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“技術の日本”に黄信号!? 「トヨタがZF+モービルアイのADAS採用」の報に嘆息したワケ

2021.05.24 デイリーコラム 鶴原 吉郎
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日産、ホンダに続いてトヨタまで

あああ、ついにトヨタまで……。日本時間2021年5月19日付の「トヨタがZFとモービルアイのADASシステムを採用」のニュースに触れて、筆者がまず抱いた感想だ。考えてみれば必然のことだったのだが、それでも一抹の寂しさが残る。なぜ必然か? なぜ寂しいのか? その理由を説明する前に、まずニュースの内容をおさらいしよう。

『webCG』の読者なら先刻ご承知と思うが、ドイツのZFは、米『Automotive News』誌のグローバルサプライヤーランキングで5位に位置する世界屈指の大手自動車部品メーカーである。そしてイスラエルのモービルアイは、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システム用の画像処理半導体で高い技術を誇り、2017年に米インテル傘下に入った半導体メーカーである。

発表によれば、ZFとモービルアイの両社は今後数年にわたり、トヨタ自動車の複数の車両プラットフォーム向けにADASの開発を行うという。このニュースリリースの表現は非常に分かりにくいのだが、要はモービルアイの画像処理半導体を組み込んだ車載カメラをZFが製造し、ZF製のミリ波レーダーと組み合わせてトヨタに供給することで合意したという内容だ。

これまでもZFは、モービルアイの画像処理半導体を組み込んだ車載カメラを製造し、世界の自動車メーカーに供給してきた。国内では日産自動車が、2016年に実用化したADAS「プロパイロット1.0」以来、一貫してモービルアイの画像処理半導体を組み込んだZF製の車載カメラを採用している。2019年に実用化された「プロパイロット2.0」は、モービルアイの最新の画像処理半導体「EyeQ4」を採用したZF製3眼カメラを搭載し、国内の完成車メーカーとしては初めて“手放し運転”を実現した。

日産に続き、ホンダは2020年に発売した現行型「フィット」からADAS「Honda SENSING」にEyeQ4を採用し始めた。こちらは仏ヴァレオ製の単眼カメラに組み込まれている。世界で初めて「自動運転レベル3」を実現した「Honda SENSING Elite」にもモービルアイの半導体は採用されており、今後もホンダ車での採用が拡大される予定だ。つまり、日本の完成車メーカートップ3のうち、2社までがこれまでモービルアイの画像処理半導体を使っていた。今回のトヨタの採用で、ついにトップ3のすべてがモービルアイの半導体を使用することになった。

独ZFは世界第5位のグローバルな自動車部品メーカーであり、モービルアイの技術を用いた車載カメラを、多数の自動車メーカーに納入している。
独ZFは世界第5位のグローバルな自動車部品メーカーであり、モービルアイの技術を用いた車載カメラを、多数の自動車メーカーに納入している。拡大
「プロパイロット2.0」を搭載した「日産スカイライン」のマイナーチェンジモデル。2019年7月に発表された。
「プロパイロット2.0」を搭載した「日産スカイライン」のマイナーチェンジモデル。2019年7月に発表された。拡大
日産自動車はモービルアイの「EyeQ4」を組み込んだZFの3眼カメラを「プロパイロット2.0」に採用している。
日産自動車はモービルアイの「EyeQ4」を組み込んだZFの3眼カメラを「プロパイロット2.0」に採用している。拡大
2020年2月に発売された、現行型「ホンダ・フィット」。
2020年2月に発売された、現行型「ホンダ・フィット」。拡大
ホンダは現行型「フィット」からADASにモービルアイの「EyeQ4」を採用し始めた。
ホンダは現行型「フィット」からADASにモービルアイの「EyeQ4」を採用し始めた。拡大

劣勢に立たされる日本のサプライヤー

冒頭で、今回のトヨタの採用は「考えてみれば必然だった」と書いたのは、次のような事情があるからだ。トヨタが現在多くの車種に採用しているADASは第2世代の「Toyota Safety Sense(TSS)」である。現在のTSSは、画像処理に「Visconti 4」という東芝の半導体子会社である東芝デバイス&ストレージ(TDSC)製の半導体を使っており、このVisconti 4を組み込んだデンソー製のカメラがトヨタ車には搭載されている。これまでのTSSでは、この車載カメラに、同じくデンソー製のミリ波レーダーを組み合わせていた。

ところが事態が暗転する。2015年に発覚した巨額の不正会計や、2017年に発生した原子力事業での巨額損失で経営危機に陥った東芝は、リストラ策に追われ、その一環として2020年9月にTDSCのIC事業の構造改革を行うことを発表した。この構造改革で、Viscontiの新規開発の打ち切りが決定してしまったのだ。Viscontiは、モービルアイに対抗しうる唯一の日本製画像処理半導体だったから筆者も期待していたのだが、技術力や製品の出来とは関係のない都合でこのような結果になってしまったのは、冒頭に書いたように「寂しい」としか言いようがない。

東芝の画像処理半導体事業からの撤退で、トヨタは次世代のTSSを担うViscontiに代わる技術を早急に探す必要に迫られた。EyeQ4は、プロパイロット2.0で手放し運転を可能にしていることから分かるように、その能力は十分にある。逆に、現在の自動車業界を見渡すと、モービルアイ以外の選択肢はなかなか見当たらない。これが冒頭でモービルアイの採用が「必然」と書いた理由だ。EyeQ4の能力から考えれば、次世代のTSSでは手放し運転可能なADASが小型車クラスのクルマにも搭載される可能性がある。

今回のニュースで日本のADAS技術や自動運転技術の将来に対して過度に悲観的になってしまう必要もない。トヨタが2021年4月に「レクサスLS」や燃料電池車の新型「ミライ」に搭載した最新のADAS「Toyota/Lexus Teammate Advanced Drive」は自社開発技術であり、主要部品をデンソーから調達している。トヨタは、現行のTSS程度のADASは汎用(はんよう)技術であり、他社からの購入でも問題ないと判断したのかもしれない。今回の例をもって、日本企業の技術力が低下したと断じるのは早計だ。

ただ、モービルアイの例に限らず、スバルが「アイサイトX」向けのステレオカメラの調達先を日立オートモティブシステムズ(現日立Astemo)からスウェーデン・オートリブに切り替えるなど、ADASや自動運転の分野ではこのところ、日本勢の劣勢が目立つ。日本の部品メーカーの一層の奮起を願わずにはいられない。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=東芝、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、モービルアイ、ZF/編集=堀田剛資)

自動緊急ブレーキを自転車や夜間の歩行者にも対応させ、車線トレース機能が追加された第2世代の「Toyota Safety Sense」。2018年1月に「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」から導入された。
自動緊急ブレーキを自転車や夜間の歩行者にも対応させ、車線トレース機能が追加された第2世代の「Toyota Safety Sense」。2018年1月に「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」から導入された。拡大
トヨタ自動車が現行の「Toyota Safety Sense」に採用している東芝デバイス&ストレージの「Visconti 4」。
トヨタ自動車が現行の「Toyota Safety Sense」に採用している東芝デバイス&ストレージの「Visconti 4」。拡大
トヨタ自動車が採用を決めたモービルアイの「EyeQ4」。
トヨタ自動車が採用を決めたモービルアイの「EyeQ4」。拡大
トヨタの次世代ADASが搭載された「レクサスLS」(左)と「トヨタ・ミライ」(右)。2021年4月に発売された。
トヨタの次世代ADASが搭載された「レクサスLS」(左)と「トヨタ・ミライ」(右)。2021年4月に発売された。拡大
「アイサイトX」を搭載した現行型「スバル・レヴォーグ」。その車載カメラは、日立オートモティブシステムズ製からスウェーデンのオートリブ製に変更された。
「アイサイトX」を搭載した現行型「スバル・レヴォーグ」。その車載カメラは、日立オートモティブシステムズ製からスウェーデンのオートリブ製に変更された。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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