第534回:BMWデザイン・サロンに参加して発見
デザインに込められた“らしさ”と“新しさ”
2018.11.14
エディターから一言
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BMWジャパンは2018年11月5日、東京・青海にあるBMW GROUP Tokyo Bayで、「BMWデザイン・サロン」と題したトークイベントを開催した。登壇したのはBMWデザイン部門エクステリア・クリエイティブ・ディレクターの永島譲二氏で、同氏はBMW本社で手腕を振るう唯一の日本人デザインディレクターでもある。
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BMWのアイコン「キドニーグリル」の変化
本題に入る前に、永島氏の経歴をざっとご紹介したい。永島氏は1955年11月に東京で生まれ、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、1979年に米国のミシガン州ウェイン州立大学大学院に渡りデザイン修士課程を修了した。はじめからドイツ在住でBMWとの縁があったわけではない。カーデザイナーとしてのキャリアは、1980年に独オペルでスタートした。その後1986年に仏ルノーに移籍し、1988年からBMWとなる。
過去に手がけた主なモデルは、1996年の「Z3」(E36/7)、1996年の4代目「5シリーズ」(E39)、2005年の5代目「3シリーズ」(E90)などの市販車と、数々のコンセプトカーである。
今回は、「Z4」「3シリーズ」(G20)、そして「8シリーズ」というBMWの最新モデルにおけるデザインの狙いやそこに隠された工夫などを、永島氏が直接紹介するという趣向だ。実際に永島氏はペンで描きながら、各モデルの特徴を語った。
最初に取り上げられたのはZ4。BMWのアイコンともいえる「キドニーグリル」は、ついつい不変だと思いがちだが、その形状は時代と共に変化してきている。従来の四角形に近かったキドニーグリルは、現行モデルの7代目5シリーズくらいから左右外側に尖(とが)った部分ができ、グリル自体もヘッドライトに食い込んでいる。形も五角形に近い形状に進化している。
Z4で採用されているこの五角形の左右にある尖った部分(便宜上分かりやすく頂点と呼ぶことにする)が、よく見るとスポーツカーといえるZ4と8シリーズでは、3シリーズなどに比べいっそう地面に近い位置にある。これは、フロントマスクにおいて、ワイド&ローをより強調する狙いがあるのだという。いっぽうヘッドライトは、そのグリルの頂点よりも上に配置されるデザインになっている。グリルを低く、逆にヘッドライトを高く配置することで、車両の低重心化を印象付け、スポーティーなフォルムに仕立てるのだという。
後輪駆動を強調するためのデザイン
そのZ4においては、サイドビューも従来モデルとはデザインコンセプトが異なっている。従来モデルのサイドラインは、フロントフェンダー上部を経由し、弧を描きドア後端で下がるデザインだった。しかし反対に新型では、リアフェンダーに向かって上がるラインに変わっている。BMWの社内では、このラインを「ボーンライン」と呼んでいるという。これを永島氏は「BMWスポーツカーの象徴でもある、後輪駆動を強調するために採用したデザイン要素」だと説明した。
Z4のボディーサイド形状は、写真で見る以上に複雑だ。ボーンラインはフロントタイヤの上部後方から始まり、リアのテールライト上端までつながっているが、その下にある面は大きくうねった複雑な形状をしている。前輪直後のフェンダーで、ボディーの内側に一段沈み(ここがエアアウトレット風のデザインになっている)、後方に行くにしたがって、面がねじれながら広がっていくのだ。言葉にするとまどろっこしいが、リアホイールアーチ上の面がより立体的に強調されるというデザインである。
8シリーズではボディー幅がZ4よりある分、同じようなフロントフェンダー後方の沈み込み~フロントフェンダー/ドア/リアフェンダーのうねり~リアフェンダー上部の峰~の造形がもっと分かりやすく表現されていると言ってもいいだろう。さらに、グリーンハウス部分が後方に行くにしたがって絞られているのも、デザイン上の特徴である。キャビン幅に対してショルダー部分が張り出した形状となっており、リアフェンダー(=後輪駆動)の強調につながっているといえそうだ。
そして、2018年10月のパリモーターショーで公開された新型3シリーズのデザインでは、サイズの拡大に対して「ボディーをいかにコンパクトに見せるのかがデザイン上のポイントだった」と永島氏は語った。歴代3シリーズで用いられていた──BMW社内でヒダを意味する「SICKE(ズィッケ)」と呼ばれている──前後のドアハンドルを通ってリアまで続いていたサイドのキャラクターラインは、新型3シリーズにおいてはドアハンドルの上側を通るようになった。
マニアなら誰かに話したくなるエピソード
そのズィッケを上部へ移動したのと同時に、Z4ではリアフェンダーを強調するために用いられているボーンラインを新型3シリーズではドア中央付近に入れた。これは前輪直後を起点に、リアフェンダーへと水平に続いている。その2つのラインが作り出す陰影が、サイドビューを天地方向に薄く見せる効果をもたらすのだという。こうしてサイドを薄く見せたいのは、スポーティーさを印象付けるのと同時に、将来の“電化”にも大きな関係がある。というのも、電化されると(バッテリーの搭載位置との兼ね合いで)車両の全高がどうしても上がるため、サイドをより薄く見せるテクニックが今後はエクステリアデザインにおける重要な課題になる……というのだ。
新型3シリーズにおいて、一般に「ホフマイスター・キンク」として知られるCピラー付け根にある跳ね上げられたラインは、Cピラーにガーニッシュを追加し、後方に延長。サイドウィンドウをより大きく見せる。そして鋭く跳ね上げられた角度は、ピラー自体をさらに細く見せる効果を引き出している。ちなみにこのホフマイスター・キンク、社内では通称「ホフマイスター・エッケ」(ECKE=コーナーの意)と呼ばれているという。
ほかにも、新型3シリーズの2つのライトが横に連続してつながる意匠はBMWの伝統であり、ヘッドライトカバーの中央部にあるへこみは1998年に登場した4代目3シリーズ(E46)へのオマージュであるとか、実は新型8シリーズよりも新型3シリーズのほうがCd値は低い(新型8シリーズ=0.33、新型3シリーズ=0.24)、最近のキドニーグリルの左右がくっついているのは、実はこのグリル間にセンサーを埋め込むため、BMWの全幅は、日本の車庫の寸法を意識している……などという、マニアなら思わず誰かに話したくなるような解説も飛び出した。
新型3シリーズは、BMWの屋台骨を支えるモデルだけに、「モデルチェンジは常に失敗のできないチャレンジ」であり、反対に「SUVは寸法的自由度があり、デザイン面でも挑戦できる」と、永島氏は言う。こうしたデザイナーの裏話を知れば、少し違ったクルマの見方ができるような気がする。もちろん、クルマが“電化”されようが“自動運転”になろうが、所有する身としては、やはりカッコよさは外せない要素のひとつであることは確かなのだが。
(文=櫻井健一/写真=BMW/編集=櫻井健一)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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