第219回:これがSKYACTIVの未来だ!
マツダが描く次世代環境技術に触れる
2014.01.08
エディターから一言
マツダの好調を支えるスカイアクティブ
新型「アクセラ」の受注が約1カ月で1万6000台に達するなど、相変わらずの好調ぶりを見せるマツダ。それを支えているのが「SKYACTIV(スカイアクティブ)」と総称される一連の技術と、「魂動(こどう)-Soul of Motion」と呼ばれるデザインテーマであることは皆さんご存じの通りだ。
特にスカイアクティブ技術については、燃費と動力性能を両立するものとして、かつてのロータリーエンジンに代わるマツダの代名詞になりつつある。
ここでちょっとスカイアクティブの技術戦略をおさらいすると、マツダはまず、エンジンの高効率化やボディーの軽量化といった「ベース技術」を最優先で磨き、その上で順次電気デバイスを導入するという方針を採っている。この戦略は「ビルディングブロック戦略」と呼ばれており、「2008年比で、2015年までに世界中で販売されるマツダ車の平均燃費を30%向上させる」という目標と、それまでに減速エネルギー回生システムやガソリンハイブリッド、プラグインハイブリッドなどの技術を段階的に投入することが表明されている。
それを踏まえて昨今のマツダを振り返ってみると、いわゆるベース技術に関しては「CX-5」でひと段落。減速エネルギー回生システムは「i-ELOOP」として「アテンザ」で実用化。ガソリンハイブリッドについても、トヨタの「THS II」と自前の直噴ガソリンエンジンを組み合わせた「アクセラハイブリッド」の販売を開始している。ビルディングブロック戦略は、すでにかなりの段階まで実現しているのだ。
そうなると気になるのが、スカイアクティブのこれから先の話だ。2013年末に開かれた技術説明会で出てきたのは、「レンジエクステンダー」と「HCCI」という言葉だった。
意外な形でロータリーエンジンが復活
ご存じの通り、レンジエクステンダーとは電気自動車(EV)の走行可能距離を延ばすシステム、要するに発電機だ。EVにとって短い走行可能距離は大きな弱点のひとつであり、2013年7月に世界初公開された「BMW i3」にも、650ccの2気筒ガソリンエンジンを使用したレンジエクステンダーがオプション設定されている。
マツダが開発したシステムの特徴は「マツダREレンジエクステンダー」という名前にも表れている通り、発電機にロータリーエンジンを採用している点だ。エンジンは排気量330cc、出力29.5ps(22kW)/4500rpmのシングルローター式で、システムのかさと鉛直方向の振動を抑えるために、水平に寝かせて搭載している。搭載位置はラゲッジルームの下。フレームによって定格出力20kWのジェネレーターや9リッターのガソリンタンク、インバーターなどとひとまとめにされている。システム全体の重量は、ガソリンを満タンにした状態でおよそ100kgとのことだ。
今のところ、このレンジエクステンダーを搭載した「デミオEV」は、テスト用の試作車が1台あるだけとのことだが、今回マツダは太っ腹にも、そのクルマに施設内で試乗させてくれた。
「ベース車に簡単に装着できること」「トランクスペースを犠牲にしていないこと」が自慢だというので、早速テールゲートを開けて荷室を拝見。すると、説明に反して左の片隅にはコンピューターが鎮座している。インパネのど真ん中にある緊急停止用ボタン(マツダの試作車には必ず装備されているのだとか)や、レンジエクステンダーを隠すためとおぼしきリアスカートともども、いたるところに試作車ならではの「手作り感」が感じられる。
一方で、運転した感覚については通常のデミオEVとほぼ一緒。ベース車よりややゆったりした出足に、100kg増えた車重を感じるくらいだ。レンジエクステンダーの作動音に関しても、「耳をすませば、ポンプみたいな音が確かに聞こえますね」という程度。低速での加減速を繰り返して、レンジエクステンダーが始動する瞬間も体感してみたが、普段アシにしているハイブリッド車のエンジン始動の方が、よっぽど気になるレベルだった。
エコでクリーンな夢の内燃機関
今回の説明会で、もうひとつの目玉となっていたのが「HCCI」だ。
HCCIとは「Homogeneous Charge Compression Ignition(予混合圧縮着火)」の略。ガソリンと空気を十分に混合することで、スパークプラグなどを用いずに圧縮自己着火させる燃焼方式のことで、マツダのほかにも日産やダイムラーなど、世界各国のメーカーが開発に取り組んでいる。燃焼温度が低いために有害な窒素酸化物やススがほとんど発生せず、また高い圧縮比と超希薄燃焼、素早い燃焼、ポンプ損失の低減などにより、優れた熱効率を実現することができるという。
もちろん問題も少なくない。
まずは、HCCI燃焼が発生する条件の厳しさだ。エンジン回転数が高くなると燃料と空気の混合が間に合わずに失火、低回転域では温度が低くなって失火、さらに高負荷の状態では異常燃焼が発生、低負荷では燃焼効率が悪化……と、とにかく燃焼の制御が難しいのだ。現段階ではHCCI燃焼が難しい領域ではスパーク点火による燃焼(以下、SI燃焼)を利用しつつ、いかにHCCI燃焼による運転領域を拡大できるかが実用化のカギとなっている。
また、使用燃料の違い(燃料性状)がもたらす燃焼への影響や、高温、高圧による冷却損失の大きさも大きな課題。HCCI燃焼からSI燃焼、SI燃焼からHCCI燃焼へのスムーズな移行も実現しなければならない。マツダはこうした課題について、燃料噴射制御や動弁系の改良、EGRによる排気の最適化(排気の再流入量を60%以上にすると、燃料性状による燃焼への影響が抑えられるという)などによって、順次解決していくとしている。
なお、配布された資料の数値をまとめてみると、マツダが想定するHCCI燃焼を利用したエンジンの圧縮比は18:1で、理想空燃比(14.7:1)より48%も空気の量が多い超希少燃焼が可能。中間負荷領域までのHCCI燃焼を実現することで、第1世代のスカイアクティブ・ガソリンエンジンから約30%の燃費改善ができるとしている。
今のところ、マツダはこのエンジンの実用化について、具体的なスケジュールを明らかにしていない。ただ、同社が2009年の東京モーターショーで「SKYコンセプト」を発表してから、1年8カ月後に「デミオ13-SKYACTIV」が、2年4カ月後に「CX-5」が登場している。となると今回も……。
ちなみに、マツダの研究開発のゴールは「EV並みに環境負荷の少ない内燃機関を作ること」とのこと。これからのマツダの研究に、ぜひ期待したい。
(webCG 堀田)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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