第133回:軽EVのデザインを考える(後編) ―「ラッコ」も「eスカイ」も夢がない!? 軽EVが“普通のデザイン”になった理由―
2026.10.21 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「BYDラッコ」に「スズキeスカイ」と、新作が登場しては業界の話題をさらっている軽の電気自動車(EV)。しかし、そのデザインはどれも普通というか、エンジン車の延長線上にないか? 急速におとなしくなった軽EVの潮流を、カーデザインの識者と考えた。
(前編に戻る)
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デザインは既存のモデルの延長線上
webCGほった(以下、ほった):スズキeスカイの話はこのへんにして、 もう一台、話題沸騰中のクルマの話をしましょうか。
清水草一(以下、清水):BYDラッコだね!
渕野健太郎(以下、渕野):あのデザインは手堅いですよね。すでに完成されたスーパーハイトワゴンのシルエットそのままです。実用性を考えると、どのメーカーがつくっても基本的なシルエットはこうなるので、もっと遊んでくるのかなと思ったんですけど、完全にビジネスに徹していると感じました。
清水:面白みはほぼゼロ。
渕野:普通に四角いプロポーションだし、クオーターガラスのところでショルダーラインをキックアップさせているのも、先代の「日産ルークス」と同じです。キャビンをあまり大きく見せない工夫ですね。窓の肩をそのままリアまで抜いてしまうと、キャビンがでかく、不安定に見えるので、ボディーをできるだけ厚く見せたいと。まぁこんな感じで、基本的にセオリーに忠実です。
ほった:これまたEVっぽさを感じさせないデザインですね。
渕野:普通の軽自動車として考えてるんじゃないですか。フロントは「ダイハツ・タント」の構成にかなり近いと思いますが、これでカスタムグレードが出てきたらすごい(笑)。
ほった:まんまタントやないけ! になる(笑)。
ツボを押さえたお金のかけ方
清水:ラッコのデザインは、すごく装飾が控えめだよね。顔なんか、ドヤ顔嫌いのカーマニア向けと言ってもいい。カスタム系の軽からこれに乗り換えるユーザーは、相当精神を鍛えないと(笑)。
渕野:ノーマルの「ホンダN-BOX」も同じくシンプル路線ですけど……こういう上品顔って、みんなが欲するデザインかというと、そうでもないですよね。
ほった:だからN-BOXも、カスタムはオラオラ顔にチェンジしました。
渕野:あれでもちょっと中途半端な感じがします。タントや「スズキ・スペーシア」のカスタムは、ヘッドランプもボンネットも、ノーマルとは別パーツを使ってますけど、N-BOXカスタムはそこまでじゃない。ボンネットは共通なんです。ホンダって最初は理想が高くて、マイナーチェンジで一般ユーザー向けに軌道修正していくことが多いんですけど、今回もあくまで軽い修正ですね。
清水:プライドが捨てきれてない感じがしますね。
渕野:ラッコに話を戻すと、リアビューに関してはランプが横につながってるのが特徴なんですよ。ほかのハイトワゴンはすべて縦長ですよね。そこでお金をかけて、差別化を図ってる。ラッコは、こういうディテールで価値をつくっているんです。
ほった:これをやると、テールゲートに配線を回したりして結構コストがかかりますからね。
清水:確かに後ろから見ると、ほかとはだいぶ違って見えるな。
渕野:内装もそう感じました。シフトまわりやボタン系が、結構しっかりしてるじゃないですか。すげえなって思ったのが、空調系とシフトをひとつのユニットにしている点です。
ほった:あー、そっかそっか。
渕野:ライバルはそこが別々なので、そのぶん部品点数が増えるんですけど、このクルマは質感を高めつつ、部品点数を減らしている。そこに感心しました。
清水:機能的で上質ですよね。
渕野:ATもボタンシフトみたいな使いづらいものじゃなく、ちゃんとセレクターになってますし、しっかり考えられてますよ。
清水:小物入れの数も控えめで、おせっかいな感じがないしね。
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スズキがスーパーハイトワゴンを選ばなかった理由
渕野:それにしても、なぜスズキは最初の軽乗用EVをラッコみたいなスーパーハイトワゴンにしなかったんですかね?
ほった:狙いの違いでしょう。まずはエントリーレベルの軽EVをつくることを狙ったみたいなんで。むしろ私は、「『アルト』みたいな軽セダンじゃないんだ」って思いましたよ。
渕野:でも、今の主流は背が高いのじゃないですか。
清水:あえて「主流にはしたくない」って思ってるのかも。そんなに売れたら困る。バッテリーが供給されないとか(笑)。
ほった:それはどうか分かりませんが、最初からスーパーハイトワゴンを開発するのはハードルが高いから、手堅いところからいこうってのはあったのかもしれませんね。
渕野:値段を抑えるのがマストだったのかも。
ほった:それに、販売比率は確かにスーパーハイト系のほうが大きいですけど、軽自動車市場はそもそも全体のパイがでかいですからね。ハイトワゴン系だって、決して数が出ないジャンルではないですから。
清水:でもさ、これでラッコと価格がほぼ同じなんだから、ガチで比較したらBYDに完全にやられちゃってるわけでしょ。これが国産EVの限界かっていう感じは否めないなぁ。
ほった:ただクルマ自体のパフォーマンスはスゴいと思いますよ。バッテリー容量がこれだけ小さいのに、一充電走行距離はWLTCモードで310kmですから。クルマオタクとしては、BYDよりこちらのほうが、素直に感動でした。
清水:バッテリー容量、何kWhだっけ?
ほった:26kWhです。ちなみにホンダの「N-ONE e:」が29.6kWhで295km。ラッコは35.84kWhで320km。「日産サクラ」は20kWhで180km。
渕野:このあたりの性能を考えて、スズキは車体をちょっと低くしたのかな。
ほった:電費のためというより、パッケージ全体で見て吟味したんでしょう。あとはやっぱり、マーケット的に自分の強いところから入り込もうとしたのかも。背高ノッポ系はライバルが多いけど、エントリーレベルの軽はスズキ、ダイハツの寡占状態ですからね。リングの真ん中でどつき合うのは、得意のカテゴリーで地固めしてからっていう戦略もありそう。営業車需要も、ごっそり奪い取れるかもしれませんし。
清水:eスカイはまんま営業車みたいな雰囲気だしね。
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早くもコモディティー化が進んでいる
ほった:それにしても、ここまでの流れで考えると、最初に出たサクラが一番EVっぽいデザインだったと思いません?
渕野:サクラも法人やレンタカー向けのグレードと主力グレードでは、内装の質感が全然違うんですけどね。でもやっぱり、自分が乗るならサクラのデザインを取りますね。フォルムが一番しっかりしている。
ほった:航続距離180km、実質100kmちょっとですけど。
清水:それでもサクラにひかれるなぁ。特に初期型の、ボディーカラーが「ブロッサムピンク」のやつに。
渕野:ホンダのN-ONE e:に関しては、「N-ONE」よりもデザインがベーシックになっている印象で、そこが解せない……という話は、前にもしましたっけ? もうちょっと質感が欲しかったですよね。内装もかなりそっけないし。
ほった:サクラは「軽EV=高級な軽」っていうスタンスで、分かりやすいですよね。N-ONE e:は、倫理とか道徳の感度が高い若者向けかな。
渕野:スズキが狙っているのはそういう限られた層ではなく、クルマが生活に根づいている層、それも主に高齢者層でしょう。EVだろうと先進性なんて必要ないっていう人もいっぱいいますから。軽EVも幅が広がって、コモディティー化が進んだ感じがします。
清水:うーん、でもちょっと早すぎませんかね? もうそこにいっちゃうのか。
ほった:まぁ、もともと軽ってそういう役回りのクルマですからね。現状に関しては、私が応援してたホンダが滑ったことだけは間違いない(泣)。あとは“西の雄”ダイハツがいつブツを出してくるかだけど……。
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いまだにサクラが原点にして頂点?
渕野:そういえば、ダイハツは軽EVをつくんないんですかね?
ほった:どうなんでしょうね。ダイハツで軽EVというと、ワンボックスの「eハイゼット カーゴ/eアトレー」がありますけど、電費の悪さをデカいバッテリーで補ってるきらいがあるんですよ。あれがダイハツの現在地だとしたら、ちょっと厳しい。逆にびっくりしたのがスズキで、もう自前のeアクスルをつくって、97Wh/kmなんて電費を出してきたじゃないですか。ダイハツは相当ガンバらないと。
清水:バッテリーをBYD製にしたのも英断かもね。もうどうせかなわないんだから。
ほった:先生、スズキはバッテリーがどこ製かは公表していませんよ。それと「日産リーフ」が出てからまだ16年ですから、そのへんの結論を出すにはまだ早いでしょう。ガソリン車が登場してからゼネラルモーターズが覇権をとるまでにも、半世紀近くかかっているんだし。
渕野:とはいえ、こういうクルマは中身のコア技術は共用でもいいと思うんですよ。日本のものづくりは自前主義が強いけど、もっと効率を重視してパーツは海外依存してもいいと思います。せっかく強いブランド力がありますから、商品企画やプロモーションにもっと力を使ったほうがいいんじゃないかと。
ほった:ワタシゃそれには反対ですけど、これはデザインの連載なので脇に置いときましょ。今回はラッコとeスカイをフックに、軽EVのデザインの流れをおさらいしたわけですが、渕野さんはこの2台のどっちを評価してます?
渕野:ううーん。全然方向性は違うけれど、両方ともこれまでの軽自動車の延長線上なので、新しいことをしているわけではないですから。
ほった:新規車種のデザインがこれですからね。みんな、想像以上に軽EVに夢を求めていないのかも。
渕野:だから、個人的に欲しいと思うのは、依然として断然サクラなんですよ。
清水:やっぱりサクラ(笑)。特に初期型のブロッサムピンク!
ほった:じゃあ、「軽EVのデザインは、この5年間進化していない」ということで。
清水:投げやりにならないでよ(笑)。でも本当に、これからもずーっとサクラが頂点のまんまだったりしてね。
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=BYDオートジャパン、スズキ、ダイハツ工業、日産自動車、本田技研工業、三菱自動車、郡大二郎、田村 弥、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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