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トヨペット・クラウン デラックス(FR/3MT)

伝説の始まり 2023.04.20 試乗記 熊倉 重春 プラットフォームの刷新に、4車種展開、そして世界進出と、文字どおりの大変革を果たした16代目「トヨタ・クラウン」。あまりの変容に外野は驚くばかりだが、そもそもクラウンとはどんなクルマだったのか? 初代の試乗記を振り返ってみよう。

(以下は2009年1月5日に公開した記事に加筆・修正したものです)

トヨタ自動車が1955年に送り出した初代クラウン(の後期)に試乗した。およそ50年前につくられた元祖国産高級車は、ここから何かが始まる、そんな希望に満ちたクルマだった。
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国産車初のオーバードライブ

う〜ん、やっぱり博物館を訪ねると、時計の針が一気に戻る。それにしても何年ぶりだろう、観音開きのクラウンを運転するなんて。学生時代に友達が持っていて、その後クルマ雑誌の記者になってからも取材で何回かステアリングを握ったけれど、そうだなあ、あれから30年にはなるだろうか。

ちょっと惜しいのは、「今度の試乗は初代クラウンです」と言われてたのに、初代は初代でも、その後半に属する1958年以降のモデルだったこと。X形フレームとかOHVエンジンとか、そしてもちろん観音開きのドアとかは同じで、ひっくるめて初代には違いないんだが、見た目の姿はかなり別物。全体に丸っこかった本当の初代(1955年デビュー)にあれこれ手を加えて、ヘッドライトには庇(ひさし)が付いたり、後ろもテールフィンみたいにとがらせてある。このビッグマイナーチェンジで1500ccエンジンが48PSから58PS(後期ではさらに62PSになる)にパワーアップされたほか、3段コラムシフトMTに電気式のオーバードライブが追加された(トランクリッドには、うれしそうに「Overdrive」というメッキのバッジが付いている)。

1960年には1900cc仕様が加わるんだが、なぜ最初が1500ccだったかというと、あのころ5ナンバーの枠がそうだったから。いやあ、時代を感じさせます。

当時のクラウンは前後ともにベンチシートで、6人乗りの設計だった。
当時のクラウンは前後ともにベンチシートで、6人乗りの設計だった。拡大
ガソリンの給油口は、テールライトの内側に、その存在を隠すかのように配置されていた。
ガソリンの給油口は、テールライトの内側に、その存在を隠すかのように配置されていた。拡大
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日本人に自信を与えた

ここで、ちょっとトヨペット(トヨタじゃありません)クラウンがどんな時代に生まれたかを復習しておこう。1950年代の前半から日本の自動車メーカーは、欧米の先進国から近代的な乗用車づくりを学ぼうと、一斉に技術提携や日本国内現地製造に乗り出した。日産はオースティン、いすゞはヒルマン(ともにイギリス)、日野はルノー(フランス)、三菱はウィリス(アメリカ)といった具合で、まとめて「国産外車」なんて呼ばれてた(参照)。三菱といっても、まだ三菱重工のことで、今の三菱自動車工業が正式に発足するのは、ずっと後の1970年のことだ。

そんななかで、あくまで純国産にこだわったのがトヨタ。戦後すぐ四輪独立懸架を持つ「トヨペットSA型」をつくるなど意欲は満々で、しばらく「トヨペット・スーパー」(すごくトラック的)などをつくりながら研究を重ねたあげく、1955年に発表したのがクラウンだった(参照)。ちょっとアメリカっぽいデザインや、ダブルウイッシュボーンとコイルによる前輪独立懸架など、しっかり世界のトレンドを取り入れた設計が特色。「日本でもこんなクルマがつくれるんだ」と、世間は大歓迎した。

敗戦からまだ10年。復興に汗水たらしていた日本人に、クラウンが大きな自信をもたらしたのは事実。もっとも、100万円というのは、土地付きの一戸建てが買える値段で、もちろん庶民の手が届くものではなかったが。

そんなクラウンが登場したころ、まだまだ日本の道路事情は最悪で、主要国道でも未舗装の区間が多かった。そこに独立懸架では耐久性が心配だと不安がるタクシー業界のために、わざわざ前後とも半楕円(だえん)リーフによるリジッドアクスルの「トヨペット・マスター」も併売されたのだから、そこにも時代がしのばれる。

1950〜1960年代のアメリカ車をほうふつとさせるラジエーターグリル。アメリカを豊かさの象徴としていた当時の風潮がしのばれる。
1950〜1960年代のアメリカ車をほうふつとさせるラジエーターグリル。アメリカを豊かさの象徴としていた当時の風潮がしのばれる。拡大
装備品は、カーヒーター、ラジオ、時計、自動飛び出し式のシガーライター、サンバイザーなど。オプションでは、身だしなみ用の電気カミソリや電気掃除機が用意されていた。
装備品は、カーヒーター、ラジオ、時計、自動飛び出し式のシガーライター、サンバイザーなど。オプションでは、身だしなみ用の電気カミソリや電気掃除機が用意されていた。拡大
シートは、スプリングの上に厚いベースクッションを敷き、その上に織り生地を表張りしたつくりになっていた。
シートは、スプリングの上に厚いベースクッションを敷き、その上に織り生地を表張りしたつくりになっていた。拡大

「ロー半転がし」で2速へ

さて、ではトヨタ博物館の奥からしずしず現れた観音開きのクラウンに乗ってみよう。なにより印象的なのは、ずっしり分厚い鉄板のボディー。とにかく今のクルマでは味わえない重量感に満ちている。あのころクルマはみんなそうで、僕の愛車は日産製の「オースティン」だったのだが(いきなり私的な話題ですみません)、いつもその量感に圧倒されまくりだった。

ブルンと目覚めるエンジンの感覚も半世紀前そのもの。もちろん現代最先端のクルマのように滑らかに吹けるのとは違い、アクセルを踏むとブブ~ッと、少し苦しげに回転が上がる。そんな調子を確認してから、コラムのシフトレバーを1速に落とし込む。シフトパターンは、ニュートラルから手前に引いて下に下げると1速、持ち上げて向こう側の上が2速、そのまま押し下げるとトップ(3速)、手前の上がリバースになる。整備状態が完璧なのでクラッチは穏やかにつながる。動きだしたらすぐ2速にシフトアップ。今とは比較にならないほどローギアリングが常識の時代だったから、1速は発進専用で「ロー半転がし」なんて言葉もあった(だから1速にはシンクロがなかった)。

さらにブブ~ッと加速して40km/hぐらいでトップへ。あとは動いているかぎり基本的にトップだけ、街角を曲がってから加速する時だけ2速に落とすのが定法だ。赤信号で止まるのもトップのままブレーキだけ。それに続いて急いでトップからローにUターン的にシフトレバーを操作すると、古くなったクラウンの場合、途中ニュートラルのところで引っ掛かって動かなくなることも多かった。その時はボンネットを開け、スカットルのすぐ前のシフトリンケージに指をかけ、2本が平行になってカチッというまで引っ張ることになっていた(このクルマは大丈夫だったが)。

サスペンションは、フロントがコイルバネ式の独立懸架、リアは3枚式リーフスプリングを採用した固定車軸式だった。
サスペンションは、フロントがコイルバネ式の独立懸架、リアは3枚式リーフスプリングを採用した固定車軸式だった。拡大
時速40km以上で、アクセルをゆるめると自動的にオーバードライブ(OD)に入る仕組み。追い越し時などはアクセルを強く踏み込むとキックダウンスイッチが作動、ODが解除された。
時速40km以上で、アクセルをゆるめると自動的にオーバードライブ(OD)に入る仕組み。追い越し時などはアクセルを強く踏み込むとキックダウンスイッチが作動、ODが解除された。拡大

「クッションがいい」

もともとパワーがないうえに(今の基準では)こういうギアの使い方だから、もちろん加速はかったるい。でもトップギアで流せるところまでこぎ着けると、けっこう交通の流れにも乗っていける。むしろ要注意なのはブレーキで、もちろんサーボなんかない時代だから、ずっと向こうまで見通して、うんと手前から減速と停止の準備をしなければならない。ただし踏力そのものは、僕が乗ってたオースティンよりずっと軽い。

ここで普通のロードインプレッションのようにハンドリングを語ったりするのは、初代クラウンにとって過酷すぎるかもしれない。まだそんなこと誰も意識しない時代だったし、乗用車は「クッションがいい」(乗り心地が柔らかい)かどうかが値打ちだったのだから。まあ、それにしてはダンパーも効いているし、そこそこのペースで走るぶんに支障があるわけではない。

あらためて見回すと、当時のアメリカ車にもよくあった横長式のスピードメーターや、そこらじゅうむき出しの鉄板など、ここにも時代の差を感じさせる部分は多い。ラジオの選局ボタンが5個だけなのも当時の特徴だ。初代の前期型にデラックスが追加された時はまだ真空管タイプで、ボタンも6個だった。それがこの年代でトランジスタ式になると同時に5個に減らされて、その後しばらくこれが常識になってしまった。ちなみに、1960年代に全車デフロスターが義務化されるまでは、安いスタンダードモデルにはラジオはもちろんヒーターも付かないのが普通だった。

ところで、乗りながらアレッと思ったのがステアリングホイール。あのころ友人も観音開きを持ってたんだが、たしかホーンリング(クロームメッキ)がカチカチ首を振ってウインカースイッチも兼ねてた記憶がある。僕自身2代目「コロナ」でも経験したが、ウインカーをつけようとしてラッパも鳴らしちゃったとか、けっこうあった。

そこで、最初のリポートでは「これ、違うんじゃないの」と書いたんだが、すみません、違っていたのは僕の記憶だった。ホーンリングがウインカー兼用になったのは今回のモデルの直後、1900が登場してからだった。熱心な読者(僕と同世代?)から連絡をもらって、やっと間違いに気づいたのだから恥ずかしいが、ここで訂正しておきます。この画像に出てくるステアリングホイールは、当時の純正そのままです。親切なご指摘、ありがとうございました。

(文=熊倉重春/写真=webCG/取材協力=トヨタ博物館)

62PSの1.5リッターエンジンは、1250kgのボディーを最高110km/hまで届かせた。カタログ燃費は15.0km/リッターと記されていた。
62PSの1.5リッターエンジンは、1250kgのボディーを最高110km/hまで届かせた。カタログ燃費は15.0km/リッターと記されていた。拡大
フロントサスのキングピン部にボールジョイントを使い、自由関節式としたのがこのクルマの自慢のひとつだった。
フロントサスのキングピン部にボールジョイントを使い、自由関節式としたのがこのクルマの自慢のひとつだった。拡大

【編集後記】

初代クラウン誕生までのいきさつに加え、自身の思い出なども交えてつづられた熊倉重春氏の試乗記。そこに描かれているのは、今とはまったく違う当時の日本の“時代感”と、自社開発にこだわったトヨタの取り組みの成果である。自動車史に詳しい方ならご存じのとおり、クラウンというクルマは、トヨタが他社とは違う道を選び、新しい挑戦に臨んだことで誕生した純国産車だった。

翻って16代目の新型を見ると、こちらも過去のクラウンにはない、あまたの新しい挑戦が盛り込まれている(参照)。初代がそうだったように、新型クラウンも70年続くクルマの礎となれるのか。いちクルマ好きとしては、そうであってほしいと期待してしまう。

(webCGほった<webCG”Happy”Hotta>)

標準外板色は、ペットブルーメタリック、リオンスグリーンメタリック、ゴールドブロンズメタリック、ブラックの4色が用意されていた。
標準外板色は、ペットブルーメタリック、リオンスグリーンメタリック、ゴールドブロンズメタリック、ブラックの4色が用意されていた。拡大

テスト車のデータ

トヨペット・クラウン デラックス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4365×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1250kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 OHV 8バルブ
トランスミッション:3段MT
最高出力:62PS(45.6kW)/4500rpm
最大トルク:110N・m(11.2kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)6.40-15/(後)6.40-15
燃費:15.0km/リッター
価格:103万円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:1960年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

「トヨペット・クラウン デラックス」とモータージャーナリストの熊倉重春氏。
「トヨペット・クラウン デラックス」とモータージャーナリストの熊倉重春氏。拡大
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