モーガン・プラスフォー(FR/8AT)
ちょうどいい塩梅 2022.04.29 試乗記 戦前からの歴史を誇る、モーガンのブリティッシュロードスター。その新世代の基幹を担うのが、2リッターターボエンジンを搭載する「プラスフォー」だ。職人の手作業によって製作されるスポーツカーが体現する、モダンとクラシックが融合した走りを報告する。100年を超える継承と進化
ロンドンから北西に約200km、バーミンガムからは南西に約30kmのところにあるウスターシャー州マルヴァーン。モーガンはこの創業の地で、約110年にわたってクルマをつくり続けている。
その源流は、2000年代に復刻され、このほど新型が「スーパー3」として発表された「スリーホイラー」だ。そのオリジナルモデルをベースに四輪化したモデル「4/4」が登場したのは1936年。その高性能バージョンとして、ワイドボディーの「プラス4」が設定されたのが1950年だ。いずれも、並ぶクルマが見当たらないほどの時を刻んできている。歴史こそがモーガンの最大の資産と言っても過言ではないだろう。
そのシャシーが全面変更を受けたのは2019年のこと。ジュネーブショーで発表された「プラスシックス」は、従来のスチールラダーに代わり、リベット&ボンディングで構成されたロータスのようなアルミシャシーを携えて登場した。「CXジェネレーション」と呼ばれるそのアーキテクチャーでは、サスペンション形式はスライディングピラー&リーフリジッドから4輪ダブルウイッシュボーンへ、搭載されるエンジンは「エアロ8」のV8以来となるBMWから調達した「B58」系3リッター直6ターボへと、文字どおり劇的ともいえる進化を遂げてクルマ好きを驚かせた。モーガンと聞けばまず想像されるだろうクラシックな姿と、まさにエアロ8をほうふつとさせる激速ぶり、そして直6の澄んだサウンドが共存していることが、なんとも不思議だったのを思い出す。
プラスフォーはいわばその4気筒版で、エンジンにはBMWの「B48」系2リッター直4ターボを搭載し、最高出力258PSを発生する。ちなみにこのパフォーマンスは、同系のエンジンを積む「BMW 3シリーズ」になぞらえれば「330i」に、「トヨタGRスープラ」になぞらえれば中間グレードの「SZ-R」に相当する。プラスシックスよりひとまわりナローな車体には、あり余るほどのパワーといえるだろう。
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端々に宿るモーガンらしさへのこだわり
刷新されたプラスフォーのユニークなポイントは、6段MTだけでなく8段ATが選べることだ。BMWも用いるZF製の「8HP」は、パドルによる変速も可能となっていが、電子式のシフトレバーと同様、BMWのハードウエアをまるっと用いたこのあたりのしつらえには、もう一声、魅(み)せる工夫が欲しかった。恐らくは主たる電子アーキテクチャーもBMWのそれを用いているのだろう。バイワイヤーで作動するスロットルのオルガンペダルなども、見覚えがある形状だ。
従来のローラー式アクセルや、床から生えるブレーキ/クラッチペダル、フライオフ式のサイドブレーキといった、古き佳(よ)き風情は失われてしまったが、継続のための変容にしつこくケチをつけるのも大人げない。なんとかの大足なオッさん的には、ペダル操作に気を使う必要がなくなったことに感謝しなければならない。加えてありがたいのが電動パワーステアリングの採用だが、そのアシスト感は操舵情報を薄めない最小限にとどめられており、またブレーキも過度にサーボアシストに頼らず、しっかり踏み込ませてストロークで利かせるセッティングに仕立てるなど、インターフェイスにはモーガンらしさへのこだわりも端々に見て取れた。
他方で、中身がいくら変われど変わらないのは、新しいシャシーに載せられるボディーの構造だ。かつては強度や耐久性を理由に採用されていたという、馬車の骨格にも多用されたトネリコ材の枠組みにアルミ製のアウターパネルを貼り付ける製法。この工芸領域の工程は、新型でも完全に継承された。一方で、アーキテクチャーの97%が改められたという触れ込みどおり、外身からは変わっていないように見えて、その設計はすべてにおいて細かく手が加えられており、それは乗降時やドラポジ合わせの際に、ささいだけれど確実な余裕として感じ取れる。
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受け継がれるブリティッシュスポーツの走り
そうやって実車に触れていると、感心するのは目に見えるもの、手に触れるものの質感が随分と上ったことだ。ついこの間までのモデルでは、雑巾でごしごし雨水を拭えるようなペラペラのホロ、テカテカのインテリア表皮に、いかにもなブリティッシュロードスターぶりが感じられた。が、最新のモーガンはジャーマントップ的な風合いのキャンバスのホロや、鼻腔(びこう)をつく香りとともにしっとりとした鞣(なめ)し感が味わえるシートなど、とにかく使われているもののクオリティーが段違いだ。
オプションで用意されている選択肢も多く、それらのマテリアルのセンスを見るにつけても、今日のモーガンのクリエイティビティーは随分と洗練されたようにうかがえる。そして同時に、客層を広げるうえでは、ライフスタイル的なアプローチも現在のモーガンにとって重要な課題であることを思い知る。
とあらば、オートマのモーガンなんておあつらえすぎるクルマに見えるわけだが、見た目から入る系のコスプレおじさんにはもったいないくらいに、プラスフォーのパフォーマンスは刺激的だ。
数字はあくまで指標にすぎないとはいえ、パワーウェイトレシオはほぼ4kg/PSとあらば、その手応えは推して知るべし。しかも車重1tちょっとのクルマのそれは、1.5tのクルマのそれとは質感が異なる。低めのギア比とトルク型のエンジンで、低回転域であっても踏み込んだ瞬間からタメもなくグイグイと応答する。その感覚は、いにしえからイギリスのスポーツカーが大事にしてきたものだ。プラスフォーに積まれるB48型は2リッターユニットとしては結構なハイチューンだが、8段ATのカバレッジと低回転寄りにしつけられたAT仕様専用のエンジンマネジメントで、快活さをうまく引き出している。
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“あのクルマ”からの乗り換えにも好適
飛躍的に現代化したシャシーによって、モーガンのロードホールディング性はがらりと変わった。踏み込めばその速さは往年のプラス8を思い出させるほどワイルドだが、同時にリアサスがグッと踏ん張って、その力を余さず路面に伝えようとしているのが感じられる。
ハンドリングも“手アンダー”が心配になる程度の歯応えはあえて残しているのだろうが、路面追従性そのものは素直で、多少のワダチも気にせず走れるし、路面がよければ舵を片手で保持することも苦にならない。ともあれ、山道を上手に走らせることが快感だったクルマから、ちょっと山道と戦ってみたくなるクルマへと、そのくらいの余裕がもたらされたことがありがたい。
モーガンの輸入代理店であるエスシーアイは、長らくケータハムのインポーターも務めてきた……というか、その親会社のVTホールディングスは、最近になってケータハムカーズそのものを子会社化している(参照)。その背景にあるのは、日本人のケータハムにまつわる並々ならぬ経験や造詣だろう。クルマ趣味の極北的位置づけとして、そのクルマを愛好してきた方々がこんなに多い国もそうはないと思う。
そういう好事家が、もしスパルタンなケータハムを持つことに肉体的な疲れを感じたなら、いくべきところはここにある。モーガン・プラスフォーの速さと緩さ、厳しさと優しさのちょうどいい塩梅は、そんなことを思い起こさせた。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
モーガン・プラスフォー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3830×1650×1250mm
ホイールベース:2520mm
車重:1009kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:258PS(190kW)/4400rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1000-4300rpm
タイヤ:(前)205/60R15 91V/(後)205/60R15 91V(エイヴォンZV7)
燃費:40.0mpg(約14.2km/リッター)
価格:1254万円/テスト車=1478万4000円
オプション装備:ボディーカラー<メタリックアイスブルー>(26万4000円)/インテリアテキスタイル:ソフトグレインレザー<ソフトダークブルー>(28万6000円)/15インチ ポリッシュドワイヤーホイール<5本>(53万9000円)/インテリアテキスタイル:ボックスウィーブカーペット<ボックスウィーヴ アンスラサイト>(13万2000円)/ヒーティッドシート(9万9000円)/刺しゅう入りヘッドレスト<Morgan Wingロゴ:クリーム>(5万5000円)/シートパイピング(11万円)/コントラストステッチング:クリーム&スクエア(4万4000円)/ダッシュボードベニアチョイス‐マットフィニッシュ<つや消し>:ナチュラルアッシュ(13万2000円)/センターコラムトップベニアチョイス<センターコンソール上部>:マットフィニッシュ<つや消し>(13万2000円)/エアコンディショニング(22万円)/スピーカーシステム<Bluetoothインプット、ボリュームコントロール>(6万6000円)/イージーアップモヘアフード:ブルー(14万3000円)/ユニオンジャックエナメルボンネットバッジ<カラー>(2万2000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1764km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(3)/山岳路(0)
テスト距離:129.4km
使用燃料:17.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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