ダイハツ・タント ファンクロスターボ(FF/CVT)
ライバルがいればこそ 2023.01.04 試乗記 「ダイハツ・タント」が捲土(けんど)重来を期してマイナーチェンジ! SUVテイストが目を引くニューモデル「ファンクロス」が登場した。今回の改良で、タントはどう進化したのか? ファンクロスに見る競合にはない特徴は? 元祖・軽スーパーハイトワゴンの実力に触れた。レジャー系トールワゴンの元祖はどっち?
ダイハツ・タント ファンクロスは、素のタントと「カスタム」に続くタントでは3番目のバリエーションとして、2022年10月のマイナーチェンジに合わせて登場した。
その発表直後のデイリーコラムでwebCG編集部の堀田君も書いていたように(参照)、これが宿敵スズキの「スペーシア ギア」をバリバリ意識していることは、だれの目にも明らかだ。……といったことを、同じく編集部の藤沢君が今度はタントの開発担当氏に直撃したところ、そのスズキの手法に触発されたことはやはり否定しなかった。
そのいっぽう、ダイハツ広報部は「このクルマの元祖は、同じダイハツの『ウェイク』」とも主張する。あらためて調べると、2015年6月にアウトドアブランドの「モンベル」やサーファー向け情報サイト「波伝説」とコラボしたウェイクの特別仕様車が、翌2016年5月にはその特別仕様車をカタログモデル化した「レジャーエディション」が世に出ている。同車は室内や荷室を防水樹脂フロア化したほか、荷室に上下2段調整式デッキボード、さらにフックや固定ベルト、LED照明などを装備して、アウトドアでの利便性を高めたウェイクだった。スペーシア ギアの発売はこれより遅い2018年末だ。
まあ、どちらが元祖かはともかく、今回のマイナーチェンジまでは、タントの販売台数が基本的にギアを擁するスペーシアの後塵(こうじん)を拝してきたのは事実である。そして、それを打破するためにタントが繰り出した一手がファンクロスであったことも否定しようがない。そのファンクロスはご覧のように、エクステリアではフロントフェイスにバンパー、ルーフレール、サイドガーニッシュによるSUV風味が、インテリアではオレンジの差し色や専用シート表皮、荷室関連の特別装備によるアウトドア風味が特徴である。
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乗り心地にみるライバルとの味つけのちがい
そのSUVらしいビジュアルが、よくも悪くもあくまでコスプレにとどまるのは、スペーシア ギアもタント ファンクロスも変わりない。FFで150mm(4WDは165mm)という最低地上高は通常のタントと寸分たがわない。今回試乗したターボ車が履く15インチタイヤも、サイズ・銘柄とも同じタントシリーズの「カスタムRS」のそれと選ぶところはない。
ファンクロスも含めたタントの今回のマイナーチェンジでは、メカニズム面で公表されている変更点はエンジン制御の改良による燃費性能の改善のみ。そういわれなくても、ファンクロスの走りはなるほどタントそのものだ。
現在の軽スーパーハイトワゴンの元祖は間違いなくタントだが、後発商品との激しい開発競争の結果、今ではタントの全高がクラスでもっとも低くなっているのは面白い。とはいえ、たとえば「ムーヴ キャンバス」と比較すると、コーナリングではわずかながらも頭上から倒れ込むようなロール感が残っているのは否めない。また、他社の軽スーパーハイトワゴンよりふわふわという横揺れが少し目立つのは、日常域の乗り心地を重視するダイハツらしいところでもある。ただ、人によってはクルマ酔いが誘発されやすい気もするので、この種のクルマを買うときは、少しでも試乗したほうがいい。
いっぽうで、現行タントの発売直後に気になったロールスピードの速さを、今回のファンクロスではあまり感じなかったのは、人知れず熟成されたからか、あるいは生産現場の習熟によるものか、はたまた個体差か。乗り心地については好き嫌いが分かれても、いわゆるドライバーズカーとしての操縦安定性の高さは、現行タントを含む「DNGA」をうたって以降のダイハツ車に共通する美点といっていい。
とにかくフロントよりリアのグリップが高いので、どう振り回してもリアを軸にした安心・安全のアンダーステアを維持してくれる。お尻がドシっとしているので、直進性も印象的なくらい高い。
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リアシートの刷新による使い勝手の進化と変化
個人的に、タントの試乗は現行型が発売された(参照)2019年夏以来で、ファンクロスの運転席で真っ先に「ついにタントにも電動パーキングブレーキが付いた!」と感動したら、それは2021年9月に実施された一部改良によるものだった。いやはや、このクラスはさすが競争がし烈なだけに、進化が速い。
というわけで、今回の最大(にして実質的に唯一?)のハードウエアにおける変更は、リアシートだ。新型キャンバスから採用された新設計のシートが、タントにも使われるようになったのだ。従来のタントといえば、荷室側からリアシートをスライドさせられないのがクラス唯一の弱点だったが、新しいタントでは、キャンバス同様にそれが可能となった。そこが今回の改良における最大のメリットである。
ただ、その副作用として可倒時に座面が沈み込むチルトダウン機能がなくなり、リアシートを倒しても、シートバック分の厚みがそのまま段差として残ってしまうようになった。それを補うために追加されたのが、ウェイク以来となる2段調節式デッキボードというわけだ。クルマから取り出せばテーブルとなるデッキボードの耐荷重は20kg。上に人が乗るような荒っぽい使いかたはできないが、見た目よりは頑丈である。
軽スーパーハイトワゴンといえば“自転車がのせられる”のも大きな存在意義である。チルトダウン機能が省略されたリアシートではそこが不安になるが、結論からいうと、少なくとも26インチの“ママチャリ”には対応しているようだ。今回の改良モデルほどではないにせよ、現行タントは従来型でもリアシート可倒時には段差が残ってしまう設計だった(参照)。もともとリアゲート側から自転車を押し込むのは困難で、自転車はピラーレスのスライドドアを生かして、横から積むのが流儀だったのだ。新しいタントでも、その流儀さえ守れば自転車をのせることは可能らしい。
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切磋琢磨し合ってクルマは進化する
それにしてもファンクロスターボの走りは、よくも悪くもターボを積んだタントそのもの。ステアリングホイールにはダイハツ名物(?)のパワースイッチ(表記はPWR)も付く。この、知らない人はまるで知らないかもしれない機能は、一般的なパワーモードやスポーツモードと呼ばれる機能とはちがい、加減速レスポンスが正面から向上するものではない。アクセル開度一定のままパワースイッチを押すと、その瞬間だけピュッと加速する。というか、アクセルがわずかに開いてクルマが前に出る。
実用のシーンとしては、高速や幹線道路での合流、あるいはちょっとした追い越し時に、このパワースイッチを押す。それだけで足りない場合も、すでにクルマの勢いがついているので、軽くアクセルを踏み増すだけで必要な加速が得やすい。そして合流や追い越しが済んだら、すみやかに再度スイッチを押して解除するのが正しい使いかたである。
クルマ好き・運転好きの皆さんは「そんなのアクセルをきちんと踏めばいいだけの話でしょ?」というかもしれないが、そのとおりである。ただ、もともと運転が苦手な人はアクセルペダルを踏むのも苦手。そういう向きにはパワースイッチのように“ここぞというときに指で押すだけ”という操作のほうが、ストレスが圧倒的に少ないらしい。
一応は運転が苦手ではないと自負する筆者も、パワースイッチの効能を知って以降は、それが備わるダイハツ車に乗るたびに多用させてもらっている。いつでもどこでも、ほんの少し加速したいときにはじつに便利。これを使いはじめると、運転にまつわる行為のなかでも“アクセルを踏む”という動作が、とくに疲労に直結していることに気づく。クルマの運転を日々の鍛錬とするなら、これははっきりいって堕落だろう。しかし、人間をどんどん堕落させてきたのが自動車の進化でもある。
ちなみに、スズキも最近ダイハツに触発されて、マイルドハイブリッドのモーターアシストを使った「パワーモード」を開発。スペーシア ギア(というよりスペーシア全車)に標準で備わっている。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ダイハツ・タント ファンクロスターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1785mm
ホイールベース:2460mm
車重:940kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6400rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:20.6km/リッター(WLTCモード)/24.3km/リッター(JC08モード)
価格:180万9500円/テスト車=217万4381円
オプション装備:スマートクルーズパック(5万5000円) ※以下、販売店オプション ETC車載器<エントリーモデル>(1万8095円)/10インチスタイリッシュメモリーナビ(23万1000円)/ドライブレコーダー<スタンドアローンモデル>(3万4760円)/カーペットマット<高機能・グレー>(2万6026円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:494km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:417.2km
使用燃料:32.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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