第201回:俺のナロー
2021.03.01 カーマニア人間国宝への道足グルマの買い替えを決意
カーマニアにとって、クルマを買うことは人生最大のイベントだ。小学生にとっての遠足や運動会以上の重大事である。
私は昨年、「ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリー」を半分購入し、重大事中の最大事を完了した。カウンタックと「フェラーリ328」という無敵のラインナップ(私見です)の完成は、カーマニアの金字塔。あとは余生である。
また、カウンタックと328は、ICE(内燃機関)車として、ともにひとつの究極。それだけに、次に買う足グルマは、充電可能なBEVかPHEVにしよう! と心に決めた。加えて、間もなく還暦を迎えるわが身の衰えを思い、絶対にADAS付きにする! とも。
しかし、そうやって条件を狭めると、選択肢も狭まる。モテないくせに相手に対する要求ばかり厳しい、独身中年男状態に陥ってしまう。
私が次に買うべきは、「シトロエンDS3」の代わりとなる、コンパクトハッチバックだった。EVで言うと、「プジョーe-208」か「ホンダe」になる。
どちらもいいクルマだが、300万円も400万円も払うほどの価値は感じられない。なぜならリチウムイオンバッテリーは、近い将来、全固体バッテリーに駆逐されるからだ(推測)。今はまだEVの買い時ではない。
PHEVはと言うと、選択肢になりうるコンパクトハッチバックは存在しない。ハイブリッドまでハードルを落とすと、「ヤリス」「フィット」「ノート」が最有力だが、どれも私には食い足りない。初代「プリウス」と「アクア」を乗り継いだ私にすれば、革新的とまでは言い難いからだ。
![]() |
![]() |
![]() |
発作的に中古車を検索
自分がいま本当に欲しいクルマは何なのか、自分のココロに聞いてみた。
答えは、「ルノー・トゥインゴ」だった!
トゥインゴはEVじゃないしADASも付いてない。どっちでもないけど、私が一番欲しいのはトゥインゴ!
なぜって、見た目も内装もとってもカワイイし、RRの走りがメッチャ楽しいから! トゥインゴはICE車のホンダeだ! ホンダe並みに小回り利くし(最小回転半径はともに4.3m)、燃費だってメチャメチャいいヨ! ロングドライブならハイブリッドにも負けないぜ!
うおおおお、トゥインゴが欲しい! 猛烈に欲しい! 電動車までのつなぎとして。
それは、ほとんど発作だった。私はベッドからガバと跳ね起きて、トゥインゴの中古車を検索した。
えっ、トゥインゴって、結構相場が高いんだね……。最低100万円するのかぁ。
一番安い個体は、水色の0.9リッター直3ターボ「EDC」の修復歴アリで、ちょうど100万円くらい。新車価格が204万5000円のクルマが、5年落ちで半額以上価値が残っているとは、さすがマニアックカー。
トゥインゴにはノンターボの5段MTモデルもあるが、私は、それはスルーである。マニュアル車はカウンタックと328だけで十分。それよりトゥインゴにはターボのトルクが欲しい。NA(自然吸気エンジン)だとトルクがなさすぎてRRらしい挙動もナイ! いくら床までアクセルを踏んでも何も起きない! トゥインゴなら0.9リッターターボのEDC!
ついでに言うと、「GT」もいらない。足が硬くて限界も高く、これまた何も起きないから! 一番ドラマがあって一番楽しいのが、一番フツーなEDCモデルなのである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ついに愛車が4台とも後輪駆動に
水色の0.9リッターターボEDCなら、修復歴アリでもいいかなと思った次の瞬間、そのすぐ下の欄に、水色の「EDCキャンバストップ」で走行6万8000km/修復歴ナシ/本体価格115万円を発見した。115万円は安くはないが、関東で2番目に安いトゥインゴだし、DS3を下取りに出せば、60万円くらいで買えるかな?
しかもお店は、以前「シトロエンCX」を見に行った横浜市都筑区のMAMA。フランス車を知り尽くしたカーマニアの味方だ。これはイイ! 走行距離が多いのは許す!
そのような結論が出るまで、3分とかからなかった。私は翌朝、問い合わせメールを入れた。
すると、午後になってMAMAから電話がかかってきた。近日中に実車を見に行くと伝えると、担当者がこう言うではないか。
「もしよろしければ、これからおクルマをお持ちしましょうか?」
えええ~~~~~っ! 中古車でそんなことってあるの~~~~?
見せに来てもらったら、100%買うだろう。それは自分でもわかっていたが、つい「ホントですか!? わ~い!!」と答えてしまったのだった。
そして、その通りになった。だって、走行6万8000kmなのに、新車にしか見えないくらいピカピカだったし!! 前オーナーは間違いなくカーマニアだろう。
ついに私は、人生初のRR車を手に入れた。水色のトゥインゴは“俺のポルシェ”。いや、全幅1650mmなので、“俺のナロー”と呼ばせてください! これで自家用車が4台とも後輪駆動になった。FF大好きなんだけど、なぜか。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか?