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ソニーのリソース恐るべし! 『グランツーリスモ』で加速するソニー・ホンダのEV戦略

2023.01.13 デイリーコラム 林 愛子
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「つまらない」なんてとんでもない!!

最初に感想を言っておく。「CES 2023」のソニー・ホンダモビリティ(以下、SHM)の発表(参照)は、想像以上によかった。筆者にとっては「そうか、こういうことがやりたかったのか!」という猛烈な腹落ち感があった。

今年のソニーのプレスカンファレンスは全体で約45分間。初めは超小型人工衛星や映画、テレビゲームなどの話題が続き、リアルタイム視聴のYouTubeのコメント欄には退屈そうなコメントが並んだ。開始30分後、ようやくモビリティー関連の情報となり、画面左側からスルスルとメタリックに輝く流線形のプロトタイプモデルが現れる。

新しいブランドの名前は「AFEELA(アフィーラ)」。(1)人間がこのモビリティーを“知性を持つ存在”として「感じる」こと、(2)モビリティーがセンシングとネットワークに代表されるITによって人と社会を「感じる」ことの、ダブルミーニングだそうだ。ホンダの北米ブランド「ACURA(アキュラ)」と語感が似ているのは偶然ではないだろう。

車体フロント中央には、「Media Bar」と命名されたディスプレイが搭載され、これが車外とのインターフェイスになるという。ただ車両スペックにはほぼ触れられず、具体性のある内容といえば、「車内外に計45個のカメラやセンサーを搭載し」「最大800TOPSの演算性能を持つECUを採用」といった程度である。あとは、自動運転/先進運転支援は条件付き自動運転の「レベル3」から手放しOKの運転支援「レベル2+」相当、2025年前半から先行受注を開始して同年中に発売し、デリバリーは2026年春に北米から開始される……という、既発表の情報が繰り返された。

SNS等の反応を見ると、この内容に物足りないと感じた人も少なくないようだ。しかし、SHMの企業パーパス「多様な知で革新を追求し、人を動かす。」を考えれば、この発表内容はしごくまっとうである。同社が既存の電気自動車(EV)と競うつもりなら、航続距離や電池容量などの性能をうたうだろうが、SHMが目指しているのは「ウォークマン」や「プレイステーション」や「アイボ」のような、新しい価値の創造なのだ。

「CES 2023」のプレスカンファレンスにおいて、新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」と新型EVのプロトタイプを発表するソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO。
「CES 2023」のプレスカンファレンスにおいて、新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」と新型EVのプロトタイプを発表するソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO。拡大
ブランド名の「アフィーラ」とは、人や社会とクルマとが、相互に知覚(FEEL)し合うことを表しているという。
ブランド名の「アフィーラ」とは、人や社会とクルマとが、相互に知覚(FEEL)し合うことを表しているという。拡大
ソニー・ホンダモビリティが初公開した、新型EVのプロトタイプ。同車をベースとした市販モデルは、2025年前半に先行受注を開始し、同年内に発売。まずは2026年春に北米で、次いで2026年後半に日本でデリバリーが開始される。生産についてはホンダの北米工場で行う予定だが、日本やその他の拠点における生産も検討しているという。
ソニー・ホンダモビリティが初公開した、新型EVのプロトタイプ。同車をベースとした市販モデルは、2025年前半に先行受注を開始し、同年内に発売。まずは2026年春に北米で、次いで2026年後半に日本でデリバリーが開始される。生産についてはホンダの北米工場で行う予定だが、日本やその他の拠点における生産も検討しているという。拡大
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着々と進む各分野での“仲間づくり”

SHMのプレゼンテーションパートには、同社会長兼CEOの水野泰秀氏のほかに、米Qualcomm Technologies(クアルコムテクノロジーズ)社のクリスティアーノ・アモン社長兼CEOと、米Epic Games社のキム・レブレリCTOも登壇した。クアルコム社とは、自動運転/先進運転支援やヒューマン・マシン・インターフェイス/車載インフォテインメント、テレマティクスなどといった車両のインテリジェンス化の領域で、Epic社とはモビリティーサービスやエンターテインメントの領域で、それぞれ協業する。

例えば、先に触れた最大800TOPSの演算性能を持つECUには、クアルコム製の「Snapdragon Digital Chassis」のSoC(システム・オン・チップ)が使われる。SoCとは複数の異なる機能を一枚に盛り込んだチップのこと。クアルコム製のSoCはAndroid OSのスマートフォンに多く採用されているが、車載用ではルネサスやNVIDIAなどが先行しており、競争が激化している。SHMは次世代EVの心臓部ともいえる技術の開発パートナーに、クアルコムを選んだわけだ。

一方、Epic社は『フォートナイト』などで知られる米国のゲームメーカーだ。2022年春には、ソニーグループがブロック玩具のLEGO(レゴ)の親会社とおのおの10億ドル(約1255億円)をEpicに出資し、メタバースを構築すると発表して話題になった。このときはエンタメの話と受け止めていたので、まさかモビリティーにつながるとは思ってもみなかった。

こうしてSHMが目指す新しいモビリティー像が徐々に見えてきたわけだが、実は個人的に、これらを統合する存在が「プレイステーション」の名作ソフト『グランツーリスモ』ではないかと考えている。

自動運転/先進運転支援システムに関しては、既報のとおり、特定条件下での自動運転機能「レベル3」と、市街地をはじめとしたより広い領域での先進運転支援機能「レベル2+」を搭載。45個のセンサーとクアルコム製のECUでそれを実現するとしている。
自動運転/先進運転支援システムに関しては、既報のとおり、特定条件下での自動運転機能「レベル3」と、市街地をはじめとしたより広い領域での先進運転支援機能「レベル2+」を搭載。45個のセンサーとクアルコム製のECUでそれを実現するとしている。拡大
徹底的にシンプルを追求したインテリア。ヒューマン・マシン・インターフェイスについては、新型「BMW 7シリーズ」など、すでに過去にない提案を盛り込んだモデルがちらほら出始めている。それらのモデルをさらに超えて、2025~2026年の段階でも“新しさ”を提供できるか? ソニー・ホンダモビリティの提案力と技術力が試されるところだ。
徹底的にシンプルを追求したインテリア。ヒューマン・マシン・インターフェイスについては、新型「BMW 7シリーズ」など、すでに過去にない提案を盛り込んだモデルがちらほら出始めている。それらのモデルをさらに超えて、2025~2026年の段階でも“新しさ”を提供できるか? ソニー・ホンダモビリティの提案力と技術力が試されるところだ。拡大
資料等で説明のあった、クラウドとの連携による乗員ごとにパーソナライズされた車内環境の創出や、デジタル技術を駆使した新しいエンターテインメントの提供、センシング技術と拡張現実(AR)技術を用いたナビゲーションシステムの搭載など、写真だけでは伝えきれない新機能の実装についても、期待したい。
資料等で説明のあった、クラウドとの連携による乗員ごとにパーソナライズされた車内環境の創出や、デジタル技術を駆使した新しいエンターテインメントの提供、センシング技術と拡張現実(AR)技術を用いたナビゲーションシステムの搭載など、写真だけでは伝えきれない新機能の実装についても、期待したい。拡大

『グランツーリスモ』がついに実世界に降臨?

グランツーリスモは、1997年発売の初代プレイステーションのキラーソフトとして開発されたドライビングシミュレーションゲームであり、現在までにシリーズ7作を数える。開発を担うポリフォニー・デジタルはソニー・インタラクティブエンターテインメントの100%子会社だ。

誕生当時、最初に何に驚いたって、ゲームなのに実在するサーキットで、実在する自動車を走らせられたこと。これはまさに、今で言う“デジタルツイン”の世界だ。長年にわたり、ゲームというかたちで培われてきたシミュレーションの技術が、実存するクルマにフィードバックされる。四半世紀の時を経て伏線がついに回収されるのかと思うとワクワクが止まらない。もっとも、1990年代はまだまだ「ゲーム=子どものおもちゃ」という認識が強かった時代である。実際のところ、ソニーも当時はそうした可能性までは考えていなかっただろう。

いずれにしても、グランツーリスモの開発チームは四半世紀にわたってゲームに登場する車両とサーキットのあらゆるデータを丹念に積み上げ続け、「この速度でカーブに入った場合の挙動はどうか」「この路面状態に対する反応は適切か」など、徹底してリアルを追求してきた。最新のプレイステーションのコントローラーには振動を再現するハプティクス機能が備わり、路面の凹凸も感じられるという。

さらにグランツーリスモはAIの深層学習にも活用され、2022年にはAIのドライバーが人間のトップゲーマーに勝利した。ゲームという特殊な世界の出来事とはいえ、ソニーは車載用AIにおいて抜きんでた技術を獲得したわけだ。このAI技術や一連の研究開発の成果が、SHMの自動運転機能に大きく影響を及ぼすことは間違いない。

想像以上に手ごたえがあったSHMのプレゼンテーション。現状はソニーグループのリソースを生かして勝負する印象だが、ではホンダは、実車の生産・販売以外にどういった役割を果たすのか? そしてSHMから何を持ち帰ってホンダ車の開発に生かすのか? 機会があれば、ホンダ側のビジョンについてもぜひ聞いてみたい。

(文=林 愛子/写真=ソニー・ホンダモビリティ、フェラーリ/編集=堀田剛資)

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『グランツーリスモ7』に登場するフェラーリのバーチャルコンセプトカー「フェラーリ ビジョン グランツーリスモ」。
『グランツーリスモ7』に登場するフェラーリのバーチャルコンセプトカー「フェラーリ ビジョン グランツーリスモ」。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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