった:みたいですね。スペインの工場ではエンジン車の生産も予定しているそうですよ。
渕野:エンジン仕様も出れば、幅広い地域のユーザーに受け入れられそうですね。
ほった:そこは天下のおベンツさまですから、当然計算しているでしょう。表向きはサステナブルをアピールしつつ、裏ではマルチシリンダーのガソリンエンジン車とか、ディーゼル車もラインナップしてくるんじゃないですか?
渕野:顧客がそれを求めるなら、やらないテはない。
ほった:EVなのに遠慮なくバカでかグリルをおっ建てたのは、同じ車体でエンジン車もつくるつもりだったからかもしれませんね。それにしても、メルセデスが乗用車的にデザインしたミニバンって、VLEが初めてですよね?
渕野:そうですね。メルセデスの面表現には独特の丸みがあるでしょう? 以前、私は「GLB」がカッコいいと言いましたが(参照)、あのクルマはシルエット自体は四角いのに、面の表情は丸みを帯びていてふくよかという、相反する要素が共存していました。
清水:いわゆる「かどまる四角」ですね。
ほった:それは「日産ルークス」でんがな。
渕野:VLEにもそれと同じ魅力を感じます。GLCなどはリアゲートが寝ていて、全体的に丸っこいですが、VLEは四角いミニバンでありながら、面は丸みを帯びていて、緊張感や高級感がしっかり出ている。私はこのバランスがすごく好きなんです。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
この造形は2mの全幅があればこそ?
ほった:ボディーサイドのリフレクションを見ても、表情が豊かですね。
渕野:アルファードもそういうリフレクションの見せ方をしていますが、このクラスの高級車ともなれば、面が見せる質感は極めて重要です。四角いミニバンというパッケージングで豊かな面表現をやるのは、本来すごく難しい。VLEは、巨大な車幅をフルに使ってそれを表現しています。
ほった:確かにめちゃくちゃデカそうですね。全幅2mくらいかな?
渕野:ミラーなしで1999mmです。それくらいの全幅があるからこそ、こういう豊かな表情が出せるんでしょう。
清水:そんだけ幅がありゃなんでもできますよね。
渕野:ですね。一方でアルファードは、日本の道路事情に合わせた全幅のなかで立体構成を工夫して、豊かな表情やダイナミズムをつくっている。そこが素晴らしい。先代では立体のうねりよりグラフィック(線の引き方)で見せていましたが、新型はリア下へと向かう大きな流れがあって、その起点としてヘッドランプやBピラーのピックアップなどが表現されている。だから、車体全体に非常に調和しているんです。
清水:それ考えると、アルファードのデザインって、やっぱりスゴいですよ。
渕野:アルファードは、立体感や抑揚の表現を主にBピラーより前に集約しています。これはおそらく、デザインを考える段階で、ボディー前半に「造形しろ」が取りやすいことを分かっていたのではないでしょうか。一方、キャビンはBピラーからキックアップしたデザインになっていて、キャビンを薄く、スマートに見せています。それもグラフィックではなく、立体嵌合でそれを表現している。そしてそれが下半身のボリューム感につながっており、まさに高級車のデザインセオリーをミニバンで実践しているんですよ。ほとほと感心します。
清水:そんなにいいですか?
渕野:ええ、立体ときれいに絡み合っていますよ。
ほった:そうした工夫で質感を出しているアルファードと比べると、VLEはストレートに、クルマ全体で動きを表現している感じですね。
清水:まぁ、これだけデカけりゃデザインもだいぶラクでしょう。
渕野:確かにそういう面はありますけど(笑)。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=トヨタ自動車、日産自動車、メルセデス・ベンツ、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第123回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(後編) ―ライバル比較で浮き彫りになる日産デザインの底力― 2026.8.5 日産ひさびさの話題作となっている新型「キックス」だが、盛況なコンパクトSUV市場は競合ひしめくレッドオーシャン! ライバルと比較しても、キックスのデザインは埋もれない逸品と言えるのか? カーデザインの識者とともに、日産デザインの実力に迫る。
-
第122回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(前編) ―すべては計画どおり!? 物議をかもすフロントデザインの正否― 2026.7.29 日産が満を持して日本に導入した、コンパクトSUVの新型「キックス」。失敗が許されない量販車種だけにデザインはコンサバかと思いきや、実際にはかなり強烈な“顔”の持ち主だった。物議をかもすその容貌は確信犯の所業か? カーデザインの識者と考えた。
-
第121回:幽玄なるBMWアルピナ(後編) ―成功のためには美学を捨てろ? “優雅なラグジュアリーカー”の成否を考える― 2026.7.22 BMWのクルマをベースに、優雅で上品なグランドツアラーを仕立ててきたBMWアルピナ。BMWの傘下で再出発を切ったラグジュアリーブランドは、その美学を守り続けられるのか? オラオラ系がもてはやされる高級車マーケットでの成否を、カーデザインの識者と考えた。
-
第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?― 2026.7.15 日本でも、ファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その伝統である「控えめの美学」は今後も受け継がれるのか? ショーカー「ビジョンBMWアルピナ」の造形から、カーデザインの識者と考えた。
-
第119回:デザイン目線で大総括! 2026年上半期のニューモデル ―「日産リーフ」「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」その他もろもろ編― 2026.7.8 2026年の上半期に登場したニューモデルを、カーデザインの識者とともに大総括。「日産リーフ」「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」「トヨタRAV4」などをお題に、いつもの3人が激論(?)を交わす! 上半期ベストデザインの栄冠に輝くのは、このクルマだ!
-
NEW
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
NEW
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】
2026.8.12試乗記トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。 -
ネジやボルトの“締め付け”ひとつでクルマの乗り心地やハンドリングがよくなるって本当?
2026.8.11あの多田哲哉のクルマQ&A車体の組み上げに使われる、無数のネジやボルト。その締め方次第でよりよい走りを実現できるというのは本当なのか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いてみた。 -
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.8.11試乗記新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。





















































