BMW S1000RR Mパッケージ(MR/6MT)
攻めてよし 流してよし 2019.09.19 試乗記 BMWのスーパースポーツバイク「S1000RR」がフルモデルチェンジ。“クラス最強”を目指してさらなるパワーアップと軽量化を果たした最新モデルの走りとは? “M”の名を持つスペシャルバージョンで確かめた。パワフルなだけじゃない
2009年に、BMWがスーパースポーツS1000RRを投入してくると聞いた時は驚いたものだ。それまでのBMWはフラットツイン(水平対向2気筒)のツアラーが主流。4気筒エンジン搭載の「Kシリーズ」はあったが、これもツーリングスポーツ的な位置づけだった。どんなに高性能を追求したとしても、主軸はサーキットではなくストリートに置くという姿勢を貫いていたのだ。
そんなメーカーが、満を持して投入してきたスーパースポーツは、インライン4のエンジンを搭載し、足まわりにはテレスコピックのフロントフォークとスイングアーム。アルミツインスパーフレームでチェーンドライブ。それまでBMWが使い続けてきたシャフトドライブやテレレバー、パラレバーといったメカニズムを捨て、遮二無二サーキットでの速さを追求。さまざまな電子装備を搭載して国産スーパースポーツを上回るパフォーマンスを発揮させ、話題になったのである。
その後、S1000RRは、改良を加えられながら進化を続け、2019年にフルモデルチェンジ。新設計のエンジンには逆転クランクが組み込まれ、バルブタイミングとリフト量可変式のシフトカムを装備、最高出力207PSを発生。車体も11kg軽量化されて200kg(「Mパッケージ」は196.5kg)になった。足まわりには電子制御のセミアクティブサス(オプション)を採用している。ここで紹介するのは、電子制御サスなしのMパッケージである。
今回の試乗は比較的タイトなコースの多いサーキットとなった。このエンジンは1万rpmを超えてから本領を発揮するため、ある程度のストレートがないと引っ張ってシフトアップしていくことは難しかったが、それでも高回転での盛り上がりと1万2000rpmからの伸びの素晴らしさは体感することができた。ストックの状態ではBMWが最速という話をよく聞くが、確かにそれが納得できるパワーフィーリングだ。
タイトなコースを走って感じたのは低中速の扱いやすさ。標準のROADモードで走ると下から十分なトルクがあり、しかもライドバイワイヤのおかげで、スロットルの開け始めでのパワーの出方が滑らか。スロットルオフの状態から一気に全開にしても“ドンつき”などなく、スムーズに加速していく。
エンジンは高回転型で、低中速からドカンと出ていく感じではないけれど、コーナーの立ち上がりでスロットルを開けると、バイクが起きていくのに連れてパワーが盛り上がっていく。ライダーが意識しなくてもバンク角とパワーの出方がシンクロしてくれるようなパワー特性だ。
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ストリートでも乗りやすい
スーパースポーツは、サーキットでの速さに目的を絞ったマシンである。ストリートや低速のコーナーが連続するコースは得意ではない。しかしS1000RRはここでも乗りやすさが光った。
様子を見るため、最初はストリートを流してみたが、オートバイにどっかり乗っかったままでもハンドリングは基本的に素直。体重移動で積極的にコントロールしてやる設定のスーパースポーツは、ライダーがどっかり“載って”しまうと乗りにくくなってしまったりすることもあるけれども、S1000RRの場合はそんなこともない 。
サーキットでは、フロントのしっかりした感じが印象的だった。速度域が低いサーキットでは、ブレーキングの時間が短いため、減速でしっかりと荷重をかけてバンクさせていくという時間も十分にとることができず、どうしてもクイックなモーションでバンクさせる(車体を寝かせる)ことになる。
それはスーパースポーツ本来の走らせ方とはちょっと違うところがあるのだけれど、S1000RRの場合はそんな走り方をしても乗りやすい。サスペンションの出来がよく、タイヤに荷重が載ってくれているので不安感がない。しっかりタイヤを路面に押し付けてくれている感じが伝わってくる。
2009年、デビュー当時に乗った初代S1000RRで印象的だったのは乗りやすさだった。サーキットと違って、高い荷重をかけられない状態では、大排気量のスーパースポーツは持て余し気味になってしまうことが多いのだが、まるでミドルクラスのバイクに乗っているように思い切ったライディングが可能だった。
新型のS1000RRは、サーキットでのパフォーマンスを高める方向で大胆な変更が行われた。しかし先代からの美点であるストリートでの扱いやすさはまったく失っていない。それがBMWの考え方なのだろう。
(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=関 顕也/取材協力=富士スピードウェイ内カートコース)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2070×1160×740mm
ホイールベース:1440mm
シート高:824mm
重量:196.5kg(燃料満タン・走行可能状態での空車重量、国土交通省届出値)
エンジン:999cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:207PS(152kW)/1万3500rpm
最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/1万1000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:15.6km/リッター(WMTCモード)
価格:267万7000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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