日産GT-Rブラックエディション(4WD/6AT)【試乗記】
進化は止まらない 2009.06.22 試乗記 日産GT-Rブラックエディション(4WD/6AT)……908万2500円
2008年末のランニングチェンジでエンジンやサスペンションが改良を受けた「GT-R」。初期モデルと乗り味はどう変わったのか? 09モデルを公道で試した。
入念なチューニングの成果
2007年の末に新しいGT-Rを発表した時、開発責任者の水野和敏さんは、例によって大演説をぶった。その中で特に印象に残ってるのは、「これでGT-Rが完成というわけじゃありません。これからも休まず改良の作業を続けて行きます。GT-Rは常に育ち続け、変わり続けるんです」ということ。
その宣言の通り、まず日本をはじめ世の中に出てから、次いでアメリカ向けを煮詰める過程でダンパーのしなやかさを追求し、乗り心地のフラット感を増した。そんな改善策をすぐさま国内向けにも転用し、いろいろ細部にも磨きをかけたのが、08年12月8日に登場した2009年仕様だ。
ざっと機構面の変更点を見ておくと、新構造ダンパーの採用、フロントサスペンションのスプリングレート引き上げ、エンジン本体の製品精度と電子制御の精度向上による最高出力と燃費の向上(480ps/6400rpm→485ps/6400rpm、8.2km/L→8.3km/L)といったところが柱で、ほかには燃料タンクの容量拡大(71L→74L)や、フロントナンバープレートの枠を廃止したことによる全長の短縮(4655mm→4650mm)などがある。
こんな細かいこと、なぜ列挙したかというと、乗った瞬間から、入念なファインチューニングの効果が全身を直撃するからだ。
レーシングカー的資質
細かく分けると3車種あるGT-Rだが、スペックは共通。今回ここに登場するブラックエディションは、シートなど内装の基調が黒で統一され、そのぶん戦闘的というか男っぽい雰囲気に仕上げられている。20インチのホイールはプレミアムエディションともどもダークカラー調のRAYS製で、09年モデル発表とともに、ブラックエディション用の基本装着タイヤが、それまでのBSポテンザRE070 からダンロップSPスポーツ600 DSST(どちらもランフラット)に変更された。これまでの経験からすると、公道でカッ飛ばすにはBSが、サーキットを攻めるならダンロップが向いていた気がするが、はたして………。
実際にステアリングを握ってみた感じを簡単に総括すると、全体に身軽になった。普通この程度のマイナーチェンジでは、ほとんど気のせい程度の差しかないものだが、それよりわかりやすいということ自体、かなりレーシングカー的な資質(わずかな調整で違いが出る)の持ち主ということだろう。その裏には、コンマ1 mmの誤差までこだわって組み立てたボディの剛性など、微塵もいい加減さを許さない品質管理が生きているに違いない。
普通にワインディングロードを走ってわかるのは、これまでよりドタッとした重さが減っていること。ステアリング操作に対する反応が心なしかキリッとして、少し軽くコンパクトなスポーツカーを駆っているような気になる。
ただし、乗り心地が良くなったかどうかは、はっきり言って確信が持てない。と言うより、これは個人差もあるだろうが、多くのリポートに書かれていたほどには、私は硬すぎるなどと感じていなかったから、この09年モデルも、超高性能車としては妥当な範囲にあるとしか評することができない。
フレンドリーな一面
ダンパーのセッティングは、ダッシュの中央下にあるスイッチでコンフォート/ノーマル/Rの3段階に切り替えられ、あれこれ試した結果では、当たり前だがノーマルが最良。Rはやはりサーキットでの走行会などのためで、ちょっと舗装面が荒れているだけでもガシガシ来る。それ自体は問題というほどでもないが、ここまで硬いと、よほどハイペースで攻めないかぎりクルマ全体をしっかり押さえつけにくく、どうも跳ねがちになって接地性も落ちる。
逆にコンフォート・モードは、たしかに少しソフトにはなるものの、妙にヒョコヒョコして不快だから、市街地などをゆっくり流す場合のほかは、GT-Rに乗るほどのドライバーなら選ばないだろう。
480psが5ps増えたという差は、もちろん公道でわかるわけがない。もともと480psでさえフルに発揮するチャンスなどないからだ。それどころか、このエンジンは驚くほど粘るので、普通にD レンジに入れたままだと、各ギアで2500rpm も回らないうちに自動的なシフトアップが行われ、気付くと60km/h以下でもトップ(6速)に入っていたりする(変速マップをR モードにしても)。だから、恐ろしいルックスにしては燃費も悪くなく、計器盤の中のスケールで読むと、合法的に高速道路を流す状況では10km/リッターを超えることも多かった。
そこで結論。いつも爆裂的な速さだけが伝えられ、近づき難いGT-Rだが、パワーを上回る駆動系やサスペンションのため、誰でも楽しんで付き合えるグランツーリズモに仕上がっている。剛直な瞬間芸だけにこだわらず、どこまでも走り続ける超速の相棒として、真剣に検討する値打ちはある(861.0万円より、ですが)。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。 -
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起
2025.9.15デイリーコラムスズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。 -
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】
2025.9.15試乗記フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(後編)
2025.9.14ミスター・スバル 辰己英治の目利き万能ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をベースに、4WDと高出力ターボエンジンで走りを徹底的に磨いた「ゴルフR」。そんな夢のようなクルマに欠けているものとは何か? ミスター・スバルこと辰己英治が感じた「期待とのズレ」とは? -
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.9.13試乗記「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。