オペル・ベクトラワゴン(5AT)【海外試乗記】
後からついてくる満足感 2003.10.29 試乗記 オペル・ベクトラワゴン(5AT) オペルのDセグメントを担うべく、意欲的に開発された「ベクトラ」シリーズにワゴンが加わった。積載能力の高いラゲッジスペースなど、オペルワゴンの伝統を踏襲しつつ、「史上最高のクオリティ」でつくられた新型に、自動車ジャーナリストの笹目二朗がドイツで乗った。オペル・ワゴンの伝統
現行オペル「ベクトラシリーズ」は、「史上最高のクオリティで製造されている」と、オペルは主張する。2001年にハイテク施設として刷新されたリュッセルスハイムの新工場でつくられるオペル車は、ここ3年の集計で保証適用請求が49%減少したと、具体的な数字を伝えている。セールスも好調のようだ。ハッチバック「GTS」、リアの居住性を拡大した「シグナム」に続いて、2003年のフランクフルトモーターショーでワゴンを発表。予定されていたベクトラシリーズが完成した。
オペルの本拠地周辺で行われた、ベクトラワゴンのプレス向け試乗会の印象を記す。
新型「ベクトラワゴン」は、オペルの50年に及ぶワゴンづくりの歴史を踏まえた、と謳われる。具体的には、エレガントなスタイリング、最大級の積載能力、豊富なラインナップ、最先端の安全装備などだ。
ボディサイズは、セダンと較べて全長が210mm長い4820mm、ホイールベースは130mm長い2830mm。室内容積は「オメガ・ワゴン」をしのぐというから、積載能力は高いといえる。ラゲッジスペースは、5名乗車のままで530リッター、リアシートを畳むと1070リッターに拡大。ルーフの高さまで積むと、何と1850リッターにもなる。加えて、多彩なシートアレンジにより、2mの長尺物まで積み込むことが可能だ。オペルワゴンは、何といっても積載能力の大きさが伝統的な魅力。新型においてもそれは踏襲された。
高剛性&軽量ボディ
搭載されるエンジンは、ガソリンが1.8リッター(122ps)、2リッターターボ(175ps)、2.2リッター直噴(155ps)と、3.2リッターV6(211ps)の4種類。ディーゼルが、2リッターDTI(100ps)、2.2リッターDTI(125ps)、3リッターV6CDTI(177ps)の3種類。
豊富なラインナップだが、日本へ導入されるのは3.2リッターV6のみ。トランスミッションは、5段ATが組み合わされるという。ちなみに、現在欧州で販売される乗用車の43%は、ディーゼルエンジンなのだが……。
ボディは、コンピューターシュミレーションに基づき、衝突安全性を追求して設計。実車テストによる膨大なテストデータと絡めて、強固にして軽量なボディをつくりだした。
サスペンションアームはじめシャシーコンポーネント、ボンネットフード、バンパークロスメンバーは、アルミニウムを採用。ステアリングクロスメンバーなどには、マグネシウムほかの軽金属も多用される。Bピラーはサイドクラッシュに備え、通常の鋼材に比べて約6倍の強度を持つ、鍛造ボロン合金が用いられた。
その結果、3.2リッターV6仕様でも、車重1633kgの軽量化を実現したのである。これは、2リッター4気筒ターボを積むサーブ「9-5エステート」(日本仕様は1660kg)より軽い。後輪の最大荷重は1100kgまで許容される。
硬めだがフラット
試乗は、リュッセルスハイムの市街地近郊やアウトバーンで行われた。さすがオペルのお膝元。走るクルマをざっと見渡しても、6割くらいはオペル車が圧倒する。新しいシグナムも散見された。
だから、新型ベクトラワゴンで走っていても、目立たないかと思ったらさにあらず。けっこう振り返る人はいるし、停まれば周囲からの視線を感じる。ワゴンのグリーンハウスとルーフの長さは、相当に目立つようだ。もちろん、クルマとオペルに関心を持つ人が多い、ということもあろう。
車中で感じたのは、ホイールベースの長さだ。前輪でトンと受けたハーシュネスが、後輪で感じるまでに間がある。前後輪に距離があるためボディ全体の動きが少なく、乗り心地に貢献しているといえよう。不快なピッチングなど無に等しい。
一方、タウンスピードでは、ドイツ流に硬いサスペンション設定により、フランス車のように完全フラットな乗り心地とはいえない。とはいえ、ボディやサスペンションの剛性が高くハーシュをガシッと受け止め、多少荒れた舗装路でも不快な感覚がないことを、明記しておく。しっとり固いシートクッションは、無闇に身体を上下させず、ロングツーリングの疲労も少ないと思われた。
アウトバーン向け
硬めの足は、高速を安心して飛ばすためにある。ドイツを縦横に走る、アウトバーン向けのセッティングだ。
アウトバーンは、道路そのものの基礎的な剛性が高く、表面のコンクリート舗装はザラザラ。のみならず、微小の凸凹が存在するため、路面からの入力は小ストロークで大きい。よって、ダンパーが働くピストンスピード域は速くなる。硬めの足まわりは、それに対処する設定である。
アウトバーンで速度を上げると、硬いと思われた乗り心地は気にならなくなり、ステアリングフィールの頼もしさや、エンジンレスポンスの方が印象に残る。ベクトラワゴンはそのどちらも気持ちよく、ハイペースのまま、安心して行く先表示の標識に従うことができた。
内装は精緻に仕上げられるが、どちらかといえば“趣味性”より、使い勝手を優先した事務的なつくりだ。しかし、クルマに無関心のまま移動していても、降りた時に「あぁ、いい車だったナァ」と、満足感が後からついてくるクルマだった。
(文=笹目二朗/写真=日本ゼネラルモーターズ/2003年10月)

笹目 二朗
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。




