ルノー・カングー クレアティフ ディーゼル(FF/7AT)
触れればわかる継承と進化 2023.04.08 試乗記 日本でも(なぜか)人気を博す、フランスが生んだ商用車ベースのマルチパーパスビークル。その代表ともいえる「ルノー・カングー」が、3代目に進化した。より大きく、より機能的に進化したニューモデルの出来栄えを、ディーゼルモデルに試乗して確かめた。さらなる飛躍の起爆剤となるか?
2022年、ルノーの日本市場での販売台数は8618台、海外メーカーのなかでは8位となった。ちなみに9位のプジョーは8552台。100台以下の差ながら、フランス車トップの座を射止めたわけだ。本体がロシア絡みの特損計上で赤字化するなか、ささやかながらも朗報となったことだろう。
躍進の理由はハイブリッドの選択肢が充実したことと伝えられているが、忘れてはならないのが、主砲たるカングーが不在のなかで、この成績をあげたことだ。ライバルの「プジョー・リフター」が先駆けてロングボディーを投入するなか(参照)、コロナ禍もあって遅れていた3代目の導入が連勝街道のスタートラインとなるのかも興味深い。
2代目カングーの登場間もない2009年に、マツダからルノーへと移籍したローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏が率いる今日のルノーデザイン。そのフォーマットにきっちりのっとった新型カングーの顔立ちは賛否が分かれるところだろう。カングーに関しては一家言ある(?)日本法人のリクエストで設定された無塗装バンパー仕様の「クレアティフ」は親しみが増すが、同色バンパー仕様の「インテンス」は設定色にかわいげがないこともあって、らしさがあまり感じられない。
聞けば新型の生産工程は、特装や特色の差し込みなどでより小回りが利くようになっているそうで、後々「クルール」のような限定車もぽいぽい投入されることになるのではないだろうか。ちなみにクレアティフはフランス語版のクリエイティブ、つまり独創的という意味だ。
よりデカく、より広く、より豪華に
サイズは14年越しの成長ということか、2代目に対してひと回りは大きくなった。4490mmの全長もさることながら、1860mmの全幅は「トヨタ・アルファード」や「ハリアー」などより大きい。2代目が“デカングー”なら、3代目は“どデカングー”の趣だが、ライバルのリフターとは大差はない。この辺りの寸法感が今の欧州のニーズということになるのだろうか。
このサイズアップぶんがまるっと……というわけにはいかないが、荷室も着実に大きくなっている。2代目は、かの地の物流などで広く用いられるEPAL認証の欧州規格パレットが無理なく収まる荷室形状からサイズが決まっていった側面があるが、3代目はレジャー側のニーズもくんだのだろうか。結果的に後席背後の荷室部の容量は775リッターと115リッターアップ。後席をフォールダウンしての荷室長も1880mmと80mm伸びているから、自転車や長尺物の積載性、車中泊の適性などもより高まっている。
装備関係で劇的に変わったのは、ADASやインフォテインメントシステムといった先進アイテムの充実だ。衝突被害軽減ブレーキはもちろん、全車速対応型アダプティブクルーズコントロールや、アクティブレーンキープアシスト、ブラインドスポットモニターなどは標準装備となる。8インチのマルチメディアシステムはApple CarPlayやAndroid Autoを介してスマホとの連携が可能だ。特にADASについては、ロングドライブの疲れを確実に軽減してくれるだろう。
明確に改善されたディーゼルモデルの快適性
今回の試乗車が搭載するエンジンは1.5リッター4気筒ディーゼルだ。これは2代目の最終限定モデルとなる「リミテッド ディーゼルMT」に搭載されたユニットと基本的には同じで、116PSの最高出力も変わらない。が、最大トルクは270N・mと10N・m増強、その発生回転域も低くなっている。組み合わせられるトランスミッションは7段DCTのみだが、もちろん本国では6段MT仕様も設定されており、日本導入の可能性もゼロではない。ちなみに、本国では同形式のエンジンながら一段パワーの小さい仕様も用意されており、日本仕様のパワートレインはカングーとしては最強スペックとなっている。
走り始めて気づくのは、ディーゼルユニットの音振(おとしん)の洗練ぶりだ。2代目のリミテッド ディーゼルMTの印象からすれば、ディーゼルならではのガラゴロ感は抑えられ、ステアリングに伝わるビリビリした微振も減っているように感じられる。エンジン自体は継承もので新しいわけではないから、むしろ骨格刷新の側がもたらした利なのだろう。「CMF-C/Dプラットフォーム」はアライアンスで共有されるぶん、ルノーの独善的なエンジニアリングで押し切るわけにはいかない面もあっただろうが、そのネガは後に触れる乗り味の面においても露呈することはなかった。また、7段DCTは変速マネジメントも洗練されており、減速からの再加速など苦手な場面でのシフトショックの類いも見受けられない。
ちょっと残念なのは前席の掛け心地だ。サイズやホールド感にまったく不満はないが、全体的にフラットにフィットするその座り心地は、難癖をつければ普通のクルマのようでもある。もっちりふんわりと体を包み込む食パンのような初代や2代目のシートの掛け心地に対すれば、いかにもフランス車なご当地感が薄れてしまった感は否めない。一方、後席は座面や背面にみる分割機構の段差感などが均(なら)され、着座感や足入れ性も整えられている。
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どちらも甲乙つけがたし
走りは低速域で路面のザラつきや細かな凹凸などがちょっと強く伝わってくる感はあるが、速度が増すにつれてアタリの柔らかさが際立ってくる。大きなうねりでのバウンドの収まりや、波状的に連続する入力での路面追従性は相変わらずお見事だ。「トヨタ・ノア/ヴォクシー」に代表される今日びのミニバンも動的質感は随分高められたが、このくらいのフラットライド感や外乱に対する包容力があればと望んでしまう。
シンプルなサス形式ながら独立サスのように豊かなリアの接地感、定常的なロール量や適切なロールセンター高など、ハンドリングは過去のカングーの美点をしっかり継承していて、ほぼ文句のつけようがない。が、欲を言えばカングーならではのねっとりとした路面追従性がもう少し前に出てくるといいかなとも思う。この辺りはタイヤの銘柄いかんでキャラクターが変わってくるところかもしれない。
ディーゼルエンジンのメリットといえば低燃費によるアシの長さやランニングコストの安さだが、カングーのそれは7段DCTのワイドレシオもあってか、予想以上の燃費の伸びも期待できそうだ。一方のガソリンモデルもパフォーマンスに比しての燃費は悪くなく、鼻先の軽さがもたらすハンドリングの軽快感という点で明確な利がある。個人的にはカングーには旅グルマらしいほっこり感を求めるのでディーゼルを推すが、24万円という価格差を鑑みればディーゼルが絶対有利というわけではなく、目的用途に応じて選びがいがある設定になっているように思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ルノー・カングー クレアティフ ディーゼル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm
ホイールベース:2715mm
車重:1650kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 SOHC 8バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:116PS(85kW)/3750rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:17.3km/リッター(WLTCモード)
価格:419万円/テスト車=425万0500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:4324km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:236.9km
使用燃料:13.2リッター(軽油)
参考燃費:17.9km/リッター(満タン法)/5.5リッター/100km(約18.2km/リッター、車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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