第126回:新型BMW X5(前編) ―これは終わりの始まりか? 迷走する“ノイエクラッセ・デザイン”に物申す―
2026.08.26 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
スポーティーなプレミアムSUVの代名詞だった「BMW X5」が、ついに新型に! “ノイエクラッセ”のエッセンスが取り入れられたそのデザインの評価は? そもそもこの造形で、BMWはなにを表現したかったのか? 賛否の分かれる新型X5のデザインを、有識者と考えた。
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やっぱりこんなに鼻ペチャなのか
webCGほった(以下、ほった):今回は緊急で、再びの“BMWノイエクラッセ”回です。
清水草一(以下、清水):またノイエクラッセ?
ほった:超絶問題作が爆誕しちゃったらしいので、仕方ないですよ。その名も新型X5。ちなみに、今回のお題は渕野さんの発議によるものです。
渕野健太郎(以下、渕野):ノイエクラッセは、あのBMWの新しいデザイン言語ですしね。しつこく取り上げる価値はあるんじゃないでしょうか。……で、新型X5のデザイン、皆さんの第一印象はいかがです?
清水:まず顔についてですけど、「やっぱりこんなに鼻ペチャなのかー」って思いました。「iX3」と同じで。
ほった:コンクリート壁にぶつかってつぶれたみたいに、ほとんど真っ平ら。
清水:それを除けば、全体としてはいいんじゃないでしょうか。ヘッドライトが「X」なのも斬新だし。
ほった:ワタシは理解が追いつかないってのが素直な感想です。顔については……やっぱりこのグラサンかけたケツ顎のドクロでいくんですね。ビーエムは。
清水:これサングラスなの? 「XXXX」だから、マンガでいうと失神しちゃってるみたいに見えるけど。
ほった:じゃあ失神したグラサンドクロですよ。顔全体としては、やっぱり『Dr.スランプ』のニコちゃん大王みたいな感じですよね。カッコいいのかな? これ。
渕野:BMW X5といえば皆が憧れる存在で、スポーティーな高級SUVの代名詞でしょう。先代X5を見ても「カッコいいよね」と、誰もが納得できるクルマだったと思います。だから新型を見て驚きました。顔もそうですけど、プロポーションがBMWらしくない鈍重なものに見えましたね。
清水:え、そうですか?
そもそもなにがしたかったの?
渕野:プロポーションがイマイチな理由は、前後フェンダーのボリューム、ボディの絞り、軸のピーク位置など全体的な造形が、スタンスのよさをスポイルしているからな気がするんですよ。例えば、フェンダーはボリュームを非常に高く大きくとったせいで、途中で面を切り返して、段つきにしてタイヤアーチに向かってますよね。
ほった:フェンダーを途中で削っていますね。
渕野:それらの処理がネガ面に見えて逆効果な感じがします。げっそりやせて見えているし、強すぎるフェンダーのボリュームでタイヤが小さく見えてますし。
ほった:21インチもあるのに。
渕野:フロントまわりも同じような印象ですね、特に下部が。
清水:ある意味シワシワ?
ほった:ですね。
渕野:なおかつ、斜め前から見たときのリアまわりも重たいですよね。コーナーあたりの絞りが弱いので、バンパーがリアタイヤの後ろにはみ出て見える。空力を意識しているのかもしれませんが、BMWとしてスポーティーに見えてないですね。先代モデル……というよりこれまでのBMWデザインは、そういうところがすごくしっかりしていました。
清水:そ、そうですかね……。
渕野:先代はフロントフェンダー、リアフェンダーともにしっかり光を拾う造形になっており、またリアコーナーまわりもしっかり絞られていて、どれも「タイヤを主張した造形」で非常にスタンスがよかったんです。一方、新型はリアのコンビネーションランプ付近が一番出っ張っているようなシルエットになっており、かなり腰高に見えるんじゃないでしょうか。この辺り、BMWとしてなにを表現しようとしているのか。
清水:力強さ、ですかねぇ?
ほった:その割にはボディーサイドは絶壁で、下半身がやせて見えるけど。
渕野:結局、BMWはノイエクラッセでなにをやりたかったのか、それがいまいち分からなくなってしまったんですよ。
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歴代モデルとの間に感じる断絶
渕野:もともとBMWのデザインといえば、「駆けぬける歓(よろこ)び」を具現するような、スポーティー志向のものだったでしょう?
ほった:間違いなく。
渕野:ボディーの構成を例にとると、フロント側は少しワイドに外に出して、そこからリアに向けてぐーっと絞っていく。その絞ったリアの下部に、どっしりとしたリアフェンダーが付くことで、造形そのものがフロントからリアへとダイナミックに流れていたんです。しかし新型X5は、普通のドア面にフロント/リアフェンダーの非常に大きなボリュームが、そのままポン、ポンとくっついた構成です。これでBMWはなにを表現したいのかと。
清水:やっぱり力強さかな(笑)。
渕野:こういうのは、普通は4WDであることを主張するときに使われる手法です。アウディであればそのアプローチも分かりますが、BMWはこれまでFRらしさを表現してきたからこそ、あのデザインになっていたんだと思うんですよ。ロングノーズで伸びやかさを出しつつ、リアの荷重を感じさせる“FRっぽい”デザインだった。「3シリーズ」なんかは特にそうです。
それがノイエクラッセシリーズでは、例えば「i3」などでも、普通のドア面にフロントフェンダーとリアフェンダーがくっついているだけで、ダイナミックな流れがあまり感じられない。ノイエクラッセという名前だけに、同じ名で呼ばれていた1960年代や1970年代のBMWに通じるシンプルな造形にしたかったんだと思いますが、これまでのFRらしいデザインとの落差が大きすぎて、つながりが感じられないんです。プレミアムブランドにおいては、歴史的なつながりは非常に重要でしょう。そこが最大の疑問点です。
清水:いやー難解だな……。オレ、もう一度自動車デザインの小学生からやり直さないとダメかも。
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超巨大キドニー時代の反動か
渕野:ノイエクラッセの狙いが、これまでの「BMWらしさ」と決別し、とにかくシンプルに徹することが目的だったとしたら、X5のフロントまわりは煩雑に見えますね。
清水:特に下のほうがごちゃごちゃですね。リアバンパーもあぐらをかいてる。
ほった:ここだけは下半分の存在感がスゴい。
渕野:そうなんですよ。私はめちゃくちゃ疑問です。
ほった:ううーん。ワタシは自分の感性をミジンコも信じてはいないんですけど……やっぱり、これってカッコいいんですかね? ノイエクラッセが出てきてからずっと感じているんですが、目新しさが優先されすぎて、デザイナーのひとりよがりな絵が先走っていやしないかと。
渕野:BMWはここ数年、キドニーグリルを巨大化させるなど、派手なデザインが多かったですよね。それは市場の要望だったりしたわけですけど、デザイナーとしては「これでいいのか?」というジレンマがあったんだと思うんです。そして今回、自動車の変革期に合わせて、ノイエクラッセとしてすべてを変えようとしているんだと思います。
だとしてもですよ。これまでのBMWも販売は悪かったわけではなく、むしろ好調でしたよね。それなのになぜ、ここまでデザインを急激に変えるんでしょう?
清水:キドニーの巨大化はもうムリなのでシンプルにします。そのぶん、ほかの部分を多少コテコテさせときますって感じですか?
ほった:んなテキトーな。
渕野:最初のコンセプトモデルの「ビジョン ノイエクラッセ」は、シンプルで軽快でした。だけど市販車版の新型i3(参照:その1、その2)や新型iX3は、さまざまな諸事情の結果、シルエットが全然違う。顔だけノイエクラッセにしたような感じになっているようで、今一度、全体のデザインテーマを再考してもいいのではと思ってしまいます。
清水:SUV系でいうと、「X3」(参照)はもっとフォルムが岩石みたいにシンプルで、こんなごちゃごちゃしてなかったよね。フェンダーとかも。あれはよかったよね。顔はノイエクラッセじゃないけど。
渕野:X3は非常によくできてます。これまでのBMWデザインを踏襲したFRっぽいプロポーションにしつつ、各面構成が非常にシンプルで明快。次世代のBMW的な印象がすごくあり、X5もそっちの方向だったら納得がいくんですけどね。
ほった:そもそもX3系のデザインって、あれ単発で終わりなんですかね?
清水:最近のBMWは本当にデザインがバラバラだよね。バラバラにするのが悪いわけじゃないけど。
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スタイリングへのこだわりはどこへ?
渕野:デザインの順番としては、やはり全体の立体構成があって、それでこその顔まわりなんですよ。X3はシルエットがいいので、ボディーはそのままで、顔まわりだけノイエクラッセ風にすれば、それはそれで結構しっくりくるんじゃないでしょうか。
清水:X5も、X3系のフォルムで顔だけノイエクラッセにしたほうがよかっただろうなと思います、私も。
渕野:やっぱり、X5はなんでこのデザインにしたのか。デザインの意図が分からない。
ほった:「お金持ちのクルマ」に見せたかったんじゃないですか? ビジョン ノイエクラッセそのままのデザインも、X3系のデザインも、押しが弱いと思われたのかもしれない。
清水:その割に顔は控えめで迫力ないよね。へん平だし。下側はゴチャゴチャさせてるけど。
渕野:顔もそうですけど、気になるのはやっぱりスタイルです。清水さんは以前、「フィアット600」について「顔だけかわいくしても、プロポーションがこれじゃ……」って話をされていましたよね(参照)。プロポーションは絶対的に重要なんですよ。顔はかわいいネコだけど体はゴリゴリのサイみたいな動物がいたら、みなさんどうですか?
清水:それは怖い。怖すぎる(笑)。
ほった:X5は顔もビミョーですけどね。
清水:それに新型X5のプロポーションって、そんなにダメですかね?
渕野:繰り返しになりますが、前後フェンダーのボリューム、ボディーの絞り、軸のピーク位置など、全体的な造形がスタンスのよさをスポイルしている気がしますね。
清水:そうかなぁ。それほどでもないような気がするけど。
渕野:そういうところは、BMWはこれまで非常にしっかりやってきたわけです。BMWはそれくらい突き詰めるのが当たり前だし、私はそうであることを期待します。
清水:いやー、SUVに関しては、そうでもなかったんじゃないですか? 例えば先代X5にしても……。
ほった:おっと先生、時間オーバーです。この論争、続きは次回に。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=BMW、アウディ/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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