BMW&MINI新エンジン試乗会(BMW320iクーペ/135iクーペ、MINI ONE/クーパーSクラブマン)【試乗記】
ゴールは同じ 2010.07.16 試乗記 BMW&MINI新エンジン試乗会(BMW320iクーペ/135iクーペ、MINI ONE/クーパーSクラブマン)環境性能を高めた新エンジン導入が続くBMW、MINI。燃費は向上したというが、その走りは変わったのか?
燃費大幅アップの勘所
2010年5月、相次いで発表されたBMWとMINIの新しいラインナップにあぜんとした。ほとんどのモデルの燃費が大幅にアップしているのだ。マニュアル仕様の「320iセダン」なんて、10・15モード燃費が12.8km/リッターから18.4km/リッターにジャンプアップ! その伸び率、なんと43.8%だ。これはタダゴトではない。
BMWといえば「駆け抜ける歓び」というフレーズが有名だが、最近は、走りの楽しさを失うことなく燃費向上を目指す「EfficientDynamics(エフィシェント・ダイナミクス)」を掲げているのはご存じのとおり。一方のMINIも、「MINIMALISM(ミニマリズム)」をテーマに、スポーティな走りと環境性能の両立を目指している。言葉は違うが、もちろんゴールは同じというわけだ。
燃費向上のためのアプローチとしては、パワートレインの効率を高める一方、車両全体のエネルギー消費を抑えるというのが常とう手段だ。BMWやMINIも、エンジンの直噴化や無段階可変バルブ制御の「バルブトロニック」、マニュアルベースのDCT(ダブル・クラッチ・トランスミッション)によりパワートレインを高効率化。これに加えて、アイドリングストップ(MTまたはDCT搭載車)をはじめ、電動パワーステアリング、エネルギー回生システム(充電制御システム)など、さまざまな技術を積み重ねることにより、低燃費を実現する。
満を持してのリーンバーン
そして注目したいのは、BMW1シリーズや3シリーズの4気筒および6気筒の自然吸気エンジンに、希薄燃焼(リーンバーン)を採用することだ。なぜいまリーンバーンかという感じもあるが、リーンバーン触媒をいたわるためには硫黄分の少ないガソリンが必須で、ようやくその条件がグローバルで整ったということらしい。まさに満を持しての投入なのだ。ただリーンバーンというと、これまでは、通常の燃焼(理論空燃比)に比べて希薄燃焼時のトルクが不足してスカスカな感触があったり、また、希薄燃焼から理論空燃比に変わる際にトルクの“段付き”が気になる場合もあった。
果たしてBMWの場合はどうなのか? それを確かめるべく、まずは320iセダンのマニュアル車……といきたいところだが、車両の準備が間に合わないということで、同じシステムを積む「320iクーペ」で試すことにした。
さっそく走らせてみると、直噴エンジン特有の多少ザラついたフィーリングが伝わってくるし、低回転域でわずかにアクセルペダルの動きにエンジンの反応が遅れる場合があるものの、「ぬかにくぎ」というか「豆腐にかすがい」というか、とにかく手応えに乏しいというイメージとはかけ離れていた。一方、回せばレブリミットの7000rpmまでスポーティに回転を上げ、走りを好むドライバーの要求に十分応えるだけのスポーティさを備えている。急なトルク変動も見られず、かなり広い領域で希薄燃焼運転をしているようだ。BMWによれば、4000rpm台の前半くらいまではリーンバーン運転をするというから、ふだんはほぼ希薄燃焼でカバーできてしまうわけだ。
アイドリングストップは、エアコン使用時でも予想以上にエンジンを停止するのが、頼もしいところ。電動パワステを採用したことで、これまでのアクティブステアリング非装着車に比べて操舵(そうだ)が軽くなったのもうれしい点だ。クーペの場合、10・15モード燃費は、セダンよりも少し下がって17.4km/リッターになるが、この性能でこれだけの数字なら文句のつけようがない。
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ターボエンジンも新世代に
「135iクーペ」や「335iセダン/ツーリング/クーペ/カブリオレ」に搭載される、3リッター直列6気筒ターボも新世代に生まれ変わった。直噴ターボシステムにバルブトロニックが組み合わされたことに加えて、これまでのツインターボがツインスクロールタイプのシングルターボに置き換えられたのである。さらに、135iでは7段DCTが新たに搭載され(335iは従来DCT)、306psの最高出力はそのままとしながら燃費は10.2km/リッターをマークしている。
それだけに、135iクーペのドライブは痛快そのもので、アクセルを踏み込めば、ぐわーっとトルクが溢れだし、コンパクトなボディが瞬時に勢いづく。DCTでもアイドリングストップは効く。欲をいえば、320iにもDCTが搭載されたら、より幅広い層にBMWの高効率コンセプトを訴えられるのだが……。
直噴+ターボ+バルブトロニックの組み合わせはMINIにも採用され、クーパーSにツインスクロールターボ付き1.6リッターが新たに搭載される。こちらの印象も上々で、3000rpm手前から本格的に盛り上がるトルクは、試乗したクラブマンでも十分すぎるほど。マニュアルモデルにはアイドリングストップが搭載され、条件の許すかぎり律義にエンジン停止→エンジン再スタートを繰り返してくれるのはいとおしく思えるほどだ。
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MINI ONEがさらに魅力的に
個人的に欲しいなぁと思っている、エントリーモデルの「MINI ONE」のエンジンが、1.4リッターから1.6リッターに格上げされたのも話題のひとつだ。正直なところ、1.4リッターは非力な印象が否めなかったのが、この1.6リッターなら必要十分というレベルに仕上がっている。にもかかわらず、燃費は2割弱アップの20.5km/リッターをマークするのだから、いままで以上に魅力的になったのは、誰に目にも明らかだろう。
このように、性能アップを果たしながら、燃費向上が図られたBMW、MINIの各モデル。日本のメーカーが得意とするハイブリッドやCVTとは別方向からのアプローチは、クルマの軽快感やダイレクトに反応するパワートレインといった部分を失うことなく低燃費を実践できるという意味では、理想的なやり方のひとつといえるだろう。あとはこれで実燃費がどれほどなのか? 機会があれば、ぜひ試してみたい。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。