BMW M4クーペ コンペティションM xDrive(4WD/8AT)
きっと、もっと奥深い 2022.12.20 試乗記 待望の「BMW M4クーペ」に乗れるというのに、試乗日はまさかの雨! 最高出力510PSのマシンを試すにはあまりに不向きなシチュエーションだが、新エンジンと独自の4WDシステムを得たBMWのハイパフォーマンスクーペからは、それでもあまたの魅力が感じられた。こんなクルマに乗れるというのに……
晩秋とも初冬ともつかない日の、夕方へと移ろっていく時間帯。引き取ったばかりのクルマのシートに座り、ぼんやりとした風景のなかでゆっくり流れる都心の道を走らせながら、僕は間違いなく不景気な表情を浮かべていたことだろう。
いや、クルマに不満があったわけじゃない。むしろ乗ってみたいと思っていたモデルなのだから、そういう意味ではご機嫌だったはずだ。なのに、この日のこの時間帯しか試乗に行けないというタイミングで、ウインドスクリーンの向こう側は雨。それも夜が深くなるにつれて降りが強くなっていくという予報だ。とてもじゃないが、“M”の冠と“コンペティション”というサブネームを持たされたBMWのスポーツクーペを堪能するのにふさわしいとはいえない。軽くモヤッとした気分に襲われながら、僕は首都高速の入り口にノーズを向けた。
M4クーペ コンペティションM xDrive。1985年から続いてきた「M3/M4」の歴史のなかで、おそらくこれは最速のモデルとなるだろう。2020年の秋に現行M3と同時に本国でデビューし(参照)、2021年初冬に日本国内でも発表された(参照)G82型M4は、そもそも歴代最強のスペックを誇っていた。
3リッター直6ツインターボエンジンは、先代のS55型からS58型へと変更。排気量が2979ccから2993ccへとわずかに拡大され、ヘッドの冷却系をはじめ各所に改良の手が加えられている新開発ユニットだ。これによってベースモデル……というより、6段MTとの組み合わせで操縦感覚を重視した仕様と呼ぶのがふさわしいスタンダード版では、最高出力480PS、最大トルク550N・mを、よりパフォーマンスを重視して2ペダルの8段ステップトロニックを採用したコンペティションでは、510PSと650N・mを発生している。
先代F82型の6段MTモデルが431PSと550N・m、コンペティションが450PSと550N・mであり、ウオーターインジェクションを備えた限定モデル「M4 GTS」でも500PSと600N・mであったことを考えると、アウトプットがどれほど増強されてるかがわかるはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
快適になった乗り心地の背景にあるもの
しかもだ。およそ半年遅れて日本にも導入されたM4クーペ コンペティションM xDrive(と「M3セダン コンペティションM xDrive」)は、M3/M4の歴史で初めてxDriveシステム、つまり4WDシステムが与えられている。アウトプットがさらに大きな「M8」や「M5」が4WDモデルのみの設定となるなか、ずっと後輪駆動であることにこだわり続けてきたM3/M4にもM xDriveが後輪駆動と並んで投入されたというのは、特にコンペティションの名を持つM3/M4の動力性能が、そういう領域に突入したことの証しであるに違いない。BMWとMがこのモデルで狙ったパフォーマンスを後輪だけに担わせるのは荷が重い、ということなのだろう。スポーツドライビングを好むBMWファンの多くは、後輪駆動であることへのこだわりが強く、僕もBMWのそういうところに好感を持ち続けてきた。さて、これをどうとらえるべきか?
この日、目的地としていた峠へ向かうべく首都高速と関越道を走る道すがら、最初に驚いたのは、記憶にあった先代からすると意外なほど快適に思えた乗り心地だった。誰かに問われたら「乗り心地? 悪くないよ」とはっきり答えられるレベルなのだ。とはいえ、決してヤワになったわけじゃない。一般的な尺度からみれば硬いというか、かなり引き締まった部類ではある。けれどゴツゴツしたような感覚もポンと跳ねるような動きもほとんどなく、サスペンションがしなやかに路面に追従しながらタイヤを接地させている感触すらある。ある種の方向転換なのか?
だとしたら、ちょっとばかり衝撃的な出来事かも……なんて考えながらふと思いついたのは、これはM xDriveを採用してるクルマであり、サスペンションもそれときれいに調和するものに仕立てられたのだ、ということ。4つのタイヤのトラクションを生かすためのシステムであれば、4つのタイヤがしっかり路面に接地していなければ意味は半減、セットアップの方向転換は、いわば必然だったのだろう。後輪駆動のM4は未体験なので比較することはできないのだけど、そのあたりにカギがあるんじゃないか、というような気がして仕方ない。
いずれにしても、ワインディングロードを含む一般道が主戦場であるならば、「ものすごい高性能モデルを転がしている」感こそやや薄まってはいるけれど、僕はこっちのフィールのほうが好ましいように思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スポーティーな走りのための4WD
薄いといえば、普通に走っている限りは、実は4WD感というものもほとんどない。街なかでも高速道路の巡航でも、まるで後輪駆動のクルマを走らせているかのようだった。雨のなかをシュパーッと気持ちよく、恐怖感のかけらもなく高速巡航させてくれることに、もしかしたら貢献しているのかもしれない。けれど、少なくとも通常のxDriveのようにそれを感触として伝えてくることがほぼないのだ。ほかの多くのオンデマンド式4WDのように、状況に応じてトルク配分を先回りさせるようなところも感じられない。いわゆる“生活四駆”の匂いはまったくといっていいくらいない。
M xDriveの仕組みを簡単に述べるなら、前後に駆動力を配分するxDriveにトルクベクタリング的なアクティブMディファレンシャル、そしてダイナミックスタビリティーコントロールを組み合わせ、それらを専用のシステムで統合制御するというもの。Mのエンジニアたちが目指したことは明確だ。スポーツドライビングのためのトラクションシステムであり、スタビリティーシステムである。そしてそれは、あくまでも後輪駆動のテイストを強く保持したものとして考えられているのだ。
それを実感したのは、峠道に差しかかってからのことだった。最初のうちはM xDriveの設定は基本のまま、つまりDSCがオンで、4WDの制御もスタンダードの状態で走行。4WDなのに変なアンダーステアを見せることなく後輪駆動のようなフィールで曲がってみせるところに感心していた。アクセルペダルを踏みすぎてもほとんどリアが滑り出さない最も安全なモードだが、その範囲内でも十分に楽しかったし気持ちよかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
制御によって広がるクルマの操り方と楽しさ
しかし、軽い欲のようなものは僕にだってある。今度はDSCはオンのまま、4WDの制御をひとつ上の「4WDスポーツ」に切り替えて、もう少し元気に走ってみたいと思った。
この状態ではリア側へのトルク配分を増やし、後輪が滑ることをある程度は許してくれる。アクセルペダルを強めに踏み込むことでリアをスライドさせるという後輪駆動のようなアクションが、少し可能になる。そのときの後輪の動きには唐突な感じがなくてとてもわかりやすく、しかも、踏みすぎたときには前輪が前へとクルマを引っ張ろうとしてくれる。後輪駆動の楽しさと気持ちよさ、全輪駆動の安心感、ドライバーはその双方をしっかり受け取ることができるのだ。路面がぬれているわけだから速度域は極めて低かったのだけど、東京を出る前には恨めしかった雨空にちょっとだけ感謝した。
しかし、そこまでだった。雨脚は予報どおり強くなって、路面もヘビーウエットとなり、時折視界もあやしくなって、すごすごと舌を巻いて帰るほかなかった。DSCをオフにした状態での4WDモードや4WDスポーツモードではどうなるのか? シャシーの基本性能の出来栄えに自信があるから設けたのであろう2WDモードではどうなるのか? 気にはなったけれど、とてもじゃないけど試す気にはなれないコンディションだったのだ。
まだまだ味わい足りない
それでも東京に戻る道すがら、僕がそれほどフラストレーションを感じていなかったのは、なにより常に意識のなかに居座るエンジンが、抜群に素晴らしかったから。もちろん低速域でも十分以上に力強いのだが、同時に昨今ありがちな過剰な感じはまったくなくて、扱いやすさと自然な感触が見事に同居していた。それよりなにより、中速域あたりからパワーの密度感をメキメキと高め、レブリミットまで素晴らしく滑らかに吹け上がっていくフィール。それはもう、控えめに言っても鳥肌モノだったのだ。回すにつれて背筋をシビれさせるような音質に変化していくサウンドは、低回転域や中回転域で走らせていても快いハミングを聞かせてくれたりする。
そしてもうひとつ、BMWのスポーツモデルで感じることのある、操作した分だけきっちり動いてくれる感覚だ。例えばアクセルペダルを5mm踏んだら5mm分だけ、ステアリングを10°切り増ししたら10°分だけ、不足もなければ過剰もなく反応してくれる。ドライバーの意思を正確に酌み取って動きへと変換してくれる、この感覚。それが精密さを増している印象があったのも大きかった。これは、雨に見舞われてゆっくり走ることに切り替え、気持ちにゆとりが生まれたからこそ感じ取れたことなのかもしれない。雨のなかを走るのも、たまにはいいものだ。
グランツーリスモ的な使い方も得意技のひとつになったこと。後輪駆動の素晴らしさと4WDの素晴らしさを矛盾なしに併せ持つこと。絶品といえるエンジンに仕上がっていること。精緻であることが心地よいこと。そこまでは体感できた。これだけで十分に魅力的なモデルである、と強く思う。でも、まだまだ奥が深いだろうことも疑いようがない。久々にリベンジしたい気持ちになって、今も心がかなりざわざわして落ち着かない。
(文=嶋田智之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW M4クーペ コンペティションM xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1885×1395mm
ホイールベース:2855mm
車重:1790kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6250rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2750-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR19 100Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1407万円/テスト車=1783万2000円
オプション装備:BMW Individualボディーカラー<ファイヤー・オレンジ>(68万5000円)/フルレザーメリノ キャラミ・オレンジ/ブラック(30万8000円)/M Driveプロフェッショナル(12万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ<ゴールドキャリパー>(107万5000円)/Mカーボンバケットシート(52万1000円)/パーキングアシストプラス(6万9000円)/Mドライバーズパッケージ(33万6000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(64万4000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3028km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:445.2km
使用燃料:51.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【試乗記】BMW M3コンペティションM xDrive(4WD/8AT)
◆【ニュース】BMWの量産車最速モデル「M4 CSL」 25台限定で注文受け付けスタート
◆【ニュース】BMWが高性能スポーツモデル「M3セダン/M4クーペ」に4WDモデルを導入

嶋田 智之
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
NEW
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。






















































