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第260回:雨のモリゾウエディション

2023.06.12 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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土砂降りでも怖くないハイパーマシン

思えば豊田章男社長は偉大だった。現会長を過去形で語るのも失礼だが、章男さんの社長時代、トヨタは経営面だけでなく、カーマニア的にも大いなる成果を挙げた。カーマニアが大喜びするクルマを、これでもかとたくさんリリースしてくださった。

極めつけの一台が、「トヨタGRカローラRZ“モリゾウエディション”」だろう。販売台数わずか70台。もちろんとっくに売り切れているが、幸運にも乗る機会がありましたので、ご報告させていただきます。

試乗した日は土砂降りだった。ハイパワーマシンに乗るには最悪のコンディションだが、私は一度たりとも恐怖を感じなかった。

ドライブモードを「スポーツ」に入れ、最高出力304PS/最大トルク400N・mのマシンでアクセル全開をかましても、まったく何も起きない。トラコンを切らなかったので、ひょっとして超絶精緻な制御でパワーを絞ったのかもしれないが、極太タイヤはひたすら路面をグリップし続け、前後トルク配分をパカパカ変更してみても、変化すら感じ取れなかった。鈍感でスマン。

ただ、それほどバカッ速ではなかった。車両重量1440kg、パワーウェイトレシオは4.7kg/PS。わが愛機「フェラーリ328GTS」のパワーウェイトレシオは5.1kg/PSだ。クラシックフェラーリも、加速だけなら結構速いのである。

販売台数わずか70台の限定モデル「トヨタGRカローラRZ“モリゾウエディション”」に試乗。その日は土砂降りでハイパワーマシンに乗るには最悪のコンディションだったが、一度たりとも恐怖を感じなかった。
販売台数わずか70台の限定モデル「トヨタGRカローラRZ“モリゾウエディション”」に試乗。その日は土砂降りでハイパワーマシンに乗るには最悪のコンディションだったが、一度たりとも恐怖を感じなかった。拡大
「GRカローラRZ "モリゾウエディション”」は、モリゾウことトヨタの豊田章男社長が自ら試作車のハンドルを握り、「お客さまを魅了する野生味」を追求してつくり込んだとされるモデルだ。車両本体価格は715万円。
「GRカローラRZ "モリゾウエディション”」は、モリゾウことトヨタの豊田章男社長が自ら試作車のハンドルを握り、「お客さまを魅了する野生味」を追求してつくり込んだとされるモデルだ。車両本体価格は715万円。拡大
1.6リッター直3の「G16E-GTS」エンジンを最高出力304PS、最大トルク400N・mに強化して搭載。ギア比を最適化した6段MTと組み合わされる。
1.6リッター直3の「G16E-GTS」エンジンを最高出力304PS、最大トルク400N・mに強化して搭載。ギア比を最適化した6段MTと組み合わされる。拡大
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カローラがポルシェみたいになるなんて

私は30年前から、フェラーリ崇拝者として、こういったフル武装のバカッ速国産スポーツに激しい闘志を燃やしてきた。当時は「三菱ランサーエボリューション」がその最右翼。昔のカーマニアは速さがすべてだったので、「フェラーリなんて高いだけでランエボより全然遅い。ダセー!」みたいなハガキを、担当していた読者投稿欄に送り付けられ、ひそかに怒りに燃えたこともある。

つまり私にとって、「インプレッサ」を含むランエボ系のマシンは、最大のライバルなのである!

確かにランエボ系のマシンは、安くて速い日本の宝だ。ランエボやインプ亡き後、「GRヤリス」や「GRカローラ」をリリースしてくださったモリゾウ様は真に偉大だが、高くて遅い(注・現在は超高くて超速い)フェラーリ崇拝者の私にとって、それらが宿敵であることに変わりはない。

私は自分のイベントで、わがフェラーリ328と「ランエボVI」「ランエボX」、そしてR32型「スカイラインGT-R」との加速対決を行い、ランエボVIに僅差で負けた以外は勝っている。距離が短いうえに低速からのローリングスタートだったので、国産ターボ勢はターボラグが致命傷になり、レスポンスにまさる328が逃げ切ったのだ。気迫の勝利であった。(当連載の119回120回参照)

私はそれくらい、国産バカッ速マシンに敵対心を燃やしている。ドライ路面の直線加速なら、328でモリゾウエディションに勝てるかもしれん!

そんなことを夢想しながら走っていたが、ふと気づくとこのクルマ、恐ろしいほどボディー剛性が高い。まるでポルシェだ。サスは意外にしなやかで乗り心地が非常にイイ。これまた現代のポルシェ的。まさかカローラがポルシェみたいになる日が来るとは思わなかった。

このボディーとサス、4WDに対して、304PSは安全すぎる。そして定価は715万円。

「GRカローラRZ“モリゾウエディション”」のボディーカラーはしぶい「マットスティール」(写真)と「プレシャスメタル」の2色が用意されている。
「GRカローラRZ“モリゾウエディション”」のボディーカラーはしぶい「マットスティール」(写真)と「プレシャスメタル」の2色が用意されている。拡大
かつて自分が主催したイベント「大乗フェラーリミーティング」で、赤い玉号ことわが「フェラーリ328GTS」と、R32型「スカイラインGT-R VスペックII」との加速対決を行った。結果は328の圧勝でした!
かつて自分が主催したイベント「大乗フェラーリミーティング」で、赤い玉号ことわが「フェラーリ328GTS」と、R32型「スカイラインGT-R VスペックII」との加速対決を行った。結果は328の圧勝でした!拡大
「フェラーリ328GTS」と「ランエボVI」の加速対決シーン。出足からまったく互角で手に汗握る勝負だったが、結果は30cmくらいの差で328GTSの敗北となった。くやしい。
「フェラーリ328GTS」と「ランエボVI」の加速対決シーン。出足からまったく互角で手に汗握る勝負だったが、結果は30cmくらいの差で328GTSの敗北となった。くやしい。拡大
2009年の自主製作DVD『買うしかないぜ! 激安フェラーリ」で、流し撮り職人兼レーサー池之平昌信カメラマンの愛車「ランエボX」と、わが「フェラーリ328GTS」の加速対決を行った。距離が短い低速からのローリングスタートでの勝負を、328GTSが見事に制した。
2009年の自主製作DVD『買うしかないぜ! 激安フェラーリ」で、流し撮り職人兼レーサー池之平昌信カメラマンの愛車「ランエボX」と、わが「フェラーリ328GTS」の加速対決を行った。距離が短い低速からのローリングスタートでの勝負を、328GTSが見事に制した。拡大

章男さんの大勝利

715万円という数字を見て頭に浮かんだのは、「レクサスIS500」だった。あちらは800万円。あんまり差がない!

思えば章男社長は、IS500も出してくださったんだよなぁ。本当にありがとうございます。715万円のGRカローラRZ“モリゾウエディション”と800万円のレクサスIS500を比べれば、個人的には圧倒的にIS500が魅力的かつ割安に感じる。私はモリゾウエディションのような、モータースポーツ向けの完成されたマシンより、公道向けの弱点のあるマシンで、たまにサーキットを走ったりするほうが好きなので。

公道向けのマシンでサーキットを走ると、いろいろ怖いことが起きる。私が買ったフェラーリはみんなそうだった。そこにロマンを感じる。IS500もサーキット向けじゃないので、冷却系やブレーキが多少厳しかったりするだろう。

その点モリゾウエディションは、全方位的になんの心配もない。公道ではなおさら万全だ。そこに物足りなさを感じる。

こういう、完成度の高いクルマを好む方は非常に多い。その代表がポルシェだ。つまりポルシェファンはモリゾウエディションを、フェラーリファンはIS500を買え! ってことですか? どっちも買いたくても買えないけど! ポルシェやフェラーリのほうがまだ手に入れやすいんだから、時代は変わったものだ。章男さんの大勝利!

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

ワイドフェンダーや大開口のフロントグリル、パワーバルジ付きのボンネットなどのエクステリアは、基本的に「GRカローラRZ」と共通。
ワイドフェンダーや大開口のフロントグリル、パワーバルジ付きのボンネットなどのエクステリアは、基本的に「GRカローラRZ」と共通。拡大
インテリアではホールド性に優れる専用のセミバケットシートや、ウルトラスエード表皮のステアリングホイールが目を引く。リアシートを取り去って2シーターにするなど、軽量化も徹底されている。
インテリアではホールド性に優れる専用のセミバケットシートや、ウルトラスエード表皮のステアリングホイールが目を引く。リアシートを取り去って2シーターにするなど、軽量化も徹底されている。拡大
「GRカローラRZ“モリゾウエディション”」はメーカー純正のチューニングカーともいうべき存在だ。ウインドシールドガラスには「Morizo」のサインが入る。
「GRカローラRZ“モリゾウエディション”」はメーカー純正のチューニングカーともいうべき存在だ。ウインドシールドガラスには「Morizo」のサインが入る。拡大
6段MTの1速と3速のギア比を「GRカローラRZ」から変更したほか、ディファレンシャルギアをローギアード化して加速性能を向上させた「GRカローラRZ“モリゾウエディション”」。オートブリッパーが自動でエンジンの回転数を合わせてくれる「iMT」も採用している。
6段MTの1速と3速のギア比を「GRカローラRZ」から変更したほか、ディファレンシャルギアをローギアード化して加速性能を向上させた「GRカローラRZ“モリゾウエディション”」。オートブリッパーが自動でエンジンの回転数を合わせてくれる「iMT」も採用している。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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