DS 4リヴォリPureTech(FF/8AT)
フレンチプレミアムの矜持 2022.05.25 試乗記 DSオートモビルの新しいCセグメントモデル「DS 4」のなかから、純ガソリンエンジンを搭載した「リヴォリPureTech(ピュアテック)」に試乗。新世代DSの第4弾にして、ブランドの基幹を担うニューモデルは、プレミアムカーとして十分な説得力を持つ一台に仕上がっていた。世界で一番美しいクルマ
DS 4はこの2022年1月にパリで開催された「第37回国際自動車フェスティバル」において「Most Beautiful Car of The Year=世界でもっとも美しいクルマ」に選出されたそうである。彫刻のようなドアのプレスライン、鋭く複雑な陰影を見せるリアクオーターピラー、宝石のような前後ライト……と、なるほどDS 4のデザインにはスキがない。ディテールの手数は多いが、全体はスッキリしている。
全長×全幅×全高=4415×1830×1495mmというCセグメントとしては大柄なスリーサイズは、「EMP2」プラットフォームや2680mmのホイールベースを共有する新型「プジョー308」とほぼ同寸といっていい。クロスオーバースタイルということもあって、308より20mm背高だが、地上高も35mm大きい。つまり上屋は308より天地に薄い。DS 4の実車を眼前にすると、SUVというより、少しだけ宙に浮いたクーペを思わせるたたずまいだ。
ダッシュボードとドアトリムが一体となったインテリアデザインも「もっとも美しいクルマ」に選ばれた根拠のひとつだというが、そこにも独特の美意識が随所にちりばめられている。たとえば、ダッシュボード中央部からは従来型の空調吹き出し口を排し、かつその空調システムをわざわざ「DSエア」と名づけている。とはいえ、本当に吹き出し口がなくなったわけではなく、金属バーのようなエアコンパネルの下にうまく隠しているだけだが。
1枚のカラー液晶となるメーターパネルも、大面積化・多機能化競争となりつつある昨今のハヤリとは逆行するかのように小さい。実際、表示機能もあまり詰め込まれてはおらず、速度や道路標識など、運転中に重要な情報はヘッドアップディスプレイで……という設計思想が徹底している。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
大きなグローブボックスにファンは落涙する
DS 4のインテリアの機能的なハイライトは、シフトレバー前方にある「DSスマートタッチ」だ。これは5インチの液晶タッチパネルで、ダッシュボード中央の10インチタッチディスプレイを操作するデバイスである。膨大な数にのぼる機能のなかから、任意で6つの機能のショートカットを選ぶことで、自分がよく使う機能を手元で素早く呼び出し、操作できるようになる。
その使いかたは工夫次第。基本となるナビ画面の呼び出しやアイドルストップの解除など、個々人が日常的に使う機能のショートカットを置くこともできるし、音楽好きなら好きなラジオ局を6つならべることも可能だ。
また、最近の高級車ブランドでは常識の音声操作機能も搭載しており、DS 4では「OK、アイリス」というコマンドワードを話す(か、ステリングスイッチを押す)と起動する。
ただ、個人的に最大のトピックといえるのが、ひと足先に国内発売された新型308同様に、右ハンドルながらフルサイズのグローブボックスが備わることだ。旧プジョーシトロエングループの右ハンドル車はグローブボックスが通常の半分以下の容量しかないのが常識だったから、彼らのクルマを乗り継ぐオーナーにとっては大ニュースだろう。これは新型308に試乗したときにも触れたのだが、個人的に超絶な感動があった(笑)ので、今回は写真も撮影してもらった。
繰り返しになるが、このDS 4(や新型308)の土台となっているのはおなじみのEMP2プラットフォームである。しかし、実際は第3世代といえる最新進化版で、従来比で約7割の部品が見直されたという。熱間プレスによる高張力鋼板や複合樹脂素材、構造用接着剤などを採用することで、高剛性と軽量化を両立したほか、より多様なプロポーションやタイヤサイズにも対応できるようになった。エアコンユニットも小型化されており、その恩恵が前記のグローブボックスにも表れているというわけだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
パワーに不満はないものの
日本でも3種類のパワートレインが用意されるDS 4だが、今回の試乗車はもっとも手ごろな「ピュアテック」=1.2リッター直3ガソリン直噴ターボエンジンだった。
なんとなればDセグメントにも匹敵する立派な体格に、過給機つきとはいえ1.2リッターとは、ひと昔前なら「なにかの間違いか?」といいたくなるところだ。しかし、そもそも不似合いなほど小排気量のエンジンを積んで、高速アベレージをパワーではなくアシで稼ぐのが伝統的フランス車……などと、したり顔で語るような中高年オタクは、おそらく現在のDSの想定顧客ではないのだろう。
とはいえ、このピュアテックはいかにも現代のターボらしく、最大トルクは230N・mとひと昔前の2.2~2.4リッター自然吸気エンジンなみ。しっかり踏めば、必要最低限どころか、それなりに力強い。
ただ、3気筒特有のエンジンサウンドだけは音質、そして音量ともども、DS 4の超クールな内外装にはちょっと不似合いに思えたのは事実だ。DS 4は基本的にとても静かなクルマであることは、走行中のロードノイズが車内には印象的なほど聞こえてこないことで分かる。まだ試乗はできていないが、1.6リッター直4ベースのプラグインハイブリッド車はもちろん、1.5リッターの直4ディーゼル車でも、トータルでは今回の1.2リッターガソリン車より静かであろうことが予想できる。
もっとも、3気筒の純エンジン車ならではのフロント周辺の軽さは、試乗の一環で連れ出した箱根の山坂道で明らかなメリットとして感じ取ることができた。ターンインが少しばかりオーバースピード気味になっても、最終的なアンダーステアは最小限で済む。クルマの挙動は終始ゆったりしているのだが、なぜか持てあますところまではいかないのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
乗り心地は“プジョーとシトロエンの中間”
今回の試乗車は上級グレードの「リヴォリ」で、サスペンションには赤外線カメラと電子制御可変ダンパーを組み合わせた、DS自慢の「アクティブスキャンサスペンション」が標準装備となる。ただし、リアサスペンションは先達の「DS 7クロスバック」や「DS 9」とは異なり、シンプルなトーションビームである。トーションビームとアクティブスキャン~の組み合わせは、これが初体験だ。
その乗り心地の印象をあえて乱暴にいってしまうと、プジョーとシトロエンの中間の硬さ……といったところなのは、これまでのDSと共通する。よくも悪くもプジョーほどタイトな一体感はなく、凹凸のある路面ではシトロエンと同様に柔らかな上下動で衝撃を吸収するが、エアリーなシトロエンよりは、しっとりと落ち着いたフラット感がある。
フロントガラス越しに前方5~25mの路面の凹凸を監視し、減衰力を常時可変制御するアクティブスキャン~が作動するのは、ドライブモードを「コンフォート」にしたときのみ。荒れた路面ではシトロエン以上にフワッフワッに柔らかいのだが、そのときの上下動がシトロエンより1~2回少なく収束するのだ。
残念ながらDS 9は個人的に未体験だが、優しい路面タッチと上下動の少なさの両立レベルは、少なくともDS 7クロスバックよりは高度といっていい。路面によって少しゴトゴトと突き上げられる後席の乗り心地だけは、トーションビームのせいかもしれない。
ただし、アクティブスキャン~がダンパーを具体的にどう制御しているのかは、運転中に観察してもよく分かないのもこれまでどおりである。カメラを使う構造上、夜間や降雪、あるいは激しい雨天時などは作動しないと公式の注意書きにもあるくらいで、作動しなくても乗り味が大幅に変わってしまうわけではないのだろう。いずれにしても、制御の振り幅はそう大きくはないと思われる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
プレミアムカーとしての説得力が増した
旧グループPSAでは、ひとつの基本骨格でプジョー、シトロエン、DS(そして欧州ではオペルも)という複数ブランドの乗り味をどう差別化するかに腐心してきた。その回答のひとつが、DSではアクティブスキャンサスペンション、シトロエンでは「プログレッシブハイドローリッククッション」など、ブランドごとに使い分けられるダンパー技術であり、プジョーの超小径ステアリングホイールだったりするわけだ。
とはいえ、コンフォートモードでフル稼働したときのアクティブスキャン~の乗り心地や操縦性が客観的に絶品かというと、そうともいいきれない。全域で優しく柔らかではあるが、ときに大げさすぎる上下動はわざとらしくもあり、好き嫌いが分かれるところだろう。
そのかわり……といってはなんだが、DS 4ではカメラを作動させないノーマルモードやスポーツモードのデキのよさが印象的だ。スポーツモードのほうが少しだけ引き締まるようだが、目立つ変化はパワステの重さで、フットワークの印象は大きくは変わらない。どちらも直線路ではいかにも優しくて“らしい”肌ざわりでありながらも、無駄な上下動は最小で、サスペンションストロークには潤いがある。
DS 4の乗り味は「シトロエンのようでいて、シトロエンよりは高級」という、多くのマニアがDSという名前から想像するポイントに見事かつ絶妙に落とし込まれている。とくにノーマルモードやスポーツモードでその印象が強いのだから、それはアクティブスキャン~というより、新世代EMP2の基本フィジカル能力の高さによるところが大きいのだろう。また、コンフォートモードで山坂道を走っていると、まれに「こんなに柔らかくなるの?」と驚くくらいに大きくバウンドする瞬間もあるのだが、大崩れはせずにコーナーをクリアしてくれるのも新世代EMP2の効果っぽい。
前記のスマートタッチがセンターコンソールに屹立しているせいで、その前方のスマホ置き場やドリンクホルダーが運転席から見えないなど、DS 4にはデザインが先走りしている点も見受けられるものの、その造形や質感表現には見事なものがある。さらに、走りでもこれだけ独自の快適性が打ち出せるようになれば、プジョーやシトロエンより高価格な設定にも、いよいよ説得力が増すというものだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
DS 4リヴォリPureTech
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4415×1830×1495mm
ホイールベース:2680mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/55R19 97V XL/(後)205/55R19 97V XL(ミシュランeプライマシー)
燃費:17.7km/リッター(WLTCモード)
価格:449万円/テスト車=495万3500円
オプション装備:パールペイント(9万3500円)/パッケージオプション<助手席パワーシート+フロントシートヒーター&ベンチレーション+ステアリングヒーター+フロントマルチポイントランバーサポート+ハンズフリー電動テールゲート+FOCAL HiFi 14スピーカー>(37万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1661km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(2)/山岳路(3)
テスト距離:542.0km
使用燃料:49.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/11.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。